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Angelic Storia  作者: 紡生 奏音
Wing Ⅰ Episode 3 翼――それは絆を紡ぐ〝もの〟
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Feather 10 ଓ 確執 〜antagonism〜


    █


 ――ひと目見た時から、この方だ(・・・・)と直感した。


 邪神達がまう世界セカイ。――ソコには生まれながらにしてよこしまな心を持つモノや、はたまた過去いぜんは神として生きていたが堕ちてしまったモノなど、様々な経緯を持つモノが暮らしていた。

 けれど、カレらはお互いのことをよく知らなかった。どうして【そう(・・)】なったのかを聞く理由など、必要がないからだ。――馴れ合いなんて断じてしない。時に邪神同士で子を成すモノもいるが、そこには何の感情もない。ましてや、愛などは。在るのは利益だけ。ただ【力】を求め、お互いを喰らい合うだけだ。

 そんな世界セカイに生まれ堕ちた「カノジョ」――リノウも【力】をまとめ、各地を彷徨さまよっていた。

 リノウが少し他と違っていたのはそれほど征服欲(・・・)えていなかったということだった。求めるのはただ【力】だけ――確かな【力】をリノウはひたすらに望んでいた。

 ――そんな時、リノウが邂逅した(であった)のがゼルグだった。

 ひと目見た瞬間、【力】を求め、世界をも征服を企むゼルグの姿がリノウにはとても耀かしく(・・・・)思えた。――いずれ、この忌まわしい世界を統べるのはこの方(・・・)だと強く確信したのだ。

 以来、リノウはゼルグの後を追いかけるようになった。……だが、ゼルグ本人はというとそのことを認めてはおらず、ただ付きまとわれている(・・・・・・・・・)としか思っていないようだった。

 それでも、リノウはゼルグを崇拝・・し続けていた。時に、ゼルグが女性の女神を襲えば後から追い討ち(・・・・)を仕掛けたこともあった。ゼルグの目にうつる「女性・・」は常にリノウ自身(自分)で在りたい――そう強く思っていたからだ。

 けれど、いつまで経ってもゼルグがリノウのことを認めることはなかった。いくら素っ気なくされても、リノウは決して諦めず、ゼルグのことを何処までも(・・・・・)追い続けた。

 そして、ついにゼルグの方が折れたのか、名前だけは覚えてもらうことに成功した。……もちろんあくまで名前(ソレ)だけで、ゼルグが認めることはなかったのだが。リノウはそれでも感極まり、ますますゼルグを追いかけるようになった。――名前を知られたということは存在を認知されたということになるからだ。


 そんな、リノウとゼルグの奇妙(・・)な関係が築かれたある日のことだった。不意にゼルグが満足げな笑みを浮かべて出かけて行くのを、リノウは見かけたのである。

 リノウはいつものように後を追うと、ゼルグが「とある地」に向かうのを目にした。

 ――「それ」が神秘の息吹が宿る豊穣の地・テレスファイラだった。

 念入りに計画を練っていたのだろうか、ゼルグは迷いなく、テレスファイラの守護神であるアリィーシュに襲い掛かった。

 思わず、リノウはありとあらゆるものに驚きを隠せずにいた。――まず、テレスファイラという地。あふれるほどの「力」に満たされている豊穣の地に、征服欲がほとんどないリノウでさえ生唾を飲まずにはいられなかったのだ。次に目を奪われたのがアリィーシュの「姿」だった。――彼女は思わず見惚れてしまうほどの美貌で、今までゼルグがたおしてきた女神の中で一番美しかった。おまけに、〝力〟にも恵まれていた。そんな「モノ(・・)」達に、リノウは煮えくり返るほど嫉妬(・・)したのである。

 ……ニクい――アリィーシュ(このオンナ)ニクい!! そう思うよりも早く、カラダが動いていた。リノウはアリィーシュを斃し、ゼルグの気を引こうと躍起になった。――その結果、三人もろとも大神(おおがみ)によって封印される羽目ハメになったのである。


 そして長い間、封印を破る【力】もなく、リノウは長い年月を過ごしていた。

 憎悪だけがただただつのる中、ある日、リノウは突然に封印から解き放たれた。

 ――そんなことができるのはただ一人、ゼルグだけだ。

 またゼルグのそばにいることができる! アリィーシュ(あのオンナ)(ウラ)みを晴らすことができる!! そう思うと、(よろこ)ばずにはいられなかった。

 解放されるとすぐに、リノウはゼルグの元へ向かった。

 出迎えたゼルグが実体化し、凄まじいほどの【力】を秘めていることが分かり、リノウは恍惚(こうこつ)とした。……あぁ、やはり世界を手に入れるのはこの方だ。

「キミにはボクの代わりにあるエモノ(・・・)を手に入れてほしい」【――はい】

 ひょっとしたら、良いように利用されているかもしれない。頭ではそんな考えがよぎりつつも、ゼルグの役に立てるならどうでもいいとリノウは考え直し、即答した。だが……――。

「キミのエモノ(・・・)はとある少女だ。 ――必ず〝彼女〟を生け捕り(・・・・)にしてほしい。 きっとそばに守護神(おもり)がいるが、そっちは始末(・・)してもらっていい」

 ――だが、ゼルグから示された少女を目にして、リノウは再びはらわたが煮えくり返りそうになった。……〝彼女〟は――アリィーシュ(あのオンナ)よりもずっと「特別・・」だ。一目見ただけですぐに理解できる。そんな〝彼女〟をあろうことか、ゼルグは手に入れよう(・・・・・・)としている。ずっとそばで見てきたのだ――リノウにはそれが手に取るように分かった。

 リノウの中に、憎悪と嫉妬の炎が燃え盛る。……ニクい!! アリィーシュ(あのオンナ)はもちろん斃すとして、その少女もいっそ殺してしまおうか。そして、事故だったと言い訳をしよう。そうだ、そうしよう。

【……はい、分かりました】

 平然と口ではそう言ってのけ、リノウはそんな決意を胸に、出立したのだった。


    ଓ


 ――ふと、空を見上げる。けれど、すぐに何か背筋が寒くなり、敵の動向を探るためエリンシェの元を離れていたアリィーシュは振り返った。

 あらゆる「気」を研ぎ澄ませ、アリィーシュは目を閉じる。かすかに【悪意】――憎悪や嫉妬の類を感じて、その正体を悟る。……あの【闖入者ちんにゅうしゃ】か。

 アリィーシュがカノジョ――リノウと邂逅した(であった)のは、封印されることになった「あの時」が初めてだ。けれど、妙ないわれ(・・・)を付けられていることには気が付いていた。それほどまでにリノウはゼルグに肩入れしているのだろう。

 ……けれど。――けれど、今感じ取った【悪意ソレ】はアリィーシュだけに向けられているモノではない。まさかとは思ったが、すぐにその考えを打ち消した。……間違いない。【悪意】は〝彼女〟――エリンシェに向けられている。

 リノウが動くとなると、やはりゼルグは動いて来ないのか。もちろん、エリンシェに向けられる【悪意】も気に掛かったが、一層不安を感じるのはゼルグが動かないということだった。……一体何を企んでいるのだろうか。

 ……けれど、あのだけは。――エリンシェだけは守り抜かなければならない。そんな決意を胸に、アリィーシュはその場を後にしたのだった。

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