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Angelic Storia  作者: 紡生 奏音
Extra edition 2 手とてをとりあって 〜〝heart to heart〟〜
45/151

♡ 1


    ଓ


 ――ミリアがカルドを一目見た瞬間はまだ、何も感じることはなかった。

「初めまして、エリンシェ・ルイングです」「あたし、ミリア・フェンドル」

「よろしくお願いします。 僕はジェイト・ユーティス、こっちはカルド・ソルディス」

 寮室が相部屋になり、いわゆるお隣さん、ということになるので、ミリアはエリンシェと示し合わせて自己紹介をすると、〝彼〟――ジェイトがそれに応じた。

 カルドは口を開かなかったが、会釈をするとエリンシェに手を差し出した。どうやら、握手を交わすつもりらしい。

 彼の顔の険しさに、ミリアは威嚇いかくするように、カルドをにらみ付けた。すると、ほんの一瞬、カルドがミリアの方をちらりと気にした――ような気がした。

 カルドが存外優しい手付きでエリンシェの手を握るのを見て、ミリアが内心ほっとしていると、前にいたジェイトが優しい微笑みを浮かべながら、手を差し出すのが目に入った。

「よろしくね」「うん、よろしく!」

 ジェイトに応じて手を握った瞬間、ミリアは何か、弾ける(・・・)ような感覚を覚えた。はっと息を呑んでいる間に、〝彼〟はエリンシェの前へと移動していた。

 ジェイトを目で追いながら、ミリアは目の前にやって来たカルドと握手を交わした。……どうやら、カルドも〝彼〟のことを気にしているらしかった。

『よろしく』

 挨拶の言葉を口にすると、偶然、ミリアとカルドの声が同時に重なった。思わず、ふたりは一瞬目を合わせたが、すぐに目をそらし、エリンシェとジェイトのふたりの様子をうかがった。

 最初のうちは握手を交わしていたエリンシェとジェイトだったが、不意に手が止まり、やがてふたりはお互いをじっと見つめ始めた。

 そんなふたりを見て、また先程のような弾ける(・・・)感覚がミリアの身体中を走った。……このふたり、何か強いがある。――ふたりはいつか、結ばれる「運命・・」にあるのだ。

 ふたりの姿を見て、ミリアはそう直感した。その瞬間、彼女にも言われぬ「さみしさ」が襲いかかった。初めていだいたその「感情」に戸惑いを覚えながら、ふと横を見ると、カルドも何とも言えない「さみしそうな」表情かおを浮かべていることに、ミリアは気が付いた。

「……どうした、ジェイト?」

 ミリアが声を掛ける前に、カルドが一瞬で表情を変え、不思議な顔をしてジェイトに声を掛けた。それに反応して、ジェイトが慌てて、エリンシェから手を離した。

 ……きっと、表情かおを変えたのは〝彼〟に悟られないようにするためだろう。まだ名残惜しそうにしているふたりを眺めながら、ミリアはそんなことを思った。……自分は何とか「さみしさ」を押し殺すのが精一杯なのに、そんな感情を隠そうとするくらい、カルドはジェイトのことを大切に想っているのだ。

 ――似ている、とミリアはすぐに思った。その次の瞬間、彼女はカルドに親近感のようなものを覚えた。ちらりと彼を横目で見ながら、ミリアは必ずカルドに話し掛けようと心に決めたのだった。


    ଓ


「――隣、いい?」

 そして、ミリアは初日の薬学ですぐに、そんな決心を行動に移した。

 カルドは驚いた様子も見せず、「おう」とうなずいてみせた。そして、ちらりとミリアを見た後、黙々と授業の準備を始めた。

「ありがとう」

 そう言って、ミリアは遠慮なくカルドの隣に座ると、授業の合間に話し掛ける機会をうかがった。

「……ねぇ」

 ミリアが声を掛けると、カルドは視線だけを彼女に寄越よこした。どうやら先をうながしているらしい。

ジェイト(〝彼〟)とは付き合い長いの? ――何か、『さみしそうな』表情かおしてるの、見ちゃったからさ、どうしても気になっちゃって」

 それを聞いた瞬間、カルドはぴたりと動きを止め、一つため息をもらすと「……そうだな」とつぶやいた。

ジェイト(アイツ)とはかなり付き合いが長いんだ。 ――小さい頃からずっと一緒でさ、親友でもあり幼なじみでもあり、兄弟のようなものでもあるんだ。 アイツの両親おやは旅に出ることが多くて、独りでさみしそうにしてたから、そんな時はそばでいることにしてたんだ。 ……ずっと、『一緒そう』なんだと思ってたんだけどな。 だけど、そう言うお前だって、『さみしそう』だったじゃないか」

 どうやらミリアが気付いていたのと同じように、カルドも彼女が「さみしさ」を感じていたことに気が付いていたらしい。ミリアは少し恥ずかしくもあったが、カルドにいだいた親近感のような気持ちが、より強くなったのを感じながら口を開いた。

「そう、あたしも同じ。 ――小さい頃からエリンとは幼なじみでもあり、姉妹のようでもあり親友でもある、そんな関係なの。 あたしもずっとあののそばにいるんだと思ってた。 だけど……。 ――ねぇ、『思ってた(・・・・)』ってことはあんたにも分かった(・・・・)の?」

 ミリアの質問に、カルドが複雑そうな表情を浮かべる。そして、ちらりとミリアを見た後、小さく「……あぁ」とうなずいてみせた。

 ――カルドも、ふたりがいつか結ばれる「運命」だと、気付いているのだ。そうだと分かった瞬間、ミリアはますますカルドのことを身近に感じるようになった。

「じゃあ、あんたはどう(・・)思ってるの? ――あたしはあのが幸せなら、それでいいと思ってる。 だけど、あたし、ジェイト(〝彼〟)のことよく知らないから、とりあえず話をしてみたいって思ってる。 ……あんたは?」

「俺も……同じだ。 ――ジェイト(あいつ)が決めた相手なら、見守って祝福したいと思う。 だから、俺もエリンシェ(〝彼女〟)と話してみたいと思ってる」

 どうやら、カルドとはかなり気が合うらしい。彼の答えを聞きながら、ミリアは心底そう思った。……それに、男の子(オトコのコ)なのに、話していてこんなに居心地が良いと思う存在ひとは初めてだった。

「――じゃあ、決まり。 近いうちに時機を見て、あたし、ジェイト(〝彼〟)と話してみるから、あんたはあのと話してみてくれない? ……あ、ちゃんと優しくしてあげてね? ――あのを怖がらせたりしたら承知しないんだから!」

 ミリアはいたずらっぽく笑いながら言うと、カルドも釣られるようにしてにやりと微笑んで(わらって)みせた。そんな様子を見て、ミリアはカルドとは仲良くなれそうだと確信していた。

「ところで、えっと……名前何だっけ?」「カルド。 カルド・ソルディス」

「分かった、カルドね。 あたし、ミリア・フェンドル。 ミリアでいいわよ。 ――それじゃあ、カルド、これからよろしくね」

「あぁ、よろしく、ミリア」

 改めて自己紹介をして、ミリアとカルドは同時に手を差し出した。それに、ふたりで笑いをこぼした後、互いの手を取って固い握手をするのだった。


 ――それが、ふたりが初めて「手とてをとりあった」瞬間だった。

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