Feather 11 ଓ 襲来 〜invasion〜
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あの日――「手応え」があった時以来、エリンシェはまるで吹っ切れたかのように、成長を遂げていた。
一番変化があったのは〝聖杖〟である〝幸いの天使〟の〈声〉が確実にきこえるようになったことだった。
最初の頃はきこえないこともあったが、根気強くフィルネリアに声を掛け続け、ゆくゆくは魔法陣なしでも〝封印〟が使えるようにと修行を続けるうちに、少しずつ〈声〉がきこえ始めたのだ。そして、魔法陣を暗記した頃にはすでにフィルネリアと〈話〉ができるまでになっていた。
とはいえ、エリンシェはそれだけで完全にフィルネリアと心を通わすことができたとは思っていなかった。――まだまだ序の口で、これからもフィルネリアに声を掛け続けることで、さらに〈彼女〉と通じ合うことができるのだろうと考えていた。
そんなある日のこと、エリンシェはアリィーシュから警戒するように忠告された。――いよいよ、【敵】が動き始めたのである。
動いたのはゼルグではなく、新たなる【敵】――リノウという名の女性の邪神だと、エリンシェはアリィーシュから話を聞いた。なんでも、彼女やゼルグと共に封印されていたのだという。
当時、アリィーシュはリノウだけなら何とかなったかもしれないと見ていたそうだが、感じ取ったリノウの【気配】からは並々ならぬ【悪意】――憎悪などを察知したのだと、アリィーシュは話していた。――たとえ、リノウがどれだけ【力】を増していたとしても、アリィーシュは一緒に戦い、エリンシェを守り抜くと宣言した。
……だが、そういうワケにはいかない。守る、と言われて黙っていることはできなかった。――エリンシェにも矜持がある。あの日心の底から感じた、大切な「もの」をまもりたいという気持ちがある限り、エリンシェも現在は全力で戦いたいと思っていたのだ。
それ以来、エリンシェはより一層、修行に励むようになっていたのだった。
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――そして、その日は突然やって来た。
いつも通り修行をしていると〝神殿〟にドンッという衝撃が走った。
手を止め、エリンシェは天を見上げる。「護り」は万全なはずなのに、それを破ってでも此処へ侵入しようとしている【モノ】がいる。……凄まじい【執念】だ。
側でエリンシェのことを見守っていたシンシアとメラニアも顔色を変える。――少し強張っているが、どこか勝ち誇ったような表情を浮かべていた。
アリィーシュも姿をあらわし、辺りを見回す。〝……カノジョだわ〟とつぶやくと、〝杖〟を手にした。
――それが「合図」だった。
突然、アリィーシュの手元に向かって、どこかからか【鞭】が伸びてきた。彼女はひらりとそれをかわすと、後ろに跳んだ。それと同時に、【闖入者】――女性の邪神が姿をあらわした。……リノウだ。
涼しい顔を浮かべているアリィーシュに対し、エリンシェはほんの少し物怖じしていた。――リノウがあまりにも歪んだ表情を浮かべていたからだ。カノジョからは憎悪、嫉妬などといった【悪意】しか感じ取ることができなかったのだ。
〝あら、お久しぶりね〟
〝杖〟をリノウに向けながら、アリィーシュがなんてことないように声を掛ける。答える代わりに、まるで獣のように、リノウが唸り声を上げた。
【黙れッ!! オマエのせいで、あの方は封印される羽目になったのよ!! ――オマエだけは絶対に許さない!!】
そう言って、リノウが【鞭】を振り上げる。――が、カノジョの脇から二つの棍が伸び、それを阻止した。
〝侵入者よ、控えよ! 此処を何処と心得るか!〟
〝お前が足を踏み入れたのは神聖なる「聖域」! 我ら「守人」はお前のような侵入者を決して許さぬ! ――覚悟せよ!〟
――シンシアとメラニアだった。双子は強い口調でそう言い放つと、勢いよく地面を蹴って、棍を支えに跳び上がった。
慌てて、リノウが双子の攻撃をかわそうと飛び上がる。間一髪のところで、棍をよけると恨めしそうにまた唸ると、ふと後ろへ振り返った。
そこで初めて、エリンシェはリノウと目が合った。……カノジョから感じ取れる凄まじいほどの【悪意】に、思わず鳥肌が立ってしまう。カノジョの瞳には殺意すら宿っている。エリンシェはすぐに、ソレが自分に向けられたものだと気付いたが、今度は物怖じせずに〝聖杖〟を手にして、リノウへ向き直った。
【……お前か】
つぶやくリノウには応えず、エリンシェは心の中で〝幸いの天使〟の名前を呼んだ。すぐに、〝聖杖〟があつくなり「応え」が返ってきた。
【……なるほどね、理由は分からなくはないけど、やっぱり気に入らない。 此処で殺してやるわ】
エリンシェの目には、そう言って【鞭】を振り上げるリノウの姿がまるで本物の「獣」のように映った。カノジョをこのまま野放しにしておけば、何をしでかすか分からない。……だから――。
(――〈フィー〉、カノジョを絶対にとめなくちゃいけない。 私に力を貸してくれる?)
〈えぇ、もちろんです。 ――大丈夫、私たちは一緒に今日まで修行を重ねてきました。 まだ完全ではありませんがきっとできるはずです〉
力強く応える〈声〉に、エリンシェはうなずいてみせながら、リノウをじっと見据えるのだった。




