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Angelic Storia  作者: 紡生 奏音
Wing Ⅰ Episode 2 翼――それは〝おもい〟を知る〝もの〟
31/151

Feather 6 ଓ 思慮 〜thought〜


    ଓ


 そして、数日後。

 エリンシェは丘で、アリィーシュと術を習得するための訓練を行っていた。

〝いい、エリン? この技は「聖光オレオール」といって、攻撃や目くらまし、応用すれば防御なんかにも使えて、私達神々の間でも重宝している技よ。 上手く使いこなすことができれば、「聖杖ケイン」なしでも使えるようになるはずよ〟

 アリィーシュから軽く説明を受けた後、まずは〝聖杖ケイン〟を使って、〝聖光オレオール〟を使う練習を始めた。

 ペンダントを〝聖杖ケイン〟に変化へんげさせ、両手で構えると、エリンシェは意識を集中させる。

〝難しく考えることはないから。 変化の時と同じように、あなたの思う「光」を思い浮かべて、それを「聖杖ケイン」に伝える。 ――そして、唱えるだけ〟

 アリィーシュの言われた通り、エリンシェは頭の中に、〝光〟を――皆を守れるような〝光〟を思い浮かべ、〝聖杖ケイン〟に伝えた。――そして、唱える。

「〝聖光オレオール〟!」

 一発目は不発だった。少し〝聖杖ケイン〟から〝光〟が放たれたが、それはかなり弱々しい〝光〟だった。……到底、敵に立ち向かうのにはほど遠い。

〝さすがね、エリン。 初めから「光」が出るなんて、筋が良いわ。 きっと続ければ、確実にうてるようになる〟

 それでも、アリィーシュがそう言って、エリンシェをほめちぎる。

 アリィーシュの言葉に少しのせられて、エリンシェは意識をより集中して、もう一度唱える。

「〝聖光オレオール〟!!」

 今度は一発目よりも強い〝光〟が放たれた。……まだだ。もっと確実にうてるようにならなければ。

 そう強く感じて、エリンシェはその日疲れ果てるまで、何度も何度も練習を重ねた。日が暮れる頃には、辺りを照らせるほどには〝光〟を放てるようになっていた。

 けれど、エリンシェはそれでも満足しなかったのだった。


 明くる日から、エリンシェは暇を見つければ、〝聖光オレオール〟の訓練を欠かさなくなった。

 日を重ねるごとに、エリンシェの〝聖光オレオール〟は精度を上げていった。一週間も経たないうちに、エリンシェは〝聖杖ケイン〟を使えば、〝聖光オレオール〟を確実にうてる上に、自由自在に強さを変え、応用して技として使えるようにまで成長していた。

 その上達ぶりに、アリィーシュは驚いていたが、それでもなお、エリンシェは満足していなかった。〝聖杖ケイン〟で〝聖光オレオール〟が使えるようになるとすぐに、〝聖杖ケイン〟なしでも使えるように、続けざまに練習を始めるのだった。


 そして、エリンシェはそれまでと同じく、毎日のように、〝聖杖ケイン〟なしでの訓練を欠かさず行っていた。

 アリィーシュが不在にしている時でも、寮室でも、〝力〟の加減を調整して、弱めに〝聖光オレオール〟を放つことができないか試してみたり、はたまたジェイトを伴って、丘で練習したりするほど、エリンシェは訓練に明け暮れた。

 その成果もあって、エリンシェはペンダントがあれば、確実に〝聖光オレオール〟を放つことができるまでに上達した。けれど、まだ、〝聖杖ケイン〟を使っている時ほど、応用が利く訳ではなかったので、訓練をやめずに続けていた。

 ――そんなある日のことだった。

 しばらくしたら帰るとだけ言い残して、アリィーシュがまたどこかへ出掛けていったのだ。仕方なく、エリンシェはひとりで訓練をすることにして、彼女を待つ間、ジェイトを伴って丘で練習することにした。


「〝聖光オレオール〟!!」

 丘に着くなり、エリンシェはペンダントなしで一発〝聖光オレオール〟を放つ。やはり確実に放つことができるが、力の調整などの応用が難しい。だんだんコツが分かってきたような気もするが、まだ何かが足りない気もする。エリンシェは首をひねると、もう一発放とうとする。

「……すごく上達したような気はするんだけどね。 それじゃだめなの?」

 ふと、何度か訓練に立ち会って来たジェイトがそんなことをつぶやく。エリンシェはいったん術を放つのを止め、首を横に振ってみせた。

「上手く説明はできないけど、時々、何だか不安になることがあるの。 ――どうしようもなく怖くなってしまったり、先のことを考えると目の前が真っ暗になるような……そんなことがたまにあるの。 だから、ソレに備えて、少しでも強くならなきゃって思ってる。 ――せめて、自分の身は自分で守れるようにならないと」

 ……それに、自分の身を守るだけでなく、皆を守れるようにならないといけないのだ。エリンシェはそう思いながら、もう一発〝聖光オレオール〟を放つ。

 エリンシェのその言葉を聞いたジェイトが、複雑そうな表情を浮かべて、「僕だって……」と小さくこぼし、何か言い掛ける。

 聞き返そうと、エリンシェは彼の方を振り向こうとしたが、ふと、遠くの方に小さく【】を感じて、動きを止める。目をこらし、【】の方に意識を集中させる。

 探っているうちに、その【】がヴィルドのものだと、エリンシェはふと気付く。……彼は人間であるはずなのに、いつからゼルグのような邪悪な【気】を放つようになってしまったのか。

「エリンシェ……?」

 だんだんヴィルドの【気】が近付いて来る。エリンシェは意識を集中し、彼の方へと向ける。彼の姿がちらりと見えた瞬間、エリンシェはすうっと息を吸い込んで叫んだ。

「〝聖光オレオール〟っ!!」

 すると、ヴィルドの足元に、まばゆい〝光〟が放たれた。――目くらましだ。その〝光〟に怯み、ヴィルドがそのままきびすを返し、走り去っていく。その背中が見えなくなるまで、エリンシェは彼を目で追う。

「えっ、今……? エリンシェ? ……大丈夫?」

 エリンシェの尋常ではない様子に戸惑いながら、ジェイトがそう尋ねる。エリンシェはヴィルドの姿が完全に消えたのを確認してから、ゆっくりと振り返った。

「――なんでもない」

 そうエリンシェが答えても、ジェイトはなぜか目を丸くしたまま、彼女をしばらく見つめていた。

〝エリン、今戻った……――〟

 ちょうどその時、偶然アリィーシュが姿をあらわした。口を開きかけていたが、エリンシェの様子に気付くと黙り込んで、アリィーシュも〝彼女〟をじっと見つめるのだった。

 そんな二人の様子を不思議に思いながら、エリンシェはその場に立ち尽くしていたのだった。


    ଓ


 ……〝彼女〟は一体、何をそんなに怯えているのだろう? ――ずっと、アリィーシュはその答えを見つけることができず、思い悩んでいた。

 ガイセルとの調査から戻った時、〝彼女〟はまるで別人のようにも見えた。……威圧感にも似た、凄まじい〝気〟を、その身から放っていた。

 それと同時に、なぜだろうか、アリィーシュは〝彼女〟が危なっかしく思えて仕方なかった。

 あの後、事情を聞くと、あの少年――ヴィルドの【】を感じて、〝聖光オレオール〟を目くらまし代わりに使い、彼を追い払ったのだという。そして、ペンダントなしでも〝聖光オレオール〟の応用が利くようになったのだと〝彼女〟は話して、あれから少しして、訓練を続けた。……確かに、それからというものの、〝彼女〟はみるみるうちに上達していった。――それほどまでに、〝彼女〟の〝力〟はいつの間にか、強く成長しているのだ。

 思い返すと、確かに、あの時うっすらと感じ取ったヴィルドの【気】は、図書館で感じたものとは少し違っていた。――より邪悪でゼルグに近い【気】を、アリィーシュはヴィルドから感じ取ったのだった。

 ……けれど、ヴィルドはあくまでヒトなはずだ。それほどまでに強く成長している〝彼女〟には、彼を恐れる理由など、ないはずなのに。やはり、アリィーシュはいくら考えても、その理由が理解できそうになかった。


 ――かと思いきや……。

「ねぇ、アリィ。 ――いつもガイセルと何してるの?」

 その日の夜、床についていたエリンシェが唐突に、そんなことを尋ねて来た。

〝な、なんでそんなことを聞くの?〟

 図星を突かれ、アリィーシュは慌てふためき、思わず逆に聞き返してしまった。……妙に鋭いところがあるのも〝彼女〟の成長の証――かもしれない。

「あ……ごめん、今のやっぱりなし。 つい、気になっちゃって聞いちゃった。 でもいつか、教えてくれるんだよね? ――なら、無理に今答えなくてもいいよ」

 少し考えて、エリンシェがいたずらっぽく笑いながら、無邪気にそう話した。その表情に、アリィーシュは言葉が詰まり、何も話せなくなった。――言えるわけ、ない。

 アリィーシュが黙り込んでいると、エリンシェも静かに何かを考えている様子だった。

「……ねぇ、そういえば、前から気になってたんだけど、アリィとガイセルってどういう関係なの? 何ていうかすごく……信頼し合ってるみたいだけど」

 少しすると、エリンシェがまたもや答えづらいことを尋ねて来る。どうやら、一度気になることを口にしまってから、歯止めがきかなくなってしまったようだった。

 ……先程のことといい、どうしてこうも、〝彼女〟には妙に鋭いところがあるのだろう。アリィーシュは苦笑いを浮かべながら、〝うーん、そうねぇ……〟と悩みつつも口に開く。

〝ガイセルはね、私にとって、とても大切な存在なの。 彼のことはよく知っているし、エリンの言う通り、心から信頼しているの。 ――だから、何かあれば、彼を頼ってもいいのよ〟

 ごまかしが利かないような気がして、本当のことを少し織り交ぜて、アリィーシュはそれだけを答えた。

「ふーん……」

 納得したのか、エリンシェは相づちをうつと、それきり黙り込んでしまった。そして、また何かを考えている様子だったが、しばらく経つとそのまま眠ってしまった。

 内心ほっとしながら、アリィーシュも気を休めるのだった。


    ଓ


 その日の夜、つい色々と気になってしまって、エリンシェはアリィーシュに質問攻めをしてしまった。

「ねぇ、アリィ。 ――いつもガイセルと何してるの?」

〝な、なんでそんなことを聞くの?〟

 ……あ、図星か。慌てふためくアリィーシュの様子に、エリンシェはひとり納得する。図書館でガイセルと彼女が一緒にいるのを見掛けて以来、何となくそんな気がしていたのだ。

 アリィーシュが「何か」をしているのは分かっていたが、まさかガイセルが絡んでいるとは予想していなかったので、鎌をかけたのだ。……なら、不在にしている時はガイセルとふたりで行動しているのか。また、エリンシェはひとり納得した。

 ひとまず答えてくれそうにないので、エリンシェはいたずらっぽく笑いながら、質問を取り下げる。やはり、アリィーシュが黙り込んでしまったので、エリンシェも口を閉ざし、少し物思いにふける。

 ……そもそも、アリィーシュとガイセルはどんな関係なのだろうか。初めて彼女と逢った時から、ガイセルは彼女のことを「アリィ」と呼んでいた。――ということは、ガイセルはアリィーシュのことを昔から知っているということになる。

「……ねぇ、そういえば、前から気になってたんだけど、アリィとガイセルってどういう関係なの? 何ていうかすごく……信頼し合ってるみたいだけど」

 つい、また気になって、エリンシェはアリィーシュにそう質問をしてしまう。それに対し、アリィーシュが悩みつつも答えをくれる。

〝ガイセルはね、私にとって、とても大切な存在なの。 彼のことはよく知っているし、エリンの言う通り、心から信頼しているの。 ――だから、何かあれば、彼を頼ってもいいのよ〟

 ……それだけで、分かって(・・・・)しまった。――アリィーシュと一緒にいる時間がだんだん長くなって来ているせいだろうか、エリンシェには彼女がガイセルのことをどうおもっているのか、分かって(・・・・)しまったのだ。

 ――アリィーシュは、ガイセルのことをとても大切に思っている。……それもただ「大切・・」なだけではない、どこか、愛情に似た感情で。

「ふーん……」

 動揺しつつも平静を装いながら、エリンシェは相づちをうつとさらに考え込む。

 ……そういえば、まだ守護神がアリィーシュだと知らなかった頃、神様に逢ったことがあるのか、ガイセルに尋ねた時、どこか引っ掛かった反応だったのを思い出す。――まるで、守護神アリィーシュ恋している(・・・・・)ような反応だった。

 ――まさか。……いや、まさか? ミリアが、ガイセルには「エリンの気持ちを受け止められないくらい、好きな〝ひと〟がいることなんだろうね」と話していたことを、エリンシェは思い出す。……アリィーシュなら。アリィーシュなら、あり得るかもしれない。だとすると……――。

 そこまで考えて、エリンシェは胸が詰まりそうになった。……もしかすると、ふたりは両想い、なのかもしれない。けれど、ガイセルは人間で、アリィーシュは神――その差はあまりに大き過ぎる。時間の流れも何もかも違うのに、ふたりはそれ(・・)を承知の上で、心を通わせたのだろうか。……ふたりが結ばれることはかなり難しいのに、ふたりはその「選択・・」をしたのだろうか。

 ……耐えられない。――とても、自分には耐えられそうにない。とっさに、エリンシェはそう思った。訪れるかどうかも定かではない「いつか(・・・)」を待つなんて到底できそうにない。……本当に、アリィーシュとガイセルのふたりが心通わせているような関係だとしたら、なんと強い「絆」なのだろう。エリンシェは羨ましく思えた。

 ふたりのことを想っていると、エリンシェの頭に、自然と〝彼〟のことが思い浮かんだ。……そういう「絆」のかたちもあるのかもしれないが、やはり、一緒に――できればずっと一緒にいたいと、エリンシェは心の底からそう思った。

(……会いたいなぁ)

 ふと、率直に、〝彼〟が向こう側にいる壁を見つめながら、エリンシェはそう感じた。――アリィーシュとガイセルのことをきっかけに、彼女の中で「何か(・・)」が変わったような気がしていた。……今度〝彼〟に会えたら、それが「何か(・・)」はっきりするかもしれない。

 ……明日になったら、すぐに〝彼〟に会いに行こう。そんなことを思いながら、エリンシェは眠りに落ちたのだった。

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