Episode 4 Prologue ଓ 「終わり」の「始まり」 〜beginning of the end〜
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――「何か」が始まり、「何か」が終わろうとしていた。
……近頃ずっと暗雲が立ち込めている気がする。そんなことを思いながら、エリンシェはふと、空を見上げる。そこには曇天が広がっている。晴れ間は一つもなく、漆黒の雲が何もかもを覆い尽くしている。そのまま見つめているとこちらまで呑まれそうな気がして、エリンシェは目をそらす。
もう間もなく、学舎生活四年目が始まろうとしていた。……これまでなら休みの間に、ジェイト・ミリア・カルドに会いに行ったりしていたのだが、アリィーシュからなるべく出歩かない方が良いと忠告を受けたのだ。修行に赴いてもだめかと聞いても、アリィーシュは首を横に振るばかりで、その理由を教えようとはしなかった。――そういう理由で、「もう間もなく」とはいっても、それよりずっと長く感じる時間を過ごしていた。
だが、ある程度の理由なら理解している。今年は何年かに一度訪れる、邪神達が【力】を持ち強くなる年だからだ。その中には、エリンシェのことを狙う【敵】――邪神ゼルグも含まれていた。ゼルグはさらにヴィルドという少年をとり込み、実体化もしている。今はまだ、ヴィルドは身を潜めて何の行動も起こしていないが、今年は必ず何か仕掛けて来るに違いなかった。
エリンシェの中に宿っていたアリィーシュも、年が明けて少しすると実体を持つようになっていた。――邪神達に対抗すべく、神達は大神の〝奇跡〟により実体を持ち、邪神と闘うそうだ。実体化したアリィーシュはその身を封印されていたにも関わらず、テレスファイラを守護していたこともあって凄まじいほどの〝力〟を持つようになっていた。実体を持つことで中に宿ることはできなくなっていたが、アリィーシュは常にエリンシェの近くに身を置いて〝彼女〟を守ろうとしていた。
けれど、それでも足りないのか、アリィーシュはエリンシェにできるだけ外へ出歩かないよう、忠告をしたのだ。……その「表情」がやけに気になり、エリンシェはこんな質問を彼女に投げかけた。
「……学舎でも?」「――えぇ、そうよ」
――間髪入れずに答えるアリィーシュの「表情」はやはり、ひどく「何か」におびえた顔をしていたのだ。
学舎には結界がはられているはずだった。加えて、大賢者・グレイムには大神・ディオルトとの繋がりがあり、おおよその事情も二人とも理解しているはずなので、何らかの対策もしてくれると見ていた。……なのに、アリィーシュは頑なに外へ出るなと忠告する。――そんな彼女の尋常でない様子にエリンシェは、アリィーシュが「何か」に気付いたのではないかと考えていた。
「……アリィ。 ――いつか話してくれるんだよね?」
けれど、エリンシェはアリィーシュにあえて深く追及をしないようにしていた。――彼女のことを信頼しているからだ。必要なことならいつかは話してくれるとそう信じて、エリンシェはそれだけ言った。
「――……えぇ」
そう返すアリィーシュは何とも言えない表情を浮かべていた。恐怖、後悔、苦渋……どれにも見える表情だったが、エリンシェは彼女が話してくれるのを待つことにした。
……とはいえ。友達にしばらく会えないのは少しさみしいような気がした。特にジェイトに会いたいと願わずにはいられなかった。時々……理由は分からないが、不安でたまらなくなることがあるのだ。そんな時、どうしようもなく、ジェイトの顔が見たいと思わずにはいられなかった。
そんなことを考えながら、エリンシェは首を横に振る。……きっとこれから何が起こるか分からず不安になっているだけだ。――けれど、そんな暇はない。何事も恐れず、大切な「もの」を 守護するために闘わなければならないのだ。弱気になっている場合ではない。
――決して何があろうとも。セルゥーガのそんな言葉を思いながら、エリンシェは自分を奮い立たせるのだった。
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また、「夢」を見た。
――いつか見た、【影】と【闇】の夢によく似た「夢」だ。
だが、あの時とは違って、「カラダ」はすでに【闇】に呑まれていた。
息ができず、唸り声をあげる。――けれど、それすらもままならない。もうすでに、「カラダ」は【闇】|のモノと化していたのだ《・・・・・・・・・・・》。
ふと、【闇】が胸の方へと伸びる。
――【闇】は、唯一手にしていない〝あるもの〟を欲していたのだ。
それに気付いて、何とか逃れようとするも、やはり「カラダ」は動かない。
……だめだ、決して〝これ〟だけは。
抗おうとする意志に反して、【闇】が胸に触れようとした――。
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――その時だった。
エリンシェは息を切らしながら、目を覚ます。
手を伸ばし、辺りを見回して、エリンシェは自分の意志で身体が動くことを確認した。身を起こし、前と同じように、大丈夫……と自分に言い聞かせながら深呼吸をしようとした。
「――……エリン」
その瞬間だった。ふと、アリィーシュがエリンシェの側に近付いて来たのだ。――彼女の表情はまだ恐怖に呑まれながらも、何かを決意した面持ちだった。
……きっと、今この瞬間、伝えたいことがあるのだろう。エリンシェはそう考えて、アリィーシュの次の言葉を待つのだった。




