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――それから、時が経つにつれ、エリンシェが少しずつ変わり始めたのを、ミリアはひしひしと感じずにはいられなかった。
……「何」がそうさせているのか、はっきりとはミリアにも分からなかった。けれど、帰還して以来、特に何をするわけでもないがちょっかいを出すヴィルドに対して、エリンシェはひどく警戒心と恐怖を抱いているようだった。――〝彼女〟のずっと側にいたミリアには、それがすぐに分かった。
けれど、エリンシェ自身もあくまで無意識のようで、なぜヴィルドに怯えているのか分からない様子だった。正体不明だがどうしようもなく襲いかかるその「恐怖」に、エリンシェは焦りを感じているらしかった。また、それと同時に、「とある思い」がエリンシェの中に生じていたようだ。
それが、授業での課題をこなすため、図書館を訪れていた時に起きた一件で判明したのである。――不覚にも独りになってしまったエリンシェに、ヴィルドが接触を試みたのだ。幸いにも、ジェイトが止めに入り、またガイセルが駆けつけたことにより、大事には至らなかった。だが、その時のエリンシェは怯えた様子で少しの間ジェイトにしがみついた後、こんな言葉を口にしたのである。
「――私、少しでも強くなりたいから」
――そして、エリンシェは強くなりたいという思いを叶えるため、その一件以来、特訓を始めるようになったのだ。
そんなエリンシェを側で見ていたミリアは、〝彼女〟がだんだん強くなっていくのと同時に、少しずつ変わっていくのを肌で感じていた。……あくまで、エリンシェは「いつも通り」のはず、だった。けれど、強くなっていく〝彼女〟を見ているとミリアは、初めて会った時に感じたあの儚さを、強く覚えずにはいられなかったのだ。
けれど……。――けれど、ミリアは同時に、そんな〝彼女〟を「支え」ていける存在は、たったひとりしかいないのだと思わずにはいられなかった。もうすでに、「特別」な存在であるエリンシェは、ミリアの手の届かないところへいってしまっているのだ。
ただ、〝彼女〟を「支え」られるその人物が、それでもなお、そばにいたいと――エリンシェを守りたいと思ってくれるかどうかは、また別の問題でもあった。だが、ミリアが危惧する間もなく、その人物――〝彼〟の方から動きがあり、ミリアはカルドと共に、〝彼〟に協力していくことになったのだ。
――そう。エリンシェを「支え」られるその人物とは紛れもなくただひとり――ジェイトひとりだけだった。
ミリアがエリンシェの儚さを危うく感じていたのと同じように、ジェイトもまた、〝彼女〟のことを気に掛けていたらしかった。
何かをきっかけに、ジェイトの中でも気持ちの変化があったようで、脆く危なげなエリンシェのことを、それでもなお、「支え」守ることで「力」になりたいと思うようになったようだ。そして、強くなりたいと願うエリンシェを守れるよう、〝彼〟自身も「強く」なりたいとひそかに想っているようだった。
カルドからそんな〝彼〟のことを聞いて、協力するよう頼まれた時、ミリアはすぐに気が付いた。――ジェイトはもうすでに、エリンシェのことをおもっているのだと。
そうだと分かれば、ミリアはもちろん協力するつもりではあった。――が、やはりあの「さみしさ」だけは拭えそうになかった。ならば、せめて……。
「へぇー、やっと告白する気になったの? ……え、『まだ』しない!? もう、何、もたもたしてんのよ! あんた、『準備』が終わったら早く告いなさいよ、分かった!?」
エリンシェに合う指輪を作るため、指の採寸を聞かれた時、ミリアはそう言って、ジェイトの背中を押した。……できるだけ、エリンシェが独りになる時間を減らすためにも。
「……いい、ジェイト? 絶対、あの娘を泣かせないでね。 あの娘、ああ見えて、すぐに色んなことをひとりで抱えて、苦しんじゃうとこあるのよ。 ――それを『誰か』が支えてあげないといけないの。 ……もちろん、あたしもあの娘を支えていくつもりだけど、唯一弱さを見せられるあんたなら、もっとあの娘の支えに――あの娘の『力』になれるんだと思う。 ――だから、あの娘をお願いね、ジェイト」
――そして、せめて、少しでも早くエリンシェが幸福になれるようにと、ミリアは「さみしさ」を深いため息で誤魔化しながら、〝彼女〟のことを託すような思いで、そんな心からの願いをジェイトに伝えた。
「分かった。 絶対泣かせないって約束するよ」
ミリアの思いに応えるように、ジェイトは何かを決心したような面持ちでうなずいてみせた。
〝彼〟のそんな表情を見ていると、ミリアは「さみしさ」が少しは紛れていくような気がした。……たとえ、大事な親友が自分の手から離れていったとしても、できる限りは〝彼女〟のことを支え、側にいることにしよう。ミリアはそんな決意をひそかに抱いて、後のことはジェイトに任せることにしたのだった。
なのに……――。




