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Angelic Storia  作者: 紡生 奏音
Wing Ⅰ Episode 4 翼――それは〝幸福〟をもたらす〝もの〟
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Feather 6 ଓ 【落】 〜【fall Ⅱ】〜


    ଓ


「……アリィ?」

 不意に、まるで大切な「何か」――「半身」を失ったかのような……そんな感覚に陥り、エリンシェは顔を上げる。

 はっとして辺りを見回す。……そういえば、しばらくアリィーシュの気配を感じていない。いや、むしろ……――。

「……っ」

 ――いや、そんなはずがない!! エリンシェは集中して、アリィーシュの気配を探す。……だが、見つからない。――探しても探しても、アリィーシュは見つからなかった(・・・・・・・・)

 たまらず、エリンシェは駆け出す。一直線に、ガイセルの研究室に向かい、気のせいであってほしいという願いをこめ、勢いよくその扉を開けた。

 ……けれど、アリィーシュはどこにもいなかった(・・・・・)。そこには怪訝そうな表情を浮かべて、様子を伺っているガイセルがいるだけだった。

「ねぇ、ガイセル、アリィが来てない!?」

 聞いても無駄だと理解して(わかって)いつつも、エリンシェはそう尋ねる。すぐにガイセルが首を横に振って応えるのを見て、絶望する。……気のせいじゃ、ない。

「アリィが――アリィーシュが……【敵】につかまった!」

 ――気配が見つからない(・・・・・・)のだ。そう考えるしかなかった。

 それを聞いたガイセルが目を丸くした。そして、少し視線を彷徨さまよわせながら何かを考えた後、深く息を吸うと口を開いた。

「……エリン、彼女を探そうとは思わないことだ。 そんなことをしたら君もつかまる。 とりあえず身を潜めて、できることをするんだ。 アリィもきっと……君を危険な目に遭わせたくないってそう思ってるはずだ」

 きっとガイセルならそう言うと、エリンシェは理解して(わかって)いた。けれど、平静を装いつつそう諭す彼は明らかに動揺していた。――エリンシェを守らないといけないという思いももちろんあるが、その一方でアリィーシュのことが気に掛かって仕方がないのだ。

 すぐに返事ができず、エリンシェは黙り込む。……では、一体どうすればいいのか。このままじっとしていてもどのみち「時間の問題」ではないか。頼みの綱であるアリィーシュを失ってしまった今、できることも限られている。それに、「無力」化されているとはいえ、彼女も……そしてガイセルもまもりたいと思わずにはいられないのだ。

 ふと、エリンシェは大神(おおがみ)ディオルトからの言葉を思い出す。――今まで信じてきたものをこれまで以上に信頼するように。できることがあるとするならば、きっとその言葉(其処)に何か答えが隠されているのだろう。思い当たることがあるとするならば……――。

「――うん、分かった」

 そう返事をしながら、エリンシェはペンダントを握る。――きっとこれ(・・)しかない。すぐにジェイトのところへ行かなければ。

 立ち上がりながら、エリンシェは「カラダ(・・・)」が小さく震えるのを感じていた。……あまり時間はなさそうだ。間に合うだろうか。

 ほんの少しだけ、ガイセルに後のことを託すことも考えたエリンシェだったが、戦えない彼を巻き込むわけにはいかないと考え直した。……第一、そんなことをしたらアリィーシュが悲しむ。

 何も言わず、エリンシェは研究室を後にする。

 ……どうか間に合いますように。そんなことを考えながら、エリンシェはジェイトの元へと急ぐのだった。


     ଓ


 息が、苦しい。どれだけ歩いただろうか。

 エリンシェは伝っていた壁に寄りかかりながら、深く息をする。……想定していたよりもずっと、事は悪化していた。

 しばらくは何事もなく、足を進めることができていた。けれど、だんだん「カラダ(・・・)」が言うことをきかなくなり、まるで自分のものでないように感じる足を何とか動かして、ジェイトの元へと向かっていた。そのうち、歩くことすら難しくなり、エリンシェは壁を伝いながら無理にでも進んでいた。

 そうしていると、今度はどこからかゼルグの【声】が聞こえるようになった。【守護神(おもり)を返してほしければ、抵抗をやめろ】【何もかも諦めて「その身(・・・)」を差し出せ】……――そんな【声】もはねのけ、エリンシェはひたすらに歩みを進めていた。抵抗する度「カラダ(・・・)」は重くなり、ついには息をするのすら苦しくなっていた。

 ……それだけではない。少しずつ、ゼルグが近付いているのが、エリンシェにはわかっていた(・・・・・・)。――手遅れになる前に、ジェイトのところへ行かなくてはいかない。だが……。

 もう一度大きく息をして、エリンシェはペンダントを握る。少しだけ……その場に座り込みながら、〝幸いの天使(フィルネリア)〟に呼び掛ける。

(――……フィー)

〈はい、(あるじ)様〉

(私は……残念だけど、じきに【(ゼルグ)】につかまってしまう――私にはそれがわかる(・・・)の。 だけど、私、「最後の最後の瞬間」まで諦める気は全然ないの。 ――「こころ」も決して明け渡す気はない。 だけど……もしも――「もしも」の時に備えてあなたに託しておきたいことがある)

〈もちろん(うけたまわ)ります、主様〉

 内容も聞かずに二つ返事をするフィルネリアの言葉に安堵して、ほっと息をつく。……わざわざ説明する(言う)必要もないのかもしれない。――〈彼女〉はきちんと理解して(わかって)いるようだ。それなら、後のことは〈彼女〉に任せておけば安心だ。

 最後(・・)の力をふり絞り、エリンシェは立ち上がる。……「時間の問題」ならば、せめて誰も巻き込みたくない。息を吸うと、エリンシェは〝転移(ソアー)〟を唱えるのだった。


 とんだ先は丘だった。

 もう動かない「カラダ(・・・)」を投げ出し、その場に横たわる。

 ……怖い。ゼルグがまっすぐにこちらへ向かってくるのが分かる。涙を浮かべ、エリンシェはひたすら虚空を眺めていた。

 ふと、ぴくりと「カラダ(・・・)」が跳ねる。

「いい子だ、自分から出てきたんだね? ……さあ、悪いようにしないから、此方(コッチ)へおいで」

「――……ハイ」

 生気のない声で返事をして、「カラダ(・・・)」が独りでに動いて【彼】の元へ向かう。


 ――幸いの天使(フィルネリア)〟、あとはお願い。


 ――勝ち誇ったような笑みを浮かべる【(ゼルグ)】に抱かれる〝彼女〟の胸元には、ペンダントが光っていない(・・・・・・)のだった。

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