Feather 2 ଓ 〝転翔〟 〜〝soar〟〜
ଓ
……やはり何度考えても、思い浮かぶ答えはたったひとつだけだった。
けれど、そうだとは分かっていても、エリンシェは自分の思いを中々アリィーシュに打ち明けられずにいた。……あの魔法陣――あれを思い返すと、やはり〝神殿〟には容易に行くことができる場所ではないと思わずにはいられなかったのだ。
かと言って、一人で行って進展があるかと考えれば、何もないだろうという答えにしかたどり着かなかった。……どうしたものか。
(アリィに頼んでだめなら、私が自分で行けたら……。 それなら、ジェイトも一緒に連れて行けるかな)
あれこれ考えているうちに、エリンシェはふとそんなことを思い付いた。果たして本当にそれが実現可能なのか、もう一度じっくり思考を巡らせ始める。
……やはり、鍵となるのはあの魔法陣だろう。おそらく、あの中に神達が用いている「転移」の術が組み込まれているのだろう。きっと、術そのものは難しいものではないのだろう。特殊だったのは〝神殿〟の方――何か封印のようなものが施されているのかもしれない。だとすれば、ひとまずは……――。
「……アリィ。 私、あの魔法陣に描かれてた『転移』の術――あれを覚えたい。 ――あの術、教えてもらえる?」
――ひとまず、「転移」の術を使いこなすことが一番の近道だろう。そう結論づけて、エリンシェは早速アリィーシュに呼び掛ける。
〝えっ……? エリン、よくそれが分かったわね? 確かに、覚えておいて損はないけど……。 どうしてまたそんなこと思い付いたの?〟
「うん、ちょっと思うところがあってね……。 でも、強くなるためではあるの。 だからアリィ、お願い」
戸惑いながらもすぐに答えたアリィーシュにそう頼み込みながら、エリンシェはひとまず彼女に胸の内を明かさないことを決心する。……一人でできるようになったら、必ず相談しようとそう考えながら。
〝……分かったわ〟
そんなエリンシェの固い決意が伝わったのか、アリィーシュが姿をあらわし、空中に魔法陣を描いてみせた。似てはいるが、あの時とは少し違う術式だということを感じ取りながら、エリンシェは彼女の説明を待った。
〝これが私達の使う「転移」の術――「転翔」よ〟
「……〝転翔〟」
実際に口に出して唱えてみても、当然何も起こらなかった。〝聖光〟よりずっと修得が難しい術かもしれないと考えながら、エリンシェはしばらくじっと空中の魔法陣を見つめた。ふと思い立って〝聖杖〟を呼び出し、試しに見よう見まねで魔法陣をなぞる。
全部なぞり終えて、エリンシェはその魔法陣があくまで補助的な役割しか持っていないことに気付いた。……なるほど、「転移」するには別の「もの」を使うわけか。
〝気付いた? ――そう、この魔法陣はあくまで修得する時や特別なところへ行く時にしか使わないの。 ……あくまで補う力しか持っていない、ってところね。 私達が空間を「転移」するのに使っているのはあくまで「羽」――「羽」で別のところへ翔んで移動しているの〟
アリィーシュの説明を聞きながら、エリンシェはなるほどと納得した。……確かに〝羽〟には相当の〝力〟がある。つまり、その〝力〟を使って「転移」を行うというわけだ。
〝そう。 ――私達は「羽」さえあれば、何処へだっていけるのよ〟
エリンシェはうなずいて、もう一度魔法陣をなぞる。アリィーシュの説明を反すうし、頭の中で想像を描きながら、目を閉じる。
(……いける?)
気が付くと、エリンシェは手にした〝聖杖〟にそう問いかけていた。……少し待つと、まるで〝聖杖〟が応えるかのように、あたたかい熱を発して応えたような気がして、エリンシェは集中しながら〝羽〟を広げ、唱えた。
「――〝転翔〟!!」
その次の瞬間、エリンシェは自分の身体が宙に舞い上がる感覚を覚えた。だが、それはほんの一瞬の出来事で、すぐにその感覚も消え失せてしまう。……けれど、きっとこの感覚だ。もう少し、〝羽〟を使って行きたい場所を思い浮かべれば、アリィーシュの言う通り、其処へいけるようになるのだろう。
「今……ちょっとできそうだった」
〝……そうね。 少し説明しただけなのに、エリンはすぐに色々と理解できるみたいね。 その分だと練習すれば、「転翔」もじきに使いこなせるようになるかもね〟
相づちを打つアリィーシュはやはりどこか、戸惑いを覚えているようだった。そんな彼女の様子が気になりつつも、エリンシェは近いうちに必ず〝転翔〟を修得しようと決心するのだった。
ଓ
そうこうしている間に、休暇期間も明け、三年目の学舎生活が始まった。特に問題もなく、平穏な日々を送りながら、その合間を縫って、エリンシェはひたすら〝転翔〟を練習していた。
とはいっても、ただがむしゃらに練習をしているわけではなかった。エリンシェは「何もない」ことに――【敵】の動きに何もないことに違和感を覚えていたのだ。……それに、あの夢のことも気になっていた。現に、昨年とは違ってヴィルドからの接触もない。かえって、平穏過ぎる日常により、不安が煽られていた。
……いつ何時、【敵】が襲いかかってくるか分からない。――だからせめて、少しでも強くならなければいけない。そう考えて、エリンシェは一刻も早く〝転翔〟を修得しようと練習していたのだ。その成果もあって、〝聖杖〟を手にしてさえすれば、術式がなくても少しの距離なら「瞬間移動」できるようになっていた。
初めて〝神殿〟に行った時にはまだ分からなかったが、エリンシェはあの日を境にほんの少しずつではあるが、〝聖杖〟と「心」を通わすことができるようになっている気がしていた。……だが、やはり足りないのは変わりないのだ。
(待ってて、すぐに逢いにいくから)
そして……――。
「アリィ、今ならできそうな気がする! 見てて」
――そんな決心をしたすぐ後に、エリンシェはアリィーシュに呼び掛けて、〝聖杖〟を握った。
頭の中に術式を思い浮かべ、深呼吸をして集中すると、〝羽〟を広げる。――行きたいのは丘。あそこまでとんでみせる!
(いけるよね?)
初めて〝転翔〟を唱えた時と同じように、エリンシェは〝聖杖〟に呼び掛けていた。
「〝転翔〟!!」
そして、すぐに〝聖杖〟が応えたのを確認すると、高らかにそう唱えた。
ふっと身体全体が宙に浮かぶような感覚を覚え、エリンシェは〝羽〟に意識を集中させ、〝聖杖〟に丘に行きたいという意志を伝える。すると、〝力〟がふわっと空高く舞い上がるように作用するのを感じて、エリンシェはその流れにのった。
――次の瞬間だった。
……翔んだ!! エリンシェはそう感じたのと同時に目を開けると、そこには丘が広がっていた。
「できた」
つぶやきながら、エリンシェは握った〝聖杖〟をしばらく見つめ、ある決心をする。――深く一つ息を吸って、「……アリィ」と呼び掛けた後、思い切ったようにずっとため込んでいた思いをアリィーシュに伝えるのだった。
「――私ね、ジェイトと一緒に〝神殿〟へ行ってみたいの! なぜかは分からないけど、〝彼〟と一緒なら『何か』変わりそうな気がするから。 だから、ね、アリィ、お願い。 ジェイトを〝神殿〟に連れて行ってもいい?」




