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Angelic Storia  作者: 紡生 奏音
Wing Ⅰ Episode 2 翼――それは〝おもい〟を知る〝もの〟
38/151

Feather 13 ଓ 【略取】 〜【taking】〜


    ଓ


「――ジェイト!」

 ジェイトの前に躍り出たのはエリンシェだった。その声に、すぐさまジェイトが反応して、エリンシェを探し求めるかのように手を伸ばした。

「エ……エリンシェ」

 名前を呼ばれ、エリンシェは息を呑みながら、ジェイトの手をそっと掴む。その次の瞬間、ジェイトが焦点の合っていない目で、手の方に顔を向け、弱々しく微笑んでみせた。

「ごめん、エリンシェ。 何とか名前は思い出せたけど、まだ全部は戻ってない。 だけど、大事な『こと』は思い出せたと思う」

 エリンシェは涙を浮かべながら、ジェイトの手を両手で握り締めた。時折唸り声を上げ、頭を抱えている〝彼〟の様子に、エリンシェは胸が詰まりそうになる。

 ふとエリンシェは、ジェイトがブレスレットを頭に当てていることに気が付いて、その手を胸元まで引くと、〝彼〟にペンダントを握らせた。そして、再び〝彼〟の手を上から握ると目を閉じ、ジェイトが少し楽になるように祈った。

 その次の瞬間、ジェイトが一度手を解いて、すぐにぎゅっと〝彼女〟の手を握り返したのを感じて、エリンシェは目を開ける。すると、そこには、しっかりと〝彼女〟を見つめて、優しく微笑んでいるジェイトの姿が映った。

「――ジェイト、私もあなたが好き」

 〝彼〟のそんな表情を見た瞬間、思わず、エリンシェは自分の「気持ち」を言葉にしてしまっていた。……ジェイトの「記憶・・」が元に戻った訳ではないのに、「気持ち」を伝えるのはまだ早い。そう思ってはいたが、一度口にすると止まらなくなっていた。

「私ね、ジェイトがいるから、皆を守ろうって思えるの。 ――私、あなたがいるから強くなれるの。 ……本当は他にもたくさんいたいことあるけど、私、ちゃんと全部『あなた(・・・)』に聞いてもらいたい。 ――だから、ジェイト、お願い。 私のところへ戻って来て」

 エリンシェの「気持ち」を聞いたジェイトが、それに何とか応えようと、〝彼女〟に手を伸ばした。エリンシェも〝彼〟のその腕に飛び込もうとした。


 ――その瞬間だった。


「……っ!?」

 突然、エリンシェの身体に激震が走った。――自分の意思で身体を動かせなくなり、エリンシェはそのまま地面に倒れ込んだ。

「エリンシェ!」

 すぐさま、目の前にいたエリンシェをジェイトは受け止めようとしたが、〝彼女〟の周りに【瘴気しょうき】が走り、その手を跳ね返した。

 異変に気付いたミリアとカルドもエリンシェの元へ駆け付けたが、ジェイトと同じく何もできずに、見ていることしかできなかった。

 そして、エリンシェに宿っていたアリィーシュも、【瘴気】に弾き出されるようにして姿をあらわした。アリィーシュは慌てて、〝彼女〟を守ろうと、再びエリンシェの身体へ宿ろうとしたが、【瘴気】がそれを許さなかった。

 まとわりつく【瘴気】に、エリンシェは恐怖を感じたが、声を出すこともできなかった。――助けを求めることも、悲鳴を上げることも許されず、エリンシェの心は恐怖で埋め尽くされていく。

 その場にいた全員が手も足も出ずに佇んでいると、不意に、上空から高笑いが聞こえた。見上げるとそこには、勝ち誇ったように笑みを浮かべているゼルグがいた。

「――やあ、迎えに来たよ(・・・・・・)

 ゼルグのそんな言葉に、エリンシェの身体がぴくりと反応する。――「カラダ」は〝彼女〟の意思と裏腹に、ゆっくりと立ち上がると、ゼルグの元へ向かおうとした。

(どうして……!? お願い、やめて!!)

 エリンシェは抵抗しようとしたが、「カラダ」は依然として言うことをきかない。そこで、エリンシェはふっと気が付いた。……【薬】だ、――あの【薬】のせいで、自分の「カラダ」はゼルグの言うことをきいているのだ。

「エリンシェ!!」〝エリン!!〟

 ジェイトとアリィーシュが必死にエリンシェを止めようとするが、【瘴気】のせいで何もできずにいた。

 そうこうしているうちに、エリンシェの「カラダ」はゼルグの元へと高くび立った。【彼】はエリンシェが目の前までやって来ると、そのまま〝彼女〟を抱きかかえた。

 「カラダ」も大人しくゼルグに抱かれ、エリンシェはされるがままに成り行きを見守るしかなかった。

「心配しなくても、今楽にしてあげるよ。 ――しばらく眠ってな」

 そう話すと、ゼルグはエリンシェの目の前に手をかざすと、〝彼女〟に向けて【力】を放った。

 当然「カラダ」が言うことをきかず、抗うこともできないまま、エリンシェはその【力】をもろに受ける。……嫌だ、こんなの嫌だ!!  何の抵抗もできず、涙を流すことも許されないまま、エリンシェは意識を手放したのだった。


    ଓ


 ――気が付くと、そこには【闇】が広がっていた。

あるじ様、主様!〉

 その【闇】に呑まれそうになっていると、〈誰か(・・)〉が〝彼女〟を引き止めた。

 まばゆい〝輝き〟を放つその〈誰か〉に、〝彼女〟は「何か(・・)」既視感を覚えた。

〈主様、【闇】に【支配・・】されてはなりません。 状況は極めて厳しいですが……「今」となっては少しでも抵抗して、これ以上の「悪化・・」を防がなくてはいけないのです。 ――微力ながら、私も主様をお守りいたします。 ひとまず、主様、一度【闇】からのがれてください〉

 そう話しながら、その〈誰か〉は【闇】に向かって勢いよく〝光〟を放った。

 一際強く、まばゆいその〝光〟にも、〝彼女〟は既視感を覚える。それはまるで〝聖光オレオール〟のようで……――。

 はっと〝彼女〟が息を呑んでいるうちに、【闇】の中に一筋の〝光〟の道が開かれた。

 大きく息をついて、その〈誰か〉が〝彼女〟の方を振り返った。――〈それ(・・)〉は、金色の髪を持つ、どこか〝彼女〟にも似た、とても美しい〈女性・・〉だった。

〈主様、あちらへお急ぎ下さい。 そうすれば、この【闇】からは(・・・)逃れられます。 さあ、早く! ――此処ココを抜け出してすぐに抵抗しなければ、あなたの大切な〝御方〟に会えなくなってしまいます。 一刻も早く此処を出て、〝その御方〟の名を呼んで下さい〉

 その〈女性〉に言われるがまま、〝彼女〟は〝光〟の道へと走る。けれど、立ち止まると一度だけ後ろを振り返って、〈女性〉をじっと見つめた。――〈彼女〉の〈正体・・〉に気が付いてしまったからだ。

 一瞬困ったように苦笑いを浮かべたが、〈女性〉はすぐにその表情を消して、〝彼女〟に優しく微笑みながら、最後に言った。

〈ご安心下さい、またすぐに逢えます。 不本意ながら此処ココで出逢えたことにより、私達の「」は深まりました。 今度逢えた時にはもっと「」を通わせられるでしょう。 ――ですから、それまでのしばしのお別れです。 さあ、行って下さい!〉

 そして、〝彼女〟の背中を押すかのように、両手を前に押し出した。すると、〈女性〉のその手から今度は優しい〝光〟が放たれた。〝光〟はまっすぐに飛ぶと〝彼女〟を包み込んで、そのまま道の先へと向かった。

 〝彼女〟は〝光〟に流されながら、もう一度〈女性〉を振り返る。もうすでに〈女性〉が遠くにしか見えなくなっていたが、〈彼女〉がまだ優しい微笑みを浮かべているのが、最後に見えたような気がした。


    ଓ


 ふと、エリンシェは意識を取り戻し、ゆっくりと目を開ける。

 最初に目に映ったのはベッドの天蓋だった。少し辺りを見回すと、いつか連れて来られたのと同じ場所だと気が付く。

 ……頭が痛い。気を失う前と違い、身体を自分で動かすことができそうだった。少し身じろぎをして、エリンシェは手と足が片方ずつ重いことに気が付いた。手を少し動かすと、金属音が耳に入った。――鎖で繋がれている。

「目が覚めたんだね」

 天蓋の外から、そんな声が聞こえる。その声に、身体がぴくりと反応する。――またもや、「カラダ」がエリンシェの意思で動かなくなった。

 どうすることもできずにいると、エリンシェの目の前にヴィルドが現れた。いつか見た虚ろな表情とはうってかわって、ヴィルドは生き生きとした、満悦そうな笑みを浮かべている。

 動けずにいたエリンシェだったが、ヴィルドの「中」にゼルグの【気】が在るのをしっかりと感じ取っていた。――だが、どうすることもできず、ただただ成り行きを見守るしかなかった。

 不意に、ヴィルドがエリンシェの上に四つんいになると、ますます満足そうな表情を浮かべた。そして、エリンシェの隅から隅までをじっと見つめると、小さくつぶやいた。

「あぁ、キレイ(・・・)だ。 ――本当にキミはキレイ(・・・)だ」

 そして、エリンシェの髪をすくいながら、彼女の耳元で「好きだ」とささやいた。

「一目見てからキミのことが好きだったんだよ、エリンシェ」

 内心、エリンシェは身の毛がよだっていた。けれど、やはり「カラダ」は言うことをきかず、声も出ないので悲鳴も上げることができなかった。

「ねぇ、いっそ『心』を手放したらどう? そうすれば、何もかも忘れられて、ずっと早く楽になれるよ? だから、ね、エリンシェ。 ――大人しく言うことをきいて、ボクのモノになりなよ」

 ヴィルドはそう囁きながら、今度はエリンシェの手を握った。その瞬間、〝彼女〟の身体はびくんと跳ね上がった。だが、それもほんの一瞬のことで、「カラダ」は彼に全てを委ねようとしていた。

 ……嫌だ。そんなの、絶対に嫌だ!! エリンシェはヴィルドから逃れようと必死にもがいたが、依然として「カラダ」はぴくりとも動かなかった。

 それでもエリンシェは抵抗することを止めなかったが、同時にとてつもなく恐怖を感じていた。……怖い。もし、このまま「カラダ」が本当に言うことを聞かなくなってしまったら、どうしよう。そんな恐ろしい考えがエリンシェの脳裏をよぎる。

 ふと、エリンシェは【闇】の中で出逢った〈女性〉のことを思い出していた。〈彼女〉は確か、抵抗しなければ大切な〝ひと〟に会えなくなると話していた。――頭に浮かぶのはただひとり。このまま【敵】の手に堕ちて、〝彼〟に会えなくなってしまう訳にはいかなかった。

 〝力〟を振り絞り、エリンシェは更に抗い続ける。そうしているうちに、つと、頬に冷たいものが伝った。

「……いで。 ――私に触らないで!!」

 気が付くと、エリンシェは涙しながら叫んでいた。それを引き金に、声が出せるようにはなっていたが、未だ「カラダ」の自由はきかなかった。

「お願い、助けて……」

 その事実に、エリンシェはどうしようもなく不安を抱いて、抵抗しながらも無意識に、〝彼〟に助けを求めていた。……もしかすると、〝彼〟はまだ完全に「記憶・・」を取り戻していないかもしれない。それでも、エリンシェは〝彼〟を求めていた。――不安や恐怖を感じた時、いつも「力」になってくれるのは〝彼〟ひとりだけなのだ。

「――助けて、ジェイト!!」

 エリンシェが〝彼〟の名前を呼ぶと、ヴィルドの表情がたちまち怒りに染まった。ヴィルドは見せつけるように、エリンシェの髪をもてあそぶと、鼻で笑い飛ばして言った。

「無駄だよ。 いくら呼んでも助けは来ない。 いい加減諦めて、ボクのモノになるんだ」

 再びヴィルドが〝彼女〟の手に向かって、身を乗り出そうとしているのが目に入り、エリンシェは慌てて歯を食いしばると、思い切り叫んだ。

「〝聖光オレオール〟っ!!」

 すると、胸元のペンダントから〝光〟が放たれる。自由がきかないせいで威力は弱まっていたが、目くらまし程度にはなり、ヴィルドが一瞬怯んで、後ろにのけ反った。

「一体、何回言わせる気? 今度私に触ろうとしたら、次は本気でやるわよ!」

 本当はいつもの半分も〝力〟を出せていなかったが、虚勢を張って、エリンシェは威嚇いかくする。体勢を戻したヴィルドが〝彼女〟をにらみ付けたが、エリンシェも負けじと応戦しながら、吐き捨てるように言った。

「それと言っておくわ。 ――私は、決して、あなたのモノなんかにはならない! いくら私の『カラダ』の自由を奪っても、『心』が私のものである限り、私は絶対に屈しない! それに、私のこの『気持ち』は〝彼〟だけのものなんだから!!」

 その言葉を聞いて、ヴィルドが不快そうに顔を歪めた。――かと思いきや、次の瞬間、彼の口からゼルグの声で【命令・・が下された(・・・・・)

【――動くな】

 キィンと耳鳴りがしたかと思うと、エリンシェの「カラダ」は大きくびくんと跳ね上がり、そのまま動かなくなってしまった。声も封じられてしまい、エリンシェはまたもや身動きが取れなくなってしまった。

【キミも往生際が悪いね。 大人しくヴィルドの言うことを聞いていれば良かったものを。 キミがその気なら、こっちも力ずくでいかせてもらうよ】

 ヴィルド――いや、彼の身体に乗り移ったゼルグが、身じろぎするのが目に入り、エリンシェは声にならない悲鳴を上げる。

 抗う術を失くしてしまい、思わず、エリンシェは再び恐怖に呑まれそうになる。だが、それでも、決して「心」だけは明け渡すまいと固く誓った。――その時だった。

 ――リィン。

 ふと、鈴の音がその場に響き渡り、辺りをまばゆい〝光〟が包み込んだ。それと同時に、ごうっと音を立てながら強風が巻き起こった。

 天蓋が強風にあおられ、立っていられなくなった【】が、エリンシェから離れて、後ずさりをする。その瞬間を見計らったかのように、エリンシェの鎖がガシャンと大きな音を立てて切れ、そして強風に弾き飛ばされた。

 ――と同時に、どこからか勇ましい声がその場に大きく響き渡った。

「エリンシェに触るな!!」

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