Feather 4 ଓ 一角 〜naming〜
「アイツ、絶対何か企んでるに決まってるよ!!」
寮室に入るなり、ミリアが怒りを含んだ声でそう叫んだ。それに同意して、すぐさまジェイトとカルドが何度もうなずいてみせる。
エリンシェも小さくうなずきながら、まだ思考を巡らせていた。けれど、やはり【敵】の思惑は掴めそうになかった。エリンシェの手には負えそうになく、「……アリィ」と中に宿るアリィーシュに呼び掛けた。
「どう思う?」
すぐさまアリィーシュが姿をあらわしたが、彼女も思考を凝らしている様子だった。唸り声を上げながら、しばらく考え込んでいたが、やはり彼女でも見当がついていないようだ。
〝分からない、けど、別々に行動している以上、何か企んでいるとしか思えない。 とにかく、できるだけ、独りにはならないよう、気を付けて〟
「アリィさん、大丈夫だよ。 僕らがついてるから」
ミリアとカルドと目配せをして、ジェイトが真っ先にそう告げた。ふたりもうなずいて、決心したような眼差しで、アリィーシュを見つめる。
「ありがとう、皆。 でも、無理はしないで」
そんな三人の気持ちを嬉しく思いながら、エリンシェは複雑にも感じていた。――自分こそが皆を守りたいと、そう思っているのに。もう、自分は戦うとそう決めたのに。
「今はヴィルドしかいないけど、やっぱり油断はできない。 彼は彼で、強くなってるってそう思うから」
エリンシェは広間でのヴィルドの行動を思い返して、そう話した。――最初は脇を通り過ぎたのが彼出すと気付かなかったのだ。少なからず、彼も【力】をつけているに違いない。魔法の力しか持たない三人が彼と対峙することで、傷付いてしまうかもしれないと考えると、エリンシェには耐えられなかったのだった。
「分かった、じゃあ、無理はしないことにする。 だけど、君の側にはいさせて」
だが、ジェイトも譲らなかった。エリンシェをじっと見つめると、そう言い切って、一歩も引く様子を見せなかった。そんな彼の様子に、エリンシェは渋々うなずくしかなかった。
……何を企んでいるかは分からないが、そのうち、ゼルグも動いて来るはずだ。その前に、少しでも強くならなければならない。一方で、エリンシェはそんな決心を固めるのだった。
ଓ
そんな不安を抱えたまま、エリンシェのニ年目の学舎生活は幕を開けた。
授業では常に、ジェイト、ミリア、カルドのうちの誰かがエリンシェと行動するようになった。戻って来たヴィルドは元々組分けが違っていたので、授業で一緒になることはなかったが、念のためにと、三人はエリンシェの側を離れようとはしなかった。
そんな、授業の合間を縫って、ヴィルドはエリンシェの近くによく姿を現すようになっていた。けれど、特に何かをする様子はなかった。――ただ、まるで友達に接するかのように、エリンシェに手を振ったり、意味ありげに笑いかけたりするだけだった。ヴィルドの不可解すぎる行動に、三人は決まって彼を厳しく一瞥して、エリンシェから彼を遠ざけようとするのだった。
害はなかったが、やはり【敵】の思惑は見えず、エリンシェはどこか翻弄されている気になって、少し精神が参りそうになっていた。
「エリンシェ、ちょっと丘に出掛けようか」
そんなエリンシェを見かねて、ジェイトがそんな誘いを掛けた。ふと、エリンシェは、学舎に戻って以来余裕がなく、まだ贈り物を渡していないことに気付いて、二つ返事をするのだった。
後日、エリンシェとジェイトのふたりは丘へと出掛けた。アリィーシュも念のため、同行することになった。
丘に着くなり、エリンシェはひと息ついて、空を静かにしばらく眺めていた。ジェイトもそっと彼女の側に立って、同じように空をじっと見つめていた。そんな彼が側にいると、自然とエリンシェの心は落ち着いていった。
「ありがとう、ジェイト」
しばらく経って、エリンシェがお礼を言うと、何てことないように、ジェイトが首を横に振って、微笑んでみせた。
「僕は何も大したことはしてないよ。 ……君の力に少しでもなれたなら良かった」
謙遜している様子のジェイトに、エリンシェも微笑み返しながら、懐に用意していた贈り物を手にすると、彼に差し出した。
「本当にいつもありがとう、ジェイト。 あなたはいつも私を助けて守ってくれるけど、私もあなたを守りたいってそう思ってるの。 ――だから、『これ』をお守り代わりにして」
遠慮がちに、ジェイトはエリンシェから贈り物を受け取ると、「開けてもいい?」と断り、彼女がうなずいたのを確認して、包みを開けた。
〝エリン〟
その瞬間、アリィーシュがエリンシェに呼び掛けた。すぐさま、エリンシェはうなずいてみせると、無意識に首元のペンダントを握りながら、「その名」を口にした。
「それは〝疾風の弓矢〟。 ――アリィに教えてもらって、名前を付けることになったの。 そうすれば、きっと役に立つからって」
小さく、ジェイトは「……疾風の弓矢」と繰り返すと、右腕にブレスレットを身に着けると、嬉しそうに微笑みながら、礼を言った。
「ありがとう、大切にするね」
その後しばらく、ブレスレットを眺めているジェイトを見つめながら、エリンシェは、「それ」――〝疾風の弓矢〟が本当に、彼を守ってくれることを祈っていたのだった。




