Feather 8 ଓ 〝封印〟 〜〝contain〟〜
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それからというものの、エリンシェは忙しい日々を送ることになった。
学舎での学業に加えて、その合間に〝神殿〟にも通っていた。念入りに〝聖杖〟――〝幸いの天使〟に対話しながら、修行をしていた。少しずつではあるが、フィルネリアと心を通わせ、成果を出していた。……けれど、まだまだ時間が必要そうだった。
エリンシェは少し焦りを感じていたが、アリィーシュに急がなくていいと助言されていた。――確かに敵は動き始めているが、向こうも策があり、本格的に動くのはもう少し先になるだろうと、彼女は考えていた。
そうは言われても、エリンシェがやはり複雑な思いを抱いていると、見兼ねたかのようにセルゥーガが〝時機を見て、新しい術をお教えしましょう〟という提案をした。
……けれど、その修得に思いがけず時間が掛かったのである。
〝――それでは約束通り、一つ術をお教えしましょう〟
セルゥーガがそう言い出したのは提案から間もない日の出来事だった。
(お願いします)
〝お教えするのは神々が使う封印の術「封印」〟
そう言うなり、セルゥーガが宙に魔法陣を描き始めた。
早く強くなりたいと思っていたエリンシェはその様子をすぐに目で追った。……が、少しして思わず、眉をひそめながら呆然としてしまった。――あまりに複雑だったのである。
(今まで見た中で一番……)
〝――複雑、そうですな? この「封印」をアリィーシュ様にもお教えしましたが、中々修得に時間がかかりました。 まぁ……アリィーシュ様は今となれば、いざと言う時に早業で魔法陣を描いて「封印」を施すことができるようになっておりますが〟
セルゥーガの話を聞き、少々不安に思いながら、エリンシェは魔法陣をなぞった。すると、なおさら〝封印〟が複雑であることが分かり、思わず頭を抱えてしまう。……これは骨が折れそうだ。
〝慌てなさるな。 まずは魔法陣を覚え、正確に描けるようになることが先決です。 あまり「練習」もできないでしょうが、着実に術を修得するのを目標にすると良いでしょう。 ……ちなみに言っておきますが、この術を魔法陣なしで唱えられるのは今のところ大神様だけです。 じっくり、着実に――いいですね?〟
おまけに釘も刺され、エリンシェはなおさら頭が痛くなった。魔法陣なしで唱えられるのは大神・ディオルトだけ――セルゥーガのその言葉に、〝封印〟がいかに難しい術であるかを思い知らされたのと同時に、エリンシェはふとある可能性を思いつく。……ひょっとすると、〝聖杖〟と絆を深めていけば、同じように〝封印〟を唱えられるようになるのではないか? だからこそ、セルゥーガはじっくり、着実に――とそう言ったのではないだろうか?
エリンシェは心の中で、〝幸いの天使〟にそうなのかと呼び掛ける。はっきりとした答えは返って来なかったが、心なしかペンダントを着けている辺りがほんの少しあたたかくなった気がした。
〝ひとまず、こうして私と話をしているよりは実際に描いてみる方が良いでしょう。 ――シンシア、メラニア、来なさい〟
そんなことを考えていると、セルゥーガがそう話して、誰かをよび出した。すると、彼女の隣に、双子の女性が姿をあらわした。
二人を見た瞬間、エリンシェはふとあることに気付く。――最初に〝神殿〟に来た時、感じた気配はセルゥーガとこの双子のものだったのか、と。おそらく、この双子も彼女と同じく、この〝神殿〟を守護する〝存在〟なのだろう。
〝紹介します。 こちらはシンシアとメラニア――この「神殿」をあらゆる敵から守護する「守人」の役割を担っています。 髪を一つに結わえた方がシンシア、二つに結わえているのがメラニアです。 二人もまた、普段は姿を隠していますが、いざという時にしか出ない私と違って、こちらの二人はいつでも出られるようにしています。 ――何なりとお申し付け下さい〟
微笑みを浮かべながら、双子が声をそろえて〝よろしくお願いいたします〟とあいさつする。エリンシェはじっと彼女らを見つめながら、一礼を返した。
〝では、早速始めましょう〟
言われて、エリンシェは目を開ける。すると、そこにはシンシアとメラニアが姿をあらわしていた。
〝聖杖〟を手にしながら、エリンシェは双子の前へと進んだ。その様子を見て、シンシアがすぐに〝封印〟の魔法陣を空中に描き始めた。
シンシアが描き終えるのと同時に、エリンシェは〝聖杖〟で魔法陣をなぞった。……やはり、実際にこうしてみるとより複雑なのがわかる。それほどまでに〝封印〟が難しい術だということを頭に置きながら、エリンシェは何度も魔法をなぞった。
しばらくして、シンシアの描いた魔法陣が消えかけたのを見計らって、エリンシェは記憶を頼りに自力で魔法陣を描くと、小さな声で「〝封印〟!」と試しに唱えた。
――が、何も起こらなかった。
当然か、と苦笑いをこぼしながら、エリンシェは少し反省をする。やはりまだ魔法陣を正確に描けていない上に、まだ〝封印〟という技を完璧に理解できていないのが今のところの課題だろう。
〝焦らなくても大丈夫ですよ。 コツを一つつかんでしまえば、そのうちに修得もできるようになると思いますよ。 ねっ、メラニア?〟
エリンシェが悩んでいるのを目にしたからだろうか、シンシアが無邪気にそう言ってみせた。彼女の問いかけに、すぐにメラニアが力強くうなずいてみせ、にっこりと微笑んで応じた。
〝えぇ、きっと。 少なくとも、私達はそう信じてますよ〟
そんな、お互いに視線を交わし、心を通わす姿に、エリンシェはふと何か得られるものがあるような気がした。だが、今はその答えが分かりそうになかった。
……ともかく、ひとまず魔法陣が描けるようになるしかない。そう考えて、エリンシェはひたすら〝封印〟を修得するため、修行を続けるのだった。




