Feather 4 ଓ 〝対話〟 〜〝dialogue〟〜
一目見た瞬間、〈彼女〉だ――やっと逢えた、と思った。
〈主様、また、逢いましたね〉
そう話しながら、〈彼女〉が一層微笑んだ。
(――そう、私、〈あなた〉に逢いに来たんだよ、〝幸いの天使〟)
〈名前〉を呼ばれ、嬉しそうに笑う〈彼女〉の姿に、エリンシェはやはりそうかと確信を持った。〈彼女〉の〈正体〉は――〝聖杖〟の化身、その〈ひと〉だった。セルゥーガに教わった通り、〈名前〉を授けることでこうして〈彼女〉と相まみえる――〝対話〟することができたのである。
(ありがとう、フィルネリア、何度も私を助けてくれて。 それに、此処に来るまでにたくさん寄り添ってくれたよね。 本当にありがとう)
優しい表情を浮かべたまま、〈彼女〉――フィルネリアが首を横に振ってみせた。
〈いいえ、私は主様の力になれるよう、当然のことをしたまでです。 ……主様、私のことは「フィー」と〉
(――〈フィー〉。 私ね、もっと〈あなた〉と絆を深めたいってそう思ってるの。 どうすればいい? 私に何ができる?)
ようやくフィルネリアと逢えたおかげで気持ちがはやり、エリンシェは早速本題を切り出す。すると、その問い掛けに、フィルネリアが少しの間考え込んだ。
〈そう……ですね。 できることは限られていますが、やれるだけのことはやっておいた方が良いでしょう。 まず、主様の言う通り、私たちの絆を深める必要があるでしょう。 ……けれど、大丈夫ですよ。 あなた様が私に〝幸いの天使〟という素晴らしい「名前」を与えて下さったことにより、私たちの距離はずいぶんと近くなりました。 あなた様が「名前」を呼べば、私は必ずあなたの「力」になります〉
しばらく経って返ってきたフィルネリアの答えに、エリンシェは少し落胆した。……どうやら、〈彼女〉と絆を深めるには長い時間が必要になりそうだ。できるだけ早く――と考えずにはいられなかったが、こうして逢えただけでもかなり進歩したと思うべきだろう。追々ではあるが、これまでのようにフィルネリアと心を通わせていくしかないだろう。
〈次に、「来たる年」に備えて、封印の術を覚えておくべきでしょう。 アリィーシュ様や、この〝神殿〟の〝番人〟であるセルゥーガが教えて下さるはずです。 彼女――セルゥーガは自らのことを〝番人〟と称していますが、彼女は何人もの守護神達に様々なことを教え導いて来た〝導き手〟でもあるのです〉
フィルネリアの言葉を聞いて、やはりセルゥーガは別の――〝導き手〟という役割を担っていたのかと、エリンシェは一人納得する。その一方で、フィルネリアの言う封印の術がこれまで覚えて来た術の中では一番、習得が難しいのではないかと考えていた。
〈――えぇ、そうです。 恐らく、何度も練習が必要になるでしょう。 そして、〝転翔〟を習得した時以上に、〝聖杖〟に呼び掛けていただく必要があります。 時には「名前」を呼ぶことも大事かもしれません。 そうしていくうちに、私たちの絆も自然と深まっていくでしょう〉
(分かった、ありがとう)
すぐにエリンシェは二つ返事をして、必ずフィルネリア――〝聖杖〟との絆を深め、そう遠くないうちに封印の術も習得してみせると固く誓った。
〈あとは――〝疾風の弓矢〟ですね〉
フィルネリアから意外な言葉を聞いて、エリンシェは首を傾げる。……なぜ、ここで〝疾風の弓矢〟が出てくるのだろうか?
〈〝疾風の弓矢〟は主様が名前を与えたことで誕生したもの。 誕生と同時にその化身も宿っていますが、〝聖武器〟の化身とは違って特殊で、化身自体にも名前を与えることが必要なのです。 ――そうしなければ、「彼」は自由に動くことができないのです〉
なるほどと納得して、エリンシェはフィルネリアにうなずいてみせると、すぐに目を開いた。
目の前にはジェイトとアリィーシュがいて、様子をうかがうように、エリンシェの顔を覗き込んでいた。今起きていることを話す代わりに、エリンシェはにっこりと笑ってみせた。すると、二人がほっとしたような表情を浮かべた。
「――ジェイト」
ふと、エリンシェはジェイトに呼び掛け、〝彼〟に向かって両手を伸ばす。事情を聞くこともなく、同じようにジェイトがその手を掴んだ。〝彼〟の手を優しく握り返すと、エリンシェはブレスレット――〝疾風の弓矢〟に目を向ける。
……言われてみると微かにではあるが、〝疾風の弓矢〟に〈何か〉が宿っている「気配」がした。エリンシェはブレスレットに触れたまま、再び目を閉じる。それでも、その〈何か〉の「気配」を変わらず感じ取ることができた。
(〈フィー〉、どうすればいいの?)
呼びかけると、すぐ近くにフィルネリアがあらわれた。そっと寄り添うようにエリンシェのそばに近付くと、助言をする。
〈ただ、「名前」を決めて「彼」に呼び掛けるだけです〉
少しの間考えた後、エリンシェは微かに感じる〈何か〉に意識を向ける。そして、そのまま集中しながら、エリンシェはその〈何か〉に優しく呼び掛けた。
(あなたの〈名前〉は〈優しき風の勇者〉――どうか、ジェイトの力になって、〝彼〟を守護してね)
すると、〝疾風の弓矢〟からまばゆい光が放たれ、光が其の中で〈形〉を成した。やがて、〈形〉はぼんやりとではあるが、人の〈姿〉に――ジェイトによく似た〈姿〉へと変化した。
〈ありがとうございます、名主様。 「名前」を下さったおかげで、こうしてあなた様の前に姿をあらわすことができました。 ぼくは〝聖武器〟の「方々」と違って、完全に覚醒めるまでまだもう少し時間が掛かります。 ですが、必ずぼくはあなた様の命を守り、主様の力になってみせます!〉
〈彼〉――ルイーゼンはエリンシェを見るなり、優しく微笑んでみせた後、勇ましい表情を浮かべながら、強い声音で高らかに宣誓した。
(ありがとう、ルイーゼン。 ――ジェイトのこと、お願いするね)
エリンシェと〈はいっ!〉と返事をするルイーゼンにうなずいてみせながら、フィルネリアが〈……さて〉と切り出し、二人の注目を集めた。
〈これで、今できる最善のことは全て行いました。 ――主様、少し時間が必要かもしれませんが、私たちの絆を深めていきましょう。 ……思うようにいかず、焦ってしまうこともあるかもしれません。 けれど、決して慌てることはありません。 あなた様は今まで通り、〝聖杖〟と絆を築きたいとそう願いながら、〝聖杖〟に声を掛け続けて下さればよいのです。 ――必ず、〝聖杖〟はあなた様のおもいに応えますから。 きっと、道も切り拓くことができますから〉
真剣な面持ちでそう話すフィルネリアに、エリンシェはすぐに(分かった)と答えると、〈彼女〉の手に触れた。
(――フィルネリア。 これからもよろしくね)
優しく微笑んで、フィルネリアもエリンシェの手に触れ、強く握ってみせる。――その微笑みに、エリンシェは勇気付けられるのを感じながら、目を開けるのだった。
〝おかえり。 どう、だった?〟
目を開けるなり、すぐ前で待っていたアリィーシュの問い掛けがエリンシェの耳に入った。
「うん。 〝聖杖〟――〝幸いの天使〟と〝対話〟できたよ」
しばらく瞬きをした後、エリンシェは彼女の後ろで心配そうな表情を浮かべているジェイトに微笑んでみせながら、すぐに返事をする。
〝良かった〟
「だけど、まだまだ課題はたくさんある。 もっと〈フィー〉と絆を深めていかなきゃいけないし、覚えなきゃいけないこともある。 ――私、もっと強くなりたいの」
エリンシェがそう強い声音で宣言すると、アリィーシュが「何か」思い悩むような表情を浮かべた。そこに割って入るように、セルゥーガが〝気配〟をあらわした。
〝お気持ちは分かりますが、時には急速も必要です。 今日のところは一度戻って、また改めて此処に来て下さい。 ――私はいつでもあなた様を待っていますから〟
そうセルゥーガに諭され、エリンシェは戸惑う。思わず視線を彷徨わせ、ジェイトを見ると目が合う。その瞬間、〝彼〟は心配そうな表情を浮かべて言った。
「――エリンシェ。 今日のところは帰ろう。 少しずつでいいから、強くなればいいんだよ。 ……それに僕がいるのを忘れないで。 僕、君の力になれることはできるだけするから」
……ただの人間であるジェイトには〝番人〟であるセルゥーガの先ほどの言葉はきこえていなかっただろう。それでも、エリンシェのことを思い、真剣にそう訴えているのだろう。
それだけでエリンシェにはジェイトのおもいがわかり、更に悩み始める。けれど、フィルネリアが話していた〈慌てることはない〉という言葉が頭をよぎった。ひとまず、その日は戻ることを決め、エリンシェは口を開いたのだった。
「分かった。 だけど、私、少しずつでも強くなるから……。 ――だから、お願いね、みんな」




