Episode 3 Prologue ଓ 因縁 〜fate 〜
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――これはとある昔話。
アリィーシュがまだ、封印される前の出来事。
とある【邪神】達とテレスファイラの守護神・アリィーシュの因縁の物語。
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その「事件」が起きたのは、アリィーシュが守護神となってしばらく経ってからのことだった。
旧王国が滅びた原因が邪神だと噂される中、テレスファイラの守護神には〝力〟のある者を――と選ばれたのが、アリィーシュだった。彼女は〝聖武器〟の中でも〝力〟のある者が持つとされ、上位のものと位置付けられている〝杖〟を使いこなしているからだった。
「守護神」というものになったことがなかったアリィーシュは初めこそ戸惑ったものの、やがてはテレスファイラに棲まうもの全てを慈しむようになり、その全てを「脅威」から守り抜くことを心に誓うようになった。――そうして、テレスファイラに平和がもたらされるようになったのである。
……だが、そんな平和も長くは続かなかった。――何年かに一度訪れる、邪神達の【力】が強まる「年」に、「事件」は起きたのである。
その「年」になると、邪神達の中には襲撃を行い、天界や各地を襲う者達もいた。大神・ディオルトはそんな邪神達に対抗すべく、〝奇跡〟を行い、戦える全ての神達を実体化させることにしていた。
アリィーシュもその中の一人だった。実体化され、テレスファイラの地を守ろうと警戒していた最中、〝聖武器〟の創造神であるアルジェクトの襲撃の噂を聞きつけたのである。
【力】のあるその邪神がどこかを襲うかもしれない。アリィーシュは思わず戦慄を覚えた。その当時にはもう、テレスファイラはすっかり豊かな地へと発展していた。おまけに、そこを棲まう人々は魔法を使う――つまり、「力」に満ちあふれていて、邪神達にとっては恰好の的ともいえた。その上、守護神であるアリィーシュには〝力〟がある。いつ何時襲撃があってもおかしくはなかった。
――たとえ、この身がどうなろうと、テレスファイラだけは守り抜いてみせる。アリィーはそんな決意を固め、襲撃に備えた。
その矢先、【彼】――ゼルグがアリィーシュの元にあらわれたのである。
「――やあ、はじめまして。 キミがココの守護神、だね?」
くつくつと笑いをこぼしながら突如あらわれた【邪神】ゼルグに、思わずアリィーシュは気圧されそうになった。【彼】は強化された【力】を使い、どうにかして実体を手に入れたのだろう。そこまでやってのける【力】の差に、アリィーシュは再び戦慄した。……だが、たとえ差し違えてでも、この地を守り抜かなければならない。
「だんまりか……まあいいや。 だけど、女神ってのは良いねぇ。 ボク、神々の中でも女神をやるのが好きなんだ。 ――オンナってのは〝心〟も壊しやすいから」
そう言うと、冷たい瞳を浮かべ、ゼルグが巨大な【鎌】を取り出し、漆黒の翼を広げ、アリィーシュに向かって一直線に向かって来た。
アリィーシュは息を呑むと、鈴のついた〝杖〟を取り出した。そして、舞うように旋回した後、その勢いのまま、羽を広げ、【鎌】を跳ねのける。
「ぐっ……!?」
その【力】の差に、アリィーシュは思わず声を上げる。たった一撃なのに、頬を冷や汗がつたうのを感じた。……駄目だ、勝てそうにない。
「へぇ……〝結界〟を張ったんだね? それで、ボクからココを守ったって思い込んでるワケだ? 残念だねぇ、このボクがそんなヤワなものにつかまるワケないじゃないか」
舞うように旋回したのは〝結界〟のためだと、容易に見透かされ、アリィーシュは更に焦りを感じる。……いけない、弱気になっては。何が何でもテレスファイラを守り抜かなければならない――気持ちで負けていたら、本当にやられてしまう。
続けざまに、ゼルグが【鎌】を振り上げる。アリィーシュはその一つ一つをかわしながら、打開策を講じる。そして、ゼルグとの距離が空いた一瞬の隙をついて、〝杖〟を大きく振りかぶりながら唱えた。
「〝聖光〟!!」
そのまばゆさに、ゼルグが怯んだように、目を背ける。
アリィーシュは立ち止まり、〝杖〟を抱くように持つと、「……〈ベル〉」と〝杖〟に呼びかけた。
「お願い、力を貸して」
そうつぶやくと、目を閉じ、アリィーシュは〝杖〟を振りながら鈴を鳴らし、軽い足取りで舞っていく。歌うように〝詠唱〟しながら、最後に飛び上がり、再び〝杖〟を大きく振りかぶろうとした。
――その時だった。
「ゼルグ様!」
結界の中に、突然【闖入者】が割り込んだ。
慌てて、アリィーシュは動きを変え、旋回して〝結界〟をもう一度張った。そして、その【闖入者】をにらみ付ける。
「……リノウか」
ため息交じりに、ゼルグが【闖入者】に呼び掛ける。【闖入者】――リノウと呼ばれた、紅い瞳で漆黒の長い髪をした女性の【邪神】はアリィーシュに目もくれず、ゼルグの元へと走った。
「ゼルグ様、どうしてアタシを連れて来てくれなかったんですか? アタシ、きっと貴方様の力になれたのに」
「煩い、ボクを誰だと思ってる。 ボクはお前の助けなんかいらない――これくらいのエモノ、一人でやれる」
ゼルグとリノウのやり取りを聞きながら、アリィーシュはどうするべきかを考えていた。〝結界〟を破るほど【力】の持ち主ではあるが、リノウ一人なら何とか対処はできただろう。だが、今の【敵】はあくまでゼルグ――リノウと協力して、二人がかりで襲われでもすれば、あまりに分が悪かった。
ふと、リノウがアリィーシュを振り返った。一目彼女を見た瞬間、リノウは瞳を憎悪で燃やしながら、どこかから取り出した【鞭】を手にして、ゼルグに訴えた。
「ゼルグ様、アタシ、アイツを必ず仕留めてみせます。 だから……」
「――煩い、何度言わせる。 アレはボクのエモノだ」
そんなやり取りを交わし、リノウと、【彼女】を無視したゼルグがほぼ同時に飛び出し、アリィーシュへと向かって来た。
……最悪だ。アリィーシュはとっさにバリアを張り、二人の攻撃を跳ねのける。だが、その【力】の余波が〝結界〟に影響を及ぼす。――〝結界〟にひびが入った「感覚」に、アリィーシュはまた焦り始める。
(まずいまずい……)
リノウが割り込んで来たことで、アリィーシュの計算が全て狂ってしまった。ゼルグにありったけの〝力〟をぶつけて、〝封印〟を施すつもりだったのに、リノウのせいでそれも難しくなった。このままでは、テレスファイラが……。アリィーシュは途方に暮れる。
「このオンナ、中々しぶといわね。 さっさとやられなさいよ」
よほどゼルグの気を引きたいのだろう。リノウが再び【鞭】を振り上げ、アリィーシュを捕らえようとする。はっと息を呑んだアリィーシュだったが、避け切れず左腕を【鞭】で絡めとられてしまう。
「手を出すなと言ってるだろうが!!」
そこに、ゼルグが声を荒げ、【鎌】を振り下ろしながら、割って入った。【彼】がリノウすら巻き込もうとしていることに、アリィーシュは恐怖を覚えながら、何とか〝杖〟を振りバリアを振ってゼルグの攻撃を防いだ。
ゼルグの凄まじい【力】に、ついに〝結界〟が崩壊してしまったのを感じ取り、アリィーシュは絶望する。さらに、先程の一撃で、もうほとんど〝力〟を使い切ってしまい、対抗する術もなくなってしまった。
(……だめ)
アリィーシュの脳裏に、彼女の愛したテレスファイラの光景や人々の姿を浮かぶ。……ようやく、この地にも平和が訪れたというのに。あと一撃もあれば、世界は「崩壊」してしまうかもしれない。それだけはどうしても避けなければならない。
「大神様……」
無意識にそうつぶやきながら、アリィーシュは残った〝力〟を振り絞り、リノウの【鞭】を引き寄せ、その腕をしっかり掴み、〝杖〟を振って〝光〟でゼルグを拘束する。
「大神様、お願いです! 私達を封印して下さい!!」
『なっ!?』
その言葉を聞いて、【邪神】二人が慌ててアリィーシュから逃れようとする。けれど、彼女は二人をしっかり掴んで離さないまま、空に向かって懇願した。
「お願いです、この地を守るにはもうそれしか手段はありません! だからっ……!!」
――私ごと、封印をして下さい!! アリィーシュは涙を流し、空を見つめた。……どうしても。どうしてもテレスファイラを巻き込むことだけはしたくなかった。
すると、空が金色に輝いて、大神・ディオルトが天上から降り立った。黄金の宝珠が先端で輝く〝聖杖〟を手にした彼は、悲しそうな表情を浮かべながら、アリィーシュに問い掛けた。
「……アリィーシュよ、本当に良いのだな?」
躊躇いもなく、アリィーシュはうなずき、涙を流した。……もはやテレスファイラを守るためには、他に方法がなかった。
ため息をつき、絞り出すような声で「……分かった」とうなずくと、ディオルトは高く掲げた〝聖杖〟を見つめ、高らかに叫んだ。
「〝聖杖〟よ、我の願いを聞け。 ――彼の者達を封印せよ。 そして、再びこの地に安穏をもたらさんことを」
そして、〝聖杖〟をアリィーシュと【邪神】二人に向かって、大きく弧を描くように振り下ろした。
「〝封印〟!!」
――こうして、大神・ディオルトにより、テレスファイラの守護神と邪神二人が〝封印〟され、戦いは一旦の幕を閉じ、再びテレスファイラの地に平和がもたらされたのである。
そして、この後に予言を受けた少女・エリンシェが誕生し、〝彼女〟をも巻き込んで、「因縁」の戦いの火蓋が再び切られようとしていた。




