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Angelic Storia  作者: 紡生 奏音
Wing Ⅰ Episode 2 翼――それは〝おもい〟を知る〝もの〟
35/151

Feather 10 ଓ 別離 〜separation〜


    ଓ


「――アリィ!」

 自分を呼ぶ声にはっとして、アリィーシュはすぐに〝彼女〟の元へと急いだ。たどり着いそこには、虚ろな表情を浮かべたあのヴィルドという少年が、とてつもない【力】をエリンシェとジェイトに向けて放とうとしていた。

 それを見た瞬間、アリィーシュは気付いた。――〝彼女〟が恐れていたのは「コレ(・・)」だったのだと。無意識に、〝彼女〟は何か良くないことが起こるのを予期していたのだ。

 どうにかして、エリンシェたちを助けなければ。そう考えて、アリィーシュは急いで飛んだが、ヴィルドの【力】はどんどん強くなっていく。……駄目だ、間に合わない!

 エリンシェの元へたどり着くと同時に、容赦なく、ヴィルドの手から【力】が放たれる。アリィーシュもその【衝撃】に巻き込まれ、エリンシェたちと一緒に吹き飛ばされてしまう。

 アリィーシュはその【力】からゼルグの【気】を感じ取った。慌てていたせいで受け身を取ることができなかったせいもあるが、アリィーシュだけ妙に遠くへ飛ばされてしまう。……ゼルグは彼女からふたりを引き離そうと企んでいたのだろう。

 凄まじい【力】に当てられ、アリィーシュは少しの間、身動きが取れずにいたが、〝彼女〟を守らなくてはという思いを糧に、すぐさま起き上がった。

 ――けれど、一足遅かった。いつの間にか、ヴィルドの側にゼルグが姿を現していた。二人は、気を失っているふたりと共に、【闇】の中へと姿を消した。アリィーシュは、ゼルグが不敵に笑いながら、一瞬こちらを振り返ったような気がした。

 ……やられた。アリィーシュは悔しく思いながら、軽く目を閉じ、ゼルグの【気】を辿ろうと意識を集中させる。――だが、できなかった。恐らく先読みされていて、アリィーシュが接触できないように、【遮断・・】しているのだろう。

 ため息をついて、アリィーシュはふたりがいた場所へと向かう。……何か手掛かりになるようなものが落ちているかもしれない。そう考えて、辺りを見回していると、アリィーシュは小さな箱が落ちていることに気が付いた。

 綺麗に包装されているその箱はとても大切にしていたのだろう。アリィーシュはすぐに、ジェイトのものではないかと思い付いた。そっと箱に手を伸ばし、それを〝彼〟の寮室へと送り込んだ。

 そして、もう一度、アリィーシュはゼルグの【気】を探ろうとしたが、やはりその行方をつかめそうになかった。途方に暮れながら、アリィーシュは物思いにふけり始める。……それにしても、ヴィルドがあれほどの【力】を持つようになるとは。おまけに、彼は虚ろな表情を浮かべていた。――そんな様子を見ると、ヴィルドはよほど、ゼルグに【浸蝕・・】されているのだろう。……もはや、時間の問題(・・・・・)かもしれない。

 思わず、アリィーシュはため息をついた。……ゼルグの行動はこちらの予想を遥かに超えてくる。――ゼルグは恐らく、間もなく訪れる「例の年(・・・)」に決着をつけるつもりなのだろう。それまでに、ヴィルドの身体も乗っ取ろうといるのだろう。……こちらも何とかしなければ。

 アリィーシュがそんなことを考えていると、突然、【闇】の空間が現れ、そこから気を失ったままのエリンシェとジェイトが転がり落ちて来た。ふたりを吐き出すと、【闇】はすぐに忽然と消え去った。

〝エリンシェ! ジェイト君!〟

 すぐさま、アリィーシュはふたりの元へと駆け付けた。エリンシェの顔をのぞき込むと、〝彼女〟の頬が濡れていることに、アリィーシュは気が付いた。――泣いていたのだ。息を呑んで、息が荒く苦しそうなエリンシェに必死に呼び掛ける。

〝エリンシェ、エリンシェ!〟

 その傍らで、ジェイトの様子もうかがう。一方の〝彼〟は気を失ったまま、ぴくりとも動かない。アリィーシュには、ふたりがゼルグとヴィルドによって、何かされたのだと察しが付いていた。

「あ……アリィ?」

 ふと、エリンシェが目を覚まし、はっと息を呑んだ。まだ混乱しているらしく、身体を起こした後しばらく辺りを見回していた。少し経って気持ちが落ち着くと、近くにジェイトがいることに気が付いて、ほっと胸を撫で下ろした。

〝エリン、間に合わなかったわ、ごめんなさい。 ……それで、何があったの?〟

 落ち着いたところで、アリィーシュが声を掛けると、エリンシェは何度も首を横に振った。そして、涙を浮かべながら、小さく「分からない……」とこぼした。

「私たち、どこか知らない場所で、【薬】を飲まされたの。 ジェイトは気を失ったままだったのに、無理やり……。 私のせいだ、ジェイトは何も関係ないのに! ……私、気が付いていたのに、ゼルグに何かされて、身体が動かなくて何もできなかったの。 そのまま私も【薬】を飲まされて、気が付いたらここに……」

〝あなたのせいじゃないわ、エリン。 私があなたを守れなかったからよ。 ……本当にごめんなさい〟

 アリィーシュがそう話して謝ったが、エリンシェはただ首を横に振って、彼女を責めようとはしなかった。

 小さく震えて怯えているエリンシェの様子に、アリィーシュはゼルグへの憤りを感じた。それと同時に、ふたりが飲まされたという【薬】のことが気に掛かった。

〝エリン、【薬】は? ――どんな【薬】だったの?〟

「ジェイトのは白く濁った【薬】だった。 私は透明のを飲まされた。 だけどね、何の味もしなくて、逆にそれが何だかすごく怖かったの」

 エリンシェから【薬】の特徴を聞いても、アリィーシュにはそれがどういうモノなのか、検討もつかなかった。……とりあえず、ジェイトを安静にし、エリンシェを落ち着かせなければならないだろう。

〝エリン、とりあえず寮室へ戻りましょう〟

 ひとまず、アリィーシュはガイセルに呼び掛けることにした。

 すると、ガイセルはミリアとカルドを伴って、すぐさま丘へと駆け付けた。そして、カルドと二人掛かりでジェイトを寮室に運び込んだ。〝彼〟の横を、エリンシェが涙を浮かべたまま、ついていった。

 夜になっても、ジェイトが目を覚ます気配はなかった。エリンシェはしばらく〝彼〟の側を離れようとしなかったが、日が暮れると渋々自分の寮室へと戻っていった。

 ずっと不安な表情を浮かべているエリンシェを気に掛けながら、アリィーシュはジェイトの【薬】の効果とゼルグの思惑がつかめず、彼女もまた苦悩するのだった。


     ଓ


 数日経っても、ジェイトは目を覚まさなかった。

 気が気でなく、エリンシェは毎日のように、時間を見つけてはジェイトを見舞いに行った。……彼はまるで、ただ眠っているだけのように見えた。けれど、エリンシェはそんな彼の様子に、ずっと目を覚まさないのではないかという不安にかられて仕方なかった。

 ……どうして。――本当にどうして、こんなことになってしまったのか。なぜ、自分ではなく、ジェイトがこんな目にあわなければならないのか。エリンシェはずっとそんな問いを繰り返し考えていたが、答えは一向に出ず、ただ気が滅入るばかりだった。

 一方で、エリンシェは、ジェイトが目を覚ますのをひたすら待ち続けていた。……彼が目を覚ましたら、すぐに謝りたい。そう考え、エリンシェは見舞いに行くと、ジェイトの側を片時も離れようとはしなかった。いつも、しびれを切らしたミリアが迎えに来て、強制的にジェイトの寮室を退出させられていた。



 そして、ジェイトが目を覚ましたのはその一週間後のことだった。

 日が暮れ、ジェイトの見舞いに来ていたエリンシェは、いつものようにミリアに連れられ、渋々彼の寮室を出ようとしようとしたところだった。

 見送りに立ったカルドがふとジェイトを振り返り、はっと息を呑んでいた。

「ジェイト……!」

 カルドの呼び掛けに、エリンシェとミリアも動きを止めた。三人は慌てて、ジェイトの側へ急いだ。

 ジェイトはゆっくりと目を開けると、しばらく戸惑ったように辺りを見回していた。少し経って、目の前にいる三人に気が付くと、弱々しく微笑んだ。

 ――かと思いきや。

 様子をうかがっていたエリンシェと、ジェイトの目がふと合う。その瞬間、ジェイトは険しい表情を浮かべると、思いも寄らない言葉を口にした。

「……、誰?」

 ――エリンシェは目の前が真っ暗になるのを感じた。

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