Feather 11 ଓ 勝算 〜chances of winning〜
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目の前で、【彼女】がゼルグに【力】を与えている。
このまま行けば、テレスファイラも危険にさらされるだろう。
だが……――。
「……っ!? どうした?」
――ぴたりと、【力】が止まる。
問い掛けられても、【彼女】は無表情でその場に立ち尽くしている。
――そう。本来ならば、〝彼女〟の〝力〟はそんなものではない。何せ、テレスファイラを守護することができるほどなのだから。
思わず、アリィーシュは不敵に笑いをこぼしていた。
そう、彼女〟を一目見た瞬間から、アリィーシュは「あること」に気付いていた。――エリンシェは〝幸いの天使〟を〝彼〟に託している。そうすることで、自分が【敵】の手に堕ちてしまうことを承知の上で。
〝彼女〟のその決断が功を奏した。――ある程度の【力】はゼルグに渡ってしまうものの、世界に危険が及ぶものではないところで留めることに成功した。
「なぜだ、エリンシェ!?」
ゼルグにしてみれば誤算だっただろう。〝彼女〟を手にすることで、テレスファイラを支配できるとそう信じ込んでいたのだから。
理由を尋ねられても、やはり【彼女】は答えない。そのまま沈黙を続けるかと思いきや、微かにその唇が揺れた。
「――でしょ」
「……は?」
ゼルグが眉間にしわを寄せて、聞き返す。
「言ったでしょ。 ――いくら『カラダ』の自由を奪っても、『こころ』が私のものである限り、私は絶対に屈しないって。 絶対に、あなたの好きにはさせない。 ――私はテレスファイラをまもるんだから」
無表情のまま、淡々と【彼女】がそう言い切ってみせる。
――〝彼女〟だ、とアリィーシュは歓喜する。……けれど、まだ【敵】の【虜囚】から逃れることはできそうになかった。
舌打ちをしたゼルグが【彼女】の肩を激しく揺らす。しばらくすると、【彼女】ははっと息を呑んで、何が起きたか分からないという表情でゼルグの顔を見つめていた。
依然、〝彼女〟は堕ちたままだ。だが、勝算は見えた。――たとえ【敵】に堕ちていても、エリンシェがその「覚悟」を貫く限り、アリィーシュもその「覚悟」に応え、〝彼女〟のことを支えると固く誓っているのだ。
「……ゼルグ様?」
戸惑ったように声を上げる【彼女】を目の前に、ゼルグが頭を抱えている。そして、今まで勝ち誇っていた様子がまるで嘘だったかのような、弱々しい声でぽつりとつぶやく。
「どうすれば、『お前』を完全に堕とせる……?」
――決して、お前には分かるはずもあるまい。確かに、〝彼女〟を堕とすところまではゼルグの方が上手だっただろう。けれど、それ以上に、〝彼女〟の「こころ」と「覚悟」の強さが遥かに上だったということだ。……そして、その強さはアリィーシュにすら予想ができていないほどだったのだ。
アリィーシュはすっと立ち上がり、〝杖〟をゼルグに向ける。
――あとは〝彼〟を待つだけ。
羽を広げ、アリィーシュはゼルグの方へと躍り出るのだった。
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目の前に広がるのは永遠に続く【闇】――そんな中を、〝彼女〟は「カラダ」をがんじがらめにされ、彷徨っていた。
【闇】は〝彼女〟を取り込もうとしている。あと「ひとつ」――それさえ手にしてしまえば、〝彼女〟を意のままにすることができるのだ。
けれど、〝彼女〟の方も「それ」を理解していて、決して思い通りになるまいとしていた。頼りにできる「半身」を「とある人物」に託している今、何とか【侵蝕】を最小限に抑えることが〝彼女〟にできる精一杯だった。
……だが、何とか【侵蝕】を食い止めていることが【カレ】に勘付かれてしまった。
――どうすれば、完全に堕とすことができるのか。【カレ】のそんなつぶやきを耳にした気がして、〝彼女〟は少しばかり戦慄する。けれど、決して諦めたわけではない。何があろうと、最後まで「覚悟」を貫き通すつもりだった。
ふと、きらりと「光」がきらめいた気がした。
――【カレ】が動いてしまうよりも先に、もう一人の「半身」が仕掛けたのである。不意打ちにも応戦した【カレ】が、〝彼女〟に代わって「カラダ」を支配している【モノ】に助太刀するよう、指示する。
……そんなこと、絶対させない。――「彼女」も自分がまもるべき大切な「存在」なのだ。そんな「意志」を強くして、〝彼女〟は「カラダ」を食い止める。
すると「カラダ」は動かず、その場に立ち尽くしていた。その様子に、【カレ】は苛立っているようだった。
そうこうしているうちに、またきらりと、先程よりも強い〝光〟がきらめいた。
はっと顔を上げ、〝彼女〟は【闇】を打ち破り、その〝光〟に向かって手を伸ばすのだった。
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「やああああぁぁぁぁ!!」
雄叫びを上げながら、アリィーシュはゼルグに飛びかかる。
こちらには目もくれていなかったはずなのに、ゼルグが攻撃をかわす。顔を上げると同時に、アリィーシュをにらみつける。だがすぐに、何かを思いついたかのように【彼女】の方を振り返る。
「エリンシェ、やれ!」
……なんて卑怯な。【彼女】が相手なら、こちらが本気でかかってこれないと、そう思ったのだろう。ゼルグの言葉に、アリィーシュは一瞬焦りを感じたが、すぐにそれを打ち消した。……いや、〝彼女〟なら決して【カレ】の思惑を許さないだろう。
案の定、【彼女】は動こうとしなかった。やはり〝彼女〟の「思い」の方が【敵】を遥かに上回っている。
苛立ちを隠せない様子で、ゼルグが【彼女】に思い切り掴みかかろうとした。
――その時だった。
「〝彼女〟に触るな!!」
――一筋の「光」がその場に降り立った。
……これでまた一つ、勝算が見えた。アリィーシュは再び不敵に笑いをこぼして、「光」のすぐ側へ向かう。
「待ってたわよ、ジェイト君」
そんなつぶやきにうなずいてみせると、〝彼女〟のペンダントを首に掛けた〝彼〟は〝疾風の弓矢〟を手にして、勇ましい声で〝彼女〟の名前を呼ぶのだった。
「――エリンシェ、迎えに来たよ!」




