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Angelic Storia  作者: 紡生 奏音
Wing Ⅰ Episode 4 翼――それは〝幸福〟をもたらす〝もの〟
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Feather 2 ଓ 「無力」 〜deadness〜


    ଓ


 ――それから、数日後。エリンシェは学舎(まなびや)へとおもむいた。

 道中合流したジェイト・ミリア・カルドはどこか緊張した表情を浮かべていた。アリィーシュは姿を消し、エリンシェのことを守っていた。もちろん、〝彼女〟自身もペンダントから手を離さず、何があっても大丈夫なように身構えていた。

 その甲斐あって、エリンシェは何事もなく学舎へたどり着くことができた。

 一歩足を踏み入れた瞬間、エリンシェは結界が強化されていることに気付いた。これなら大丈夫だろうかと考えていると、すぐにアリィーシュから忠告が入った。

(結界の中とはいえ、油断しちゃだめ。 独りで行動なんて絶対にしちゃだめよ。 ――私か……せめてジェイト君と一緒に行動するのよ)

 小さくうなずきながら、エリンシェは上に視線を向ける。……この結界はおそらく、大賢者グレイムと大神(おおがみ)ディオルトによって強化されたのだろう。けれど、アリィーシュはそれでも油断するなと忠告している。それほどまでに、【敵】――ゼルグの【力】は強大になっているというのだろうか。

 少し不安になってしまったが、エリンシェはすぐに負の感情を振り払うように、(かぶり)を振る。弱気になってはいけない。エリンシェは心に誓ったのだ。――必ず活路を見出し、諦めずにたたかう、と。


 そんなことを考えているうちに、エリンシェはジェイト・ミリア・カルドと共に寮室へとたどり着いていた。

 中に入るなり、荷物を投げ出すと、エリンシェは気付かないうちにジェイトに抱きついていた。理由も聞かず、とっさに受けとめ肩を抱く〝彼〟のあたたかさを感じながら、エリンシェは先ほど思い出した決心を胸に刻んだ。

 ……大丈夫、私は此処に居る(・・・・・)。――「こころ」が此処に在る限り、私は決して負けない。何度も何度も、エリンシェは自分自身に言い聞かせる。

 少し経ってようやくジェイトから離れると、エリンシェは現在(いま)分かっていること――ゼルグに飲まされた【薬】によってあまり状況は(かんば)しくないこと、けれどエリンシェ自身は諦めておらず、たたかうと決心していることをジェイト・ミリア・カルドに説明する。

 【薬】の件を聞いた三人は一瞬不安そうな表情(かお)を浮かべたが、エリンシェの決意を聞いてすぐに顔色を変えた。

「エリン、私たちも協力するから!」「できることがあったら、すぐに言ってくれ」

「――僕達、きみを守るから」

 それはどこか、勇ましい表情だった。特にジェイトは、何か堅い決心をしたようだった。

「うん、ありがとう」

 皆を危険な目に遭わせたくないと思うエリンシェだったが、ここは素直に三人を頼ることにした。そのためにもできるだけ早く方法を見つけようと、密かに思うのだった。


 それからしばらくは何事も起きない日々が続いたが、かろうじて(・・・・・)と言っても過言ではなかった。

 やはりどこか空気がよどんでいて、いつも心がざわつかずにはいられなかった。エリンシェ達だけでなく、他の者達もそれとなく何かを感じているようで、いつもどこか浮かない表情(かお)を浮かべていた。

 このままじっとしているだけではらちが明かないと考えたエリンシェは、近日中にガイセルの元を尋ねるようと心に決めた。

 そんなある日のことだった。

 エリンシェはジェイト・ミリア・カルドと共に野外の授業へと向かっていた。その途中、何やら外が騒がしく、何人かが叫びながら逃げ惑うところに遭遇した。

 四人は息を呑んで、外へと急ぐ。そこには【影】のバケモノが数体、生徒達に襲いかかっていた。

 エリンシェは結界を気にしたが、壊れてはいないようだった。見ると【影】達から時折、火花のようなものが散っていて、結界はきちんと【影】達を排除しようとしていた。……が、当の【影】達はそれを意にも介せず暴れ回っていたのだ。

 周りが一目散に逃げる中、四人は【影】達の方へと向かっていく。一番前に立ったのはエリンシェだった。〝聖杖ケイン〟を手にして、すぐに〝聖光オレオール〟を唱えた。

 ――が。

「……!?」「……えっ!?」

 後ろから驚きの声が上がる。……確かに、〝聖光オレオール〟は成功したはずだった。けれど、【影】達は微塵(みじん)も動じず、何事もなかったかのように暴れ続けていた。

 一番動揺したのはエリンシェだった。理由(わけ)も分からず、その場に立ち尽くしてしまう。

 ……怖い。――何もできない自分はどうしようもなく「無力」なのだ。……どうしよう。――このまま何もできず、戦えなくなってしまったら、どうすればいいのだろう。

「エリンシェ、下がって!」

 ――【()】の感情に堕ちそうになっていたエリンシェを、呼び戻したのはジェイトだった。

 はっと我に返り、後退したエリンシェのすぐ脇を、〝疾風の弓矢(ゲイル)〟を手にしたジェイトが駆けていく。〝彼〟のすぐ後を、アリィーシュが続く。

 結界が働いているのもあってか、ジェイトとアリィーシュが攻撃を始めると、みるみるうちに【影】達は倒されていった。そんな光景を目にしていると、否が応でもエリンシェは自分が「無力」であると思い知らされ、絶望していた。

 ……これも【薬】の――ゼルグの仕業だというのだろうか。そう考えると、エリンシェは恐怖に呑まれそうになってしまっていた。「力」がない自分はこんなにも弱い存在だったのだろうか。

「――大丈夫、何があっても僕が必ずきみをまもるから」

 気が付くと、うつむいていたエリンシェの肩を、隣に並んだジェイトがそっと抱きしめていた。はっと息を呑み、エリンシェはその手を握り返す。……あたたかい。

(……そうだ、私、諦めちゃいけない。 ――このひとのためにも、絶対にこの「こころ」だけはまもらなきゃいけない)

 そんな思いをかたくして、エリンシェは再び絶望や恐怖を振り払ったのだった。


 特に大きな被害もなく、【影】達はジェイトとアリィーシュによって退治された。

 ……けれど。いくら当人が心を立て直したとはいえ、エリンシェの〝力〟が突如現れた【敵】に効かなかったという事実は、少なからず周りに衝撃を与えた。

「そんな顔しなくても大丈夫よ。 私とジェイト君がエリンシェを守るから」

 少しだけ不安そうな表情(かお)をしていたミリアに、アリィーシュがそう言って聞かせる。そんな彼女の顔を見つめながら、エリンシェは早く手立てを見つけることを決めたのだった。

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