Feather 7 ଓ 独白 Ⅱ 〜Side 〝J〟 ➳ monologue Ⅱ〜
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「――なんでもない」
そう言って振り返った〝彼女〟はまるで「別人」のようだった。――あまりに、神々しくもあり、美しくもあり……また、恐ろしくもあった。そして同時に、儚げでもあった。
……早く〝彼女〟の手を掴まなければ。でないと、〝彼女〟がどこかへいってしまう。そう思っているのに、〝彼〟――ジェイトは目を丸くするばかりで、身体を動かすことができなかった。――〝彼女〟の気迫に、気圧されてしまったのだ。
――それでも。それでも、なお、ジェイトは〝彼女〟を守りたいと願っていた。「自分の身は自分で守れるようにならないと」とあの時話していた〝彼女〟に、本当は「僕だって……君を守りたいと思ってる!」とそう言おうと思っていたのだ。……なのに、タイミングを逃し、伝えることができなかった。
それに、「今」の〝彼女〟はどこか脆く、危なげでもあった。……きっと、〝彼女〟には「支え」が必要なのだ。それなら、自分がその「支え」になりたい。そして、たとえ、何があろうと、〝彼女〟の側にいたい。――〝彼女〟の「力」になりたい。ジェイトはそう願わずにはいられなかった。
けれど、やはり身体は思う通りに動かなかった。……あぁ、自分はなんて「弱い」のだろう。どこか、何の変哲もない自分と、「特別」な〝彼女〟を比べて、大きな「差」を感じて気後れしまっているのだ。そんなことを考え、ジェイトは自分自身に嫌気がさした。
……結局、ジェイトはその日、〝彼女〟に何もできず、そして、そのまま別れてしまった。更に、ジェイトは自己嫌悪に陥るのだった。
次の日に出会った〝彼女〟は「いつも通り」だった。
けれど、昨日のうちに、〝彼女〟の中で「何か」が変わったようだった。ジェイトは心なしか、その日はいつもに増して、〝彼女〟と共に過ごす時間が多かったように感じていた。
同じく、ジェイトも昨日の出来事を経て、自分の中で「変化」が起きたような気がしていた。――以前よりずっと、〝彼女〟を守りたいと思う気持ちが更に強くなっていたのだ。
〝彼女〟への「気持ち」を自覚した時、同時に、ジェイトは〝彼女〟を守りたいという思いも芽生えていた。そんな思いが先日、図書館でヴィルドに迫られていた〝彼女〟を助けた時、より強くなっていたのだ。
あれからしばらく、〝彼女〟の様子がジェイトの頭から離れなかった。……「何」がそうさせたのか、理由は分からないが、あの時〝彼女〟はひどく怯えていた。〝彼女〟は「強い」はずなのに、ジェイトから片時も離れようとしなかったのだ。
胸の中に飛び込んで来た〝彼女〟に、「ちょっとだけ、こうしててもいい?」と尋ねられた時、ジェイトは戸惑いつつも、その時改めて強く思ったのだ。――〝彼女〟を自分が守りたい、と。そんな決意も少しだけ込めて、ジェイトは「……うん」と答えながら、〝彼女〟の肩を抱いたのだ。
――そんな決意が、昨日の出来事で、更に強くなったのである。
〝彼女〟を守るという決意を抱いて以来、ジェイトは合間を見つけて、基礎・応用魔法学の二人の賢者に頼み込んで、風属性の魔法の特訓を受けるようにしていた。
多少は風属性魔法に強くなった気がしていたが、ジェイトは決して満足しなかった。……これだけでは【敵】に全く歯が立たないだろう。どうして、【敵】と戦えるのは〝彼女〟だけなのだろう? ……あぁ、自分も「力」が欲しい。もし「力」があれば、少しは〝彼女〟の役に立てたかもしれないのに。
そう考える時は決まって、ジェイトは〝彼女〟からもらったブレスレットを見ていた。……この飾りについた弓矢――〝疾風の弓矢〟が本物だったら良かったのに。そんなことをいつも思っていた。――本当にそうだったら、自分も戦うのに。
少しでも強くなろうとする一方、ジェイトはどうすれば〝彼女〟の支えになれるのかも同時に考えていた。
……やはり素直な「気持ち」を伝えるのが一番なのだろうが、そうするにはまだ勇気が足りない。告白したい気持ちがないと言えば嘘になるが、もう少し時間が必要だろう。何度か〝彼女〟と会ううちに、気持ちも変わってくるかもしれないので、「気持ち」を伝えるのはとりあえず保留にする。
それに、いざ「気持ち」を伝えるとなれば、「準備」が必要になる。告白する時は〝彼女〟に「あるもの」を渡したいと、ジェイトは考えていた。
決意を固めるためにも、ジェイトは「準備」を先にしておくことにした。
そのためには「情報」を集める必要があるため、まず、ジェイトはカルドに協力を仰ぐことにした。
「お前って意外と……。 まぁ……いいや、とりあえず、ミリアにも協力を頼めばいいんだな? ――それなら、俺に任せろ」
軽く事情を説明すると、カルドはそんなことをこぼしつつも、快くジェイトの頼みを引き受けた。そして、もう一人の伝手であるミリアにも、カルドから協力を仰いでくれることになった。
カルドとミリアのふたりが協力してくれるとなれば、百人力だった。――〝彼女〟とより仲を深められたのは、学舎生活一年目の終わり際に、ふたりが裏で協力してくれたおかげなのだ。そのことをきちんと知っていたジェイトは、ふたりに感謝していて、今回のことで改めて協力を仰ぐことを決めたのだった。
すぐさま、カルドが行動を起こしてくれたおかげで、ミリアも即座に駆け付けてくれた。
「へぇー、やっと告白する気になったの? ……え、『まだ』しない!? もう、何、もたもたしてんのよ! あんた、『準備』が終わったら早く告いなさいよ、分かった!?」
彼女にも軽く事情を説明すると、矢継ぎ早に尻を叩きつつ、ミリアはジェイトに必要な「情報」を提供した。
たじろぎつつもジェイトがうなずいてみせると、ミリアは一転して、深く息をついて、真剣な表情を浮かべると口を開いた。
「……いい、ジェイト? 絶対、あの娘を泣かせないでね。 あの娘、ああ見えて、すぐに色んなことをひとりで抱えて、苦しんじゃうとこあるのよ。 ――それを『誰か』が支えてあげないといけないの。 ……もちろん、あたしもあの娘を支えていくつもりだけど、唯一弱さを見せられるあんたなら、もっとあの娘の支えに――あの娘の『力』になれるんだと思う。 ――だから、あの娘をお願いね、ジェイト」
「分かった。 絶対泣かせないって約束するよ」
すぐさまジェイトはうなずきながら、少し勇気が湧いたような気がしていた。……ミリアの思いに応えるためにも、早く決心しなければならない。
カルドとミリア――ふたりの協力の甲斐あって、数日後には「準備」が完了していた。
その間にも〝彼女〟と一緒にいるうち――時には、ふたりきりになったりするうちに、ジェイトの決心は徐々に固まっていった。
――今度、ふたりきりになったら、この「気持ち」を伝えよう。
そんな決意と共に、ジェイトは「あるもの」を懐に忍ばせていたのだった。




