Feather 12 ଓ 「真意」 〜true meaning〜
――しばらく、にらみ合いが続いた。
エリンシェの脇にはアリィーシュ・シンシアとメラニアがリノウを取り囲むようにして、立っていた。
リノウはその全員を恨めしそうに見据えながら、相変わらず唸り声を上げている。
先に動いたのは、カノジョだった。【鞭】を振り上げたのを見て、エリンシェは〝羽〟を広げ上へ飛ぶ。〝聖杖〟を両手で握り、思い切り振り上げながら、エリンシェはリノウへ向かっていく。それと同時に、アリィーシュ・シンシアとメラニアもリノウの方へとそれぞれの武器を振り下ろしていた。
叩き込むように、エリンシェは〝聖光〟を唱えるが、攻撃は全て回避されてしまう。しかし、目くらましにはなったのか、よろけたリノウにすかさず、〝力〟を貯めて〝聖杖〟を突き出した。
今度はよけきれなかったのか、リノウが後ろに飛ばされる。……まただ、まだ足りない。カノジョはすぐに立ち上がると、エリンシェをにらみつけた。
そこに、アリィーシュがリノウへ飛びかかる。〝杖〟を舞うように振りながら、カノジョへと少しずつ近付いていった。
リノウはアリィーシュの攻撃を交わしながら、今度は彼女を見据えた。何とか【鞭】で応戦しようとするが、アリィーシュがそれを全てひらりとかわしていった。
そんな攻防がしばらく続くと、だんだんリノウが息を切らしていた。侵入して来た時の獣のような姿は見る影もなく、今はただアリィーシュを弱々しく見ている。
〝さっき「守人」達が聞かなかった? 此処を何処だと思ってるんだ、って〟
不意に、アリィーシュがそんな問いかけをリノウに投げかける。当の本人はその意味を理解していないのか、怪訝そうな表情を浮かべている。
〝あなたが侵入して来たのは神聖な「神殿」――此処に足を踏み入れた時点であなたに勝ち目はないのよ〟
そんな宣告をして、アリィーシュはあわれむような瞳でリノウを見据えた。
……確かに、リノウは尋常じゃないほどに消耗し切っている。だから、アリィーシュや双子は勝ち誇った表情をしていたのか。エリンシェは納得しながらも、まだそのまま成り行きを見守っていた。――まだ足りないと、そんな気がしていたからだ。
アリィーシュに腹を立てたのか、はたまた向こうみずに〝神殿〟に侵入してしまった自分自身を責めているのか、リノウが顔を歪めて【……黙れ】とつぶやいた。
【黙れ黙れ黙れ、黙れェ!!】
そうわめき散らしながら、リノウが無茶苦茶に【鞭】を振り回す。一撃も当たるはずもなく、アリィーシュと双子はその全てをひらりとかわした。
【……殺してやる! お前ら全員だ! 一人残らず、殺してやる!!】
リノウが腹立だしそうに叫びながら、攻撃を続ける。アリィーシュはカノジョから距離を取りながら、不意に〝エリン〟とエリンシェの方へ振り返った。
〝――エリン、リノウには引導を渡してやらないといけないわ。 私もカノジョとは色々あったけれど……エリン、「封印」はあなたにお願いしてもいいかしら? ゼルグの【力】があったとはいえ、大神様の「封印」を破っているから、きっとあなたの方がいいはずなのよ〟
アリィーシュはそう話すとリノウに向かっていき、舞うように〝杖〟を振りながら、〝聖光〟や他の技を唱えて少しずつカノジョを消耗させていた。
……覚悟はもちろんしていた。けれど、いざとなると自信はなかった。今まで修行は重ねてきたものの、「実践」はできていなかったのだ。どうしても、上手くできなかったらという想像をしてしまっていた。
そんなことを考えながら、エリンシェは思わず〝聖杖〟を強く握りしめていた。〈声〉はきこえなかったが、励ますかのように〝聖杖〟があつくなる。
〝大丈夫よ、あなたならきっとできるから。 それに話してなかった? ――この「神殿」の「意義」を?〟
……聞いたことはない。けれど、セルゥーガが一度だけ、エリンシェが無意識に〝神殿〟のことを理解していると話していたのを聞いた覚えはある。
〝――この「神殿」はね、テレスファイラの歴代の守護神の「神殿」であると同時に、「愛」を象徴とする「神殿」でもあるの〟
エリンシェが物思いにふけっているもと、続けてアリィーシュがそう説明をした。……「愛」――そうは言われてもいまひとつぴんと来ないでいると、双子が横から彼女の補足をした。
〝あなた様がはテレスファイラに「特別な感情」を持っているはずです。 ――その「感情」がある限り、あなた様はこの「神殿」から「加護」を受けることができるのです〟
〝そして、あなた様にはテレスファイラと同じように、「特別なおもい」を抱いている方がいらっしゃるはずです。 ――あなた様がその方を「おもう」限り、「神殿」があなた様に「力」を貸してくれるでしょう〟
……それでもまだ納得はできなかった。けれど確かに、エリンシェの胸にはテレスファイラと〝彼〟のことをまもりたいという強い「おもい」があった。そして……――。
〝――エリン、あなたが強くなれたのはその「心」が大切だと気付くことができたからよ。 あなたがそれを見失わなければ、大丈夫なのよ〟
そう――アリィーシュが言う通り、エリンシェは、大切な「もの」をまもりたいと心の底から願ったあの日、それまで足りていなかったのは「心」だと気付いたのだ。そして、そのことに気付いた瞬間、〝幸いの天使〟がこたえてくれるようになり、エリンシェは強くなることができたのだ。さらに、アリィーシュによるとその「心」が在る限り、〝神殿〟すら味方になるのだという。
……確かにテレスファイラや〝彼〟には「特別なおもい」を抱いている。けれど、「愛」なのかどうか、今はまだ分からない。けれど……――。
深く息をついて、エリンシェは〝聖杖〟を強く握り直した。そして、もう一つ深呼吸をすると、(……〈フィー〉)とフィルネリアに呼び掛けた。
〈はい、主様〉
(……〈フィー〉、私、今はまだこの「おもい」が皆の言う「気持ち」なのかは分からない。 でも確かに、この胸にはテレスファイラの万物をまもりたいという気持ちが私の中にある。 私、そのためにも強くなるって決めたの。 ――だからね、私、戦うよ)
〈――えぇ、やりましよう〉
すぐに返ってきたフィルネリアのこたえに、エリンシェはほっとしながら、リノウに向き直った。その瞬間、アリィーシュが〝聖光〟を唱え、カノジョをのけ反らせると〝彼女〟の方を振り返った。
(……〝神殿〟よ、もし本当に「加護」を私に与えてくれるのなら、「力」を貸して。 ――テレスファイラをまもるために!)
一度目を閉じ、エリンシェはそうよびかけると、ありったけの力で魔法陣を描き始めた。
……大丈夫、大丈夫。何度も言い聞かせながら、エリンシェは今までの成果を発揮した。――そして、魔法陣を描き終えた時、〝彼女〟の中で確信がうまれた。
「〝聖杖〟よ、どうか力を! ――彼の者を封印し、この世界に平穏を!」
唱えながら、エリンシェは強く握った〝聖杖〟を高く掲げると、リノウを一瞥する。そして、カノジョに向かって、〝聖杖〟を振り下ろし、大声で唱えた。
「〝封印〟!!」




