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Angelic Storia  作者: 紡生 奏音
Wing Ⅰ Episode 3 翼――それは絆を紡ぐ〝もの〟
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Feather 9 ଓ 「まもりたいもの」 〜〝precious〟〜


    ଓ


 ――あれから、数週間が経った。

 修行の成果もあり、何とか魔法陣を描けるようになったエリンシェだったが、暗記はできておらず、まだ〝封印コンテイン〟の修得には至っていなかった。

 今までこんなに苦労したことはなかったのに。……いや、これまでが上手く行き過ぎていただけかもしれない――そう考えを改めてみようとしているが、どうしても自信をなくしてしまわずにはいられなかった。

 加えて、敵の襲来がいつ何時なんときくるか分からないことにも不安を覚え、焦りも感じていた。――残された時間がどれだけ在るのかが明確になっていない今、できるだけやれることはしておきたいと思わずにはいられなかったのだ。

 ――そういう理由ワケで、エリンシェは煮詰まりながらも修行を続けていたのだった。



「……はぁ」

 そんなある日のこと。エリンシェは息抜きもかねて、独り、丘へと出掛けていた。

 ため息をもらし、その場に座り込んで、何気なく空を見上げる。

 ……どうすればいいのだろう。術の内容だけに「実践」することもできない。今までと違って、修得できたという実感も非常に分かりづらい。――一体、今までとは「何」が違うのだろう。……分からない、全く分からない。

 それに、焦るなと言われても、どうしても気持ちがはやってしまう。もちろん、きちんと理解して(わかって)はいるのだ。皆の言うこともきちんと受け止めてはいる。けれど……――。

「――やあ、エリンシェ」

 そこまで考えたところで、さも当然のように、ジェイトがエリンシェの隣に座り込んだ。

 一瞬ぎょっとしたエリンシェだったが、ニコニコしながら顔をのぞき込むジェイトの姿に言及する気持ちも失せる。……(ココ)に来ることは言ってなかったのに。エリンシェは苦笑まじりに、ジェイトに微笑み返した。

「修行はどう?」

 さり気ない様子を装い、ジェイトがいつもの調子でそんな問いかけをする。……本当はわかってるくせに。――ジェイトはエリンシェが思い悩んでいることに気付いて、その気持ちに寄り添おうとしているのだ。

 そんな〝彼〟の気遣いをありがたく思いつつ、ジェイトにはかなわないと苦笑をもらして、エリンシェは素直な思いを打ち明けることにした。

「うん……実は順調には進んでないんだ。 いつもだったらこう……もっとのみ込めるんだけど、何だか上手く行かないの。 皆、焦ることはないって言ってくれるの、ちゃんと理解できて(わかって)はいるんだけど、どうしても気持ちが急いじゃって。 今はこうして、修行したり上手く行かなくて悩んでる余裕があるけど、常に残された時間は少ないんじゃないかって何だかすごく不安になるの。 そしたらどうしても焦っちゃって……」

 ――そう、「」がそうさせているのかが全く分からないが、残された時間が限りあるものとしか思えず、どうしてもエリンシェは気持ちが逸ってしまっていたのだ。その結果、上手く行かない堂々巡りを起こしてしまっているのではないか、とエリンシェは考えていた。

「そうしてるうちにだんだんどうすればいいのか、分からなくなっちゃって……。 ――だから、ここで色々考え事してたんだ」

 エリンシェが話し終えると、ジェイトはうなりながら、思い悩み始めた。そして、少ししてから、まだ考える素振りを見せながらも、ゆっくりと口を開き始めた。

「そう……だね、エリンシェが焦る気持ちもよくわかる。 だけどね、皆が言うように急ぐ必要もないと思うんだ」

 言ってしまってから、ジェイトが矛盾に気付いて、苦笑をもらす。笑いながらも「――だったら、どうしろって話だよね。 えぇと……」と再び物思いにふけり始めた。

「うーんと……気持ちが焦ってるから、何か大事なことに気が付けないんじゃないかな?」

 少ししてジェイトか導き出した答えに、エリンシェは思わず動きを止める。……そうか、私は焦っている間に「何か」を見失ってしまっていたのか。けれど、それは一体……――?

「とりあえずさ、落ち着いてもう一度やってみなよ。 そうしたら、それが何かわかるかもしれない。 ――大丈夫、君ならきっとできるって僕は信じてるから」

 考えていると、ジェイトが強い口調でそう言って、微笑んでみせた。その笑顔(かお)を見た瞬間、エリンシェは思わず、〝彼〟に抱きついていた。

 ――まもりたい、このひとを。そして、このひとが生きるテレスファイラ(このせかい)を。心の底から、そう願わずにはいられなかった。……そのためにも。

 されるがまま何も聞かずにいるジェイトをぎゅっと強く抱きしめた後、エリンシェはその場に立ち上がった。そして、〝聖杖ケイン〟を握ると目を閉じ、深呼吸をする。

 ――大切な「もの」をまもるために、強くならなければならない。そのためにはいまできることを少しでもやらなければならない。たとえ、どれだけ時間が限られていようとも。

(……いける、〈フィー〉?)

 大丈夫――きっとできる。エリンシェはそう自分に言い聞かせながら、いつものように、〝聖杖ケイン〟――〝幸いの天使(フィルネリア)〟によびかけた。

〈――えぇ、やれます!!〉

 すると、すぐに〝聖杖ケイン〟があつくなり、フィルネリアから反応(こたえ)が返ってくる。思わず、エリンシェは息を呑む。……今まで、反応はあってもフィルネリアの〈声〉がきこえたことはなかったのに。――でも、きっと今なら。

 もう一度深く息を吸い、エリンシェはかっと目を見開くと、持てる全ての力を使って、〝封印コンテイン〟の魔法陣をえがきあげた。そして……――。

「〝封印コンテイン〟!!」

 ――そのままの勢いで、詠唱を口にする。もちろん、「対象」がいないだけに何も起こることはない。けれど……――。

 エリンシェはふうと息をつきながら、空を見上げる。――いまのは……確実に「手応え(・・・)」があった。……そうか、今の今まで足りていなかったのは……――。

「……ありがとう、ジェイト。 おかげで私、少しわかった気がするよ」

 振り返ると、エリンシェはそう言ってジェイトに笑いかけた。つられるようにして、〝彼〟も微笑むと深くうなずいてみせた。

 そんなジェイトの顔を見つめながら、エリンシェは密かに決心したのだった。――大切な「もの」をまもり抜くためにも必ず強くなってみせる、と。

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