Feather 4 ଓ 【形勢一変】 〜【complete change】〜
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……とは言ったものの。
「心」を取り戻すにはどうすれば良いのか皆目検討もつかず、エリンシェは途方に暮れていた。けれど、こればかりは一人で解決できるものではないと判断し、ミリアとカルドのふたりを頼ることにした。
「――『心』を取り戻すぅ!?」
事情を聞くなり、ミリアが驚いて声を上げる。
……やはり「無茶」が過ぎるのだろうか。そうとは分かっていても、エリンシェも引くわけにはいかなかった。
言葉を失っていたミリアだったが、エリンシェの意志が固いことがわかったのだろう。困ったようにかきむしりながら、口を開いた。
「わ……かった、皆で協力して何とか頑張ってみよう。 『記憶』だって取り戻したもんね。 できることはやってみないと、ねっ?」
「あぁ、そうだな。 俺も手伝うよ」
少し戸惑ってはいるようだったが、カルドもうなずいてみせた。
だが、その場にいる誰もがどうすれば良いのか分からずじまいだった。……エリンシェすら何も思いついていないのだ、無理もなかったが。
けれど、ミリアとカルドが協力すると言ってくれただけで、エリンシェはとても心強く、少しでも前に進めそうな気がした。
「で? 本当のことを話すかどうかは悩むところだけど……それはともかく、ジェイトには会ってちゃんと話してみたの?」
ふと、ミリアがそんなことを尋ねる。エリンシェは首を横に振りながら、「アリィの話を聞いてからはまだ」と答えた。
「一度ジェイトの『気持ち』を聞いてみた方がいいと思う。 エリンなら、それで何かわかるってそんな気がするから」
……ミリアの勘は時々当たる。根拠はほとんどなかったが、エリンシェも彼女の提案を聞いて、一度ジェイトと話をした方が良いかもしれないとそんな気がしていた。
――少なくとも、希望があるのかそうでないのか、はっきりするだろう。
「そう……だね。 ちょっと怖いけど、ジェイトと話してみる。 後のことはそれから考えることにする」
エリンシェは覚悟を決め、すぐにジェイトの元へ向かうのだった。
――そして、その少し後。
エリンシェはジェイトを自室に呼んで、ふたりきりで話をすることにした。ミリアはカルドと共に隣の部屋で待機していて、アリィーシュも身を隠してはいるが近くでエリンシェのことを見守っていた。
いざジェイトを目の前にすると、エリンシェは何を話せばいいか分からず、黙り込んでしまっていた。
「どうしたの?」
そんなエリンシェのことを見かねたのか、ジェイトが自ら進んで、優しく微笑んで問い掛けた。……あまり深く事情を聞かず、変わらず優しい〝彼〟の顔を見ていると、エリンシェはますますどう切り出せばいいのか分からなくなってしまった。
……けれど、何も聞かないでいてくれる〝彼〟だからこそ。エリンシェはそう考えて、思い切って直接聞いてみることにした。
「ね……ねぇ、ジェイト。 私のこと、どうおもってる?」
一瞬戸惑ったような表情を浮かべたが、やはりエリンシェがなぜそんなことを聞くのかには触れず、ジェイトは優しい笑顔のまますぐに応えた。
「――もちろん好きだよ」
いつもならジェイトのその言葉を嬉しく思っていたいただろう。けれど、エリンシェはその一言だけでわかってしまったのだ。
――確かに、ジェイトには「好き」以上の感情がない。そう理解してしまうと、思わずエリンシェは泣いてしまいそうになった。……けれど。
同時に、ジェイトには確かにエリンシェのことをおもう「心」が残っているのが理解できる。――〝彼〟の「心」は完全に奪われてしまったわけではないのだ。そうである限り――希望を捨てない限り、きっと「心」を取り戻すことができる。
何も言わず、エリンシェはジェイトを抱きしめていた。流れてしまいそうな涙をこらえ、〝彼〟のあたたかさに触れながら、エリンシェは再び決心する。――必ず、ジェイトの「心」を取り戻してみせる、と。
やはり何も聞かず、ジェイトがそっとエリンシェを抱きしめ返した。
その優しさにうっと声を上げそうになるのをこらえ、エリンシェは必死に考えていた。
……だが、これからどうする? 現在の段階では何の打開策もない。〝神殿〟でセルゥーガに話を聞くことも考えたが、結界の外に出るのも難しいだろう。となれば……。
ふと、エリンシェの頭にとある「人物」が思い浮かぶ。その結界を強くした「人物」――「彼」ならば、何か助言をしてくれるかもしれない。そう考え、ジェイトから離れようとした。
――その時だった。
不意に、エリンシェの「カラダ」に【衝撃】が走る。まるで「自分」が自分でなくなるような感覚に陥り、エリンシェは思わず、しがみつくようにして再びジェイトに抱きついていた。
「……エリンシェ!?」
その異変にはさすがにジェイトも声を上げた。
けれど、エリンシェは〝彼〟に応えることができず、荒くなる呼吸を何とか整えながら、何度も自分に言い聞かせる。――大丈夫、私は此処にいる! 必ず――この「こころ」だけは守り切らなければ!!
そうこうしているうちに、だんだん【衝撃】はおさまっていく。深呼吸をしながら、エリンシェは唇を噛みしめた。
動いた――ついに、ゼルグが動き出したのだ!
……どうやらそれほど時間は残されていないらしい。エリンシェは苦笑を浮かべながら、そう思った。ひとまず、できることをしなければならない。
「ごめん、なんでもないの。 ありがとう」
なんてことないようにエリンシェは言ってみせ、ジェイトから離れる。見ると、〝彼〟はどこか不安そうな顔をしていた。それでもやはり何も聞かなかったが、少しして、何かを決心したかのような表情を浮かべると、強い口調で声を上げた。
「エリンシェ、僕がきみをまもるから」
――まもるのは私の方だよ、ジェイト。
うなずきながら、エリンシェは心の中で〝彼〟にそう応えるのだった。
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――そっと、【彼】は目を開いた。
かつてヴィルドの使っていた「屋敷」で【力】を溜め、来たる年をずっと待っていたのだ。――ずいぶん長い間もったいぶっていたおかげで、ようやく「時」は来たのだ。時間を掛けたおかげで、カラダもよく馴染んでいる。
……全ては。――全ては自分の手のうちでまわっている。そして、あと少しでその「全て」が手に入る。そう考えると笑いが止まらなくなりそうだった。
一歩、踏み出し、空を見上げる。漆黒の翼を広げ、手を掲げて、空を勢いよく掴む。
「……まずは守護神からだな」
ぽつりとつぶやくと、【彼】は勢いよく跳び上がった。そしてそのまま、どこかへと姿を消したのだった。




