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Angelic Storia  作者: 紡生 奏音
Wing Ⅰ Episode 3 翼――それは絆を紡ぐ〝もの〟
61/151

Feather 1 ଓ 〝神殿〟 〜〝sanctuary〟〜


    ଓ


 夢を、見た。――恐ろしい夢だ。


 「あの時」のように、「カラダ」が自分の意志で動かせずにいた。

 目にうつるのは揺らめく【】――【ソレ(・・)】はどこかヴィルドにも似ていた。その傍らには、【ソレ】を凌ぐほどの【】が潜んでいた。一方の【闇】はどこかゼルグに似ていた。

 【影】と【闇】を見ていると、何か、嫌な予感がして仕方なかった。目をそらしたいのに「カラダ」が言うことを聞かないため、動くことすらできない。ただただ戦慄せんりつしながら、成り行きを見るしかなかった。

 そうしているうちに、【闇】が大きくうごめいた。揺らめく【影】が振り返る暇もなく、【闇】に覆い尽くされる。そして、【闇】が【影】を吸収し、一弾と大きく拡がった。……【闇】がどこか勝ち誇ったように笑っているような気がした。

 叫び声も上げられず、恐怖に呑まれそうになりながら、その場にたたずんでいることしかできずにいると、【闇】がゆっくりと振り返った。明らかにこちらを見ている。――今度は自分の番なのだ。

 助けて、誰か助けて!! 必死に心の中でもがくが、やはり「カラダ」は動かず、どうすることもできなかった。

 そして、【闇】が大きく拡がり、まっすぐにこちらへ向かって……――。


    ଓ


 はっと息をのんで、エリンシェは目を覚ました。

 ……夢か。荒い呼吸と早鐘のように鳴る心臓を何とか落ち着かせようと、深呼吸を繰り返す。それと同時に、エリンシェは自分に言い聞かせるかのように、何度も心の中で唱えた。――夢だ、あれは夢なのだ。

 それでも落ち着かず、エリンシェは右手にはめた指輪に触れ、もう一度深呼吸をした。……大丈夫、私は戻って来た(・・・・・)。――〝彼〟の元にちゃんと戻って来た(・・・・・)

 指輪に触れているだけで、エリンシェは気持ちがだんだん落ち着いていくのを感じていた。それと同時に、どうしようもなく 〝彼〟に会いたくなる。

 ――ジェイト。エリンシェは目を閉じ、心の中で〝彼〟の名前を呼んだ。先日ついに、お互いにおもいを伝えることができ、はれて恋人同士となることができたのだ。

 すっかり落ち着いたところで、エリンシェは窓の外を見る。まだ夜明け前だ。……今度、休暇中に時間があれば、〝彼〟――ジェイトに会いに行こう。そんなことを考えながら、エリンシェは再び、床につくのだった。



「――アリィ、早く〝神殿〟に行こうよ!」

 夜が明け、再び目が覚めるなり、エリンシェは開口一番、アリィーシュに向かって呼び掛けた。

 今度は夢も見ず、ぐっすり眠れたものの、やはり多少の不安が拭えずにいた。それを打ち消すためにも、エリンシェはなるべく早く、行動に出ることを決心したのだ。

〝どうしたの? そんなに慌てることはないじゃない〟

 アリィーシュが面くらったような表情を浮かべながら、すぐに姿をあらわし、エリンシェをなだめるように話した。

 エリンシェは唸りながら、夢のことをアリィーシュに話すべきか悩んだ。……なぜだろうか、あの夢のことを口にするのに、なぜかためらいがあった。言葉にしてしまえば、「正夢・・」になってしまうような――そんな悪い予感がするのだ。

「なんでもない、ちょっと嫌な夢見ちゃって……。 ――とにかく、少しでも早く、〝聖杖ケイン〟と絆を深めて強くなりたいってそう思っただけだよ」

 そんな予感を振り払うように、首を横に振りながら、エリンシェは誤魔化すようにそう話した。

 険しい表情を浮かべて、アリィーシュがそんなエリンシェをじっと見つめながら、どうするべきか悩んでいる様子だった。

「アリィ、お願い」

 ――どうしても強くなりたい。エリンシェはそんな思いを込めて、念押しする。〝うーん……〟と長めのうなり声を上げた後、アリィーシュはまだ悩ましそうにしながら〝分かった〟と渋々承諾した。

〝だけど、「今すぐ」はだめだからね。 きちんと支度をしてからよ? 「神殿」は護られていて、そう簡単には行けないように――「転移」じゃないとたどり着けないようになっているの。 誰かを連れて行くのなんて初めてだから、少し「力」を貯めておくわ。 だから、その間に準備して来てね〟

「ありがとう!」

 アリィーシュのその言葉にぱっと顔を輝かせ、エリンシェは駆け出す。そして、意気揚々と支度を始めるのだった。


    ଓ


 準備が終わり、部屋に戻ると、アリィーシュが〝ステッキ〟を手にして、光で空中に描かれた魔法陣に向かって、〝気〟を送り続けた。

 エリンシェは〝聖杖ケイン〟を手にし、アリィーシュの隣に立ちながら、彼女と同じように、魔法陣に〝気〟を送り始める。その次の瞬間、エリンシェは何となくではあるが、魔法陣が相当、特殊なものであることを感じ取った。……二人だと行くのがそんなにも難しい場所なのか。

「――ねぇ、アリィ。 その〝神殿〟って何処にあるの?」

〝説明が難しいけど、強いて言うならテレスファイラと天界の(はざま)……ってところかしら。 ――【誰】にも侵されない「聖域」にあるのが「神殿」よ〟

 ……【誰】にも侵されない「聖域」――エリンシェはアリィーシュの言葉を反芻はんすうして、思わず物怖じした。そんな普通のヒトではたどり着けないような「場所」に、これから自分は足を踏み入れるのか。だが、「其処ソコ」に行かなければ――「其処ソコ」で少しでも強くならなければ、本当の意味での「幸福しあわせ」を得ることはできないのだ。そう考えて、エリンシェは覚悟を決めた。

「お願い、アリィ」

 エリンシェの言葉に、アリィーシュが深くうなずいてみせた。そして、〝ステッキ〟を強く握り、何かを唱えると、エリンシェを振り返って言った。

〝じゃあ、エリン。 目を閉じたらそのまま魔法陣に向かって強く「気」を送って〟

 すうっと息を吸うと、エリンシェは言われた通りにする。

 しばらくそのままにしていると、アリィーシュが〝ステッキ〟を振って、リィンと鈴を鳴らすのが耳に入った。



〝――いいわよ〟

 言われてエリンシェはすぐに目を開ける。

 そこはとても大きな広間だった。――何もない空間の真ん中に、エリンシェはたたずんでいた。

 少し経って、エリンシェはすぐに〝力〟がみなぎって来るのを感じた。全身にビリビリとその震動が走り、思わず圧倒されそうになる。

〝どう、「何か(・・)」感じる?〟

 そう言って、振り返るアリィーシュの姿が普段よりはっきり目に映った。〝神殿〟に入ったことで、彼女の〝力〟も増しているのだろう。

 少し考えて、エリンシェは目を閉じ、〝神殿〟による〝力〟の全てを感じ取ろうとした。足を踏み入れてすぐ、一見した限りでは何もなさそうに見えても、実際はそうではないと、エリンシェは気付いていた。この〝神殿〟のどこかに〝何か(・・)〟がいる――そんな気がしたのだ。

 ……だが、現在いまの段階ではその〝何か〟と出逢うことはできない。エリンシェはそう強く感じて、目を開くと首を横に振ってみせた。

「分からないけど、『何か(・・)』足りないような……そんな気がする」

 そう口にした後、ふと、エリンシェの頭にジェイトの顔が思い浮かんだ。……なぜだろう。〝彼〟と此処ココに来れば「何か(・・)」変わるような……――そんな気がした。

 だが、実際にジェイトを此処ココに連れて来るのは難しいことなのだろう。そう考え直して、エリンシェは〝聖杖ケイン〟をじっと見つめる。……けれど、やはり「何」も起こりそうにない。

「……やっぱりだめ。 今日は何だかだめみたい。 アリィ、悪いんだけど、今度また此処ココに連れて来てくれる?」

 そう言いながら、エリンシェは仕方なく、その日は一旦諦めることにした。だが、やはり再び思い浮かんでくるジェイトの顔を振り払えないまま、アリィーシュと共にその場を後にしたのだった。

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