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Angelic Storia  作者: 紡生 奏音
Wing Ⅰ Episode 4 翼――それは〝幸福〟をもたらす〝もの〟
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Feather 8 ଓ 【堕】 〜【fall Ⅲ】〜


    ଓ


「う……っ」

 全身に走る痛みに、アリィーシュは意識を取り戻す。

 視界も悪く、何度も瞬きをするとようやく目が見えるようになった。

 ――真っ先に見えたのは鉄格子だった。そこで、アリィーシュは自分が檻の中に入れられていることを見て取った。そして、辺りを見回し、其処(ソコ)が以前エリンシェが連れ去られていた場所であることにも気が付いた。

 ……あの時、自分は【(ゼルグ)】に掴まってしまったのだ。そう考え、アリィーシュはすぐにエリンシェのことを気に掛けた。〝彼女〟は無事だろうか。きっと自分(アリィーシュ)のことを(オトリ)にして、【(ゼルグ)】は〝彼女〟に接触したに違いない。

 とにかく此処(ここ)から抜け出せなければ。痛む身体に(むち)打ち、アリィーシュは鉄格子を掴んで身を起こす。

 ――その時、アリィーシュは信じられない「モノ」を目にした。

「エリンシェ……!」

 まるで玉座の間のような広間の中心に、〝彼女〟がうつむいて佇んでいたのだ。

 アリィーシュが呼び掛けても何の反応もない。……アレ(・・)は本当にエリンシェだろうか。

「おや、観客が増えたみたいだ」

 そう疑い始めた瞬間(とき)、どこからかゼルグの声が聞こえた。アリィーシュが振り返ると、すぐ側に勝ち誇った微笑()みを浮かべたゼルグが檻の中を覗き込んでいるのが目に映った。

 アリィーシュが睨みつけても意にも介していない様子で、ゼルグは悠々自適に広間の方へと歩いていき、〝彼女〟の前に立った。

 そこで初めて〝彼女〟が顔を上げる。……やはりソレ(・・)エリンシェ(〝彼女〟)のように思えた。

 【彼】をじっと見つめて動かない〝彼女〟に、ゼルグが漆黒の衣を羽織らせる。

「……さて。 まだほんの少し抵抗があるようだけど、ようやく【薬】が効いて、隅から隅までキミの『カラダ(・・・)』はボク()モノ(・・)になった。 あと、残るは一つ――ココだ」

 そう話しながら、ゼルグが〝彼女〟の胸を指差す。

 わずかに〝彼女〟の手がぴくりと動いた気がして、アリィーシュは前に出る。……〝彼女〟にはまだ確かに抵抗の意志がある! 手遅れになる前に、ここから出なければ!

 けれど、檻は頑丈でアリィーシュが〝力〟をぶつけても、傷一つつかなかった。

 そうしているうちに、ゼルグが「決定打」を放つ。

「キミがどれだけ抵抗をしたって無駄(ムダ)だ。 あとはキミの口から一言(ヒトコト)出すだけ。 ――私の『こころ』をゼルグ様とヴィルド様に差し出します、と。 その一言(ヒトコト)だけで引き金が引くようになってる。 ――さあ、エリンシェ(・・・・・)。 諦めて自らそう口にしろ。 ――そして、ボク()モノ(・・)になれ」


    ଓ


 ……もう、どれくらい時間が経っただろうか。

 「カラダ(・・・)」が【(むしば)まれ】て――自分のモノ(・・)ではなくなってからずいぶん経ったような気がする。今はもう、指一本すら自分の意志で動かすことすらできなくなっていた。

 けれど、まだ諦めていなかった。いつかカレ(ヴィルド)に言ったように、いくらか「カラダ(・・・)」の自由を奪ったとしても、「こころ」が自分のものである限り、絶対に屈しないとそう誓っていたのだ。

 そう、「こころ」はまだ自分のものなのだ。


 ――私はエリンシェ。いずれ、大切なひとたちが生きるテレスファイラ(このせかい)とその幸福(しあわせ)守護する(まもる)者だ。


 その「覚悟(・・)」がある限り、私は決して希望を捨てず、諦めない。

 どれだけ【蝕み(・・)】に侵されようとも、「こころ」だけは守り抜き、抵抗を続けていた。

 けれど〈相棒(・・)〉がそばにいない中、自分を守り続けるのは少しばかり苦労があった。その隙を【蝕み(・・)】が突こうと躍起になっていたが、決して抵抗を諦めなかった。……それに、〈彼女(・・)〉をそばに置かなかったのは「突破口」を開くためなのだ。その選択をしたことに、この先に後悔が生まれるはずはなかった。

 だが、そんな抵抗も虚しく、少しずつ【侵蝕(・・)】は進んでいるようだった。


 そんな時、聞き覚えのある声が耳に届いた。

「――エリンシェ……!」

 アリィーシュの声だった。何とか彼女に応えたいと思ったが、やはり「カラダ(・・・)」は言うことを聞かなかった。

 何もできずにいると、目の前にゼルグが現れた。

 その瞬間「カラダ(・・・)」がざわつく。唯一残る「こころ」に、早く目の前の者に全て(・・)を差し出せとささやきかけてくる。

 無論「ソレ」をはねのけ「こころ」を守っていると、ゼルグが「カラダ(・・・)」に漆黒の衣を(まとわ)せた。

 ……あぁ、(コレ)はゼルグからの「宣告」であり「(いまし)め」なのだ。――お前(エリンシェ)ゼルグ(自分)モノ(・・)だと教育させる(わからせる)ための。

 ゼルグのそんな行動に嫌悪感を抱いていると、【(カレ)】がとんでもないことを口にした。

「――キミがどれだけ抵抗をしたって無駄(ムダ)だ。 あとはキミの口から一言(ヒトコト)出すだけ。 ――私の『こころ』をゼルグ様とヴィルド様に差し出します、と。 その一言(ヒトコト)だけで引き金が引くようになってる。 ――さあ、エリンシェ(・・・・・)。 諦めて自らそう口にしろ。 ――そして、ボク()モノ(・・)になれ」

 ……絶対にそうはさせない。そんな思いがほんの少しだけ、手を動かしたが、やはり「カラダ(・・・)」はあくまでゼルグの味方でしかなかった。

 しばらくの間、沈黙が降りる。

 ――が、「カラダ」が息を吸って、ゼルグの言われた通りにしようとした。

「……ワタシ、エリンシェ、ハ――」

 もう、抵抗もかなわなかった。……ここまでか。諦めたわけではないが、逃げ道はないらしい。だが……。

「……ワタシノ、『ココロ』ヲ、ゼルグ様(・・・・)ト、ヴィルド様(・・・・・)ニ――」

 ――だが、一つだけ言えることがある。

「――差シ出シマス」


 ――決して、「この()言葉()」は自らの意志(・・・・)などではない(・・・・・・)


 言い終えた瞬間、どっと【衝撃(・・)】が押し寄せた。

 目の前で、ゼルグが微笑(わら)う。


 ――必ず、私は〝彼〟の元へかえってみせる!


 そう最期に誓って、〝彼女〟は「意識」を手放したのだった。

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