Feather 3 ଓ 【帰還】 〜【repatriation】〜
数日後。再び、エリンシェはミリアと学舎に赴いていた。
「あ、エリン! 久しぶり!」
学舎に到着すると、最初に再会したのはレイティルだった。城へ向かう道中で彼女にばったりと出会ったのだ。
エリンシェとミリアは順番にレイティルと抱き合うと、城の中に向かう。歩きながら、休暇の話やニ年目の組分けについて話し合う。何でも、レイティルの情報によると、ニ年目以降も一年目と同じ組分けで授業が行なわれるのだという。
「――それで、また授業で一緒になることもあると思うから、その時はよろしくね! それじゃあ、あたし、他の友達にも挨拶してくる!」
二人が返事をする暇もなく、レイティルはそれだけ言い残すと、忙しくどこかへ行ってしまった。エリンシェとミリアは思わず顔を見合わせ、くすくすと笑い合った。
そのまま城に向かっていると、今度はジェイトとカルドに出くわした。『あ、久しぶり!』と同時に、エリンシェとミリア、ジェイトとカルドの四人は微笑みながら、挨拶を交わした。
「ごめん、カルド。 休暇中、あんたにだけ会いに行けなかったわ」
挨拶が済むとすぐに、ミリアがカルドの側に寄りながら、そんなことを口にする。ジェイトから少し事情を聞いていたらしいカルドはうなずきながら、彼女と会話を交わし始める。そして、そのまま、ミリアとカルドのふたりはエリンシェとジェイトを置いて、城へと向かい始めた。
取り残されたエリンシェとジェイトはしばらく見つめ合い、そっと微笑み合った。
「えっと……学舎では久しぶりだね」
再びジェイトに会えたことを嬉しく思いながら、エリンシェはそう声を掛けた。ジェイトもどこか恥ずかしそうにしながら、「……そうだね」とうなずいた。
少しの間、沈黙が降りたので、ふたりはまた微笑み合うと、肩を並べて歩き出した。
「あ、そうだ。 私、ジェイトに渡したいものがあるの。 時間のある時、付き合ってくれない?」
エリンシェはふと休暇中に準備したプレゼントのことを思い出して、ジェイトに誘いをかける。すぐさま返って来た「うん、もちろん」というジェイトの答えを聞いて、エリンシェは一層微笑んだ。
そんな会話を交わしているうちに、城の玄関である広間にたどり着いた。広間には、その年新しく学舎にやって来た生徒達が集まっていた。
「わぁ、懐かしいね」
寮室を決めているらしい新入生の脇を通り過ぎながら、エリンシェはそうつぶやいた。……去年は色々なことがあったせいか、一年があっという間に過ぎて、エリンシェは学舎に入った時のことを昔のことのように感じていた。
少しの間、新入生をジェイトと眺めた後、エリンシェはその場を立ち去ろうとした。
――その瞬間、「誰か」がすっと、彼女の脇を通り過ぎていった。
エリンシェはその「誰か」に何かを感じ取って、思わず足を止めた。それが「誰」だったのか確かめようとして、振り返る。……けれど、人混みに紛れてしまったのか、行方が分からなくなり、見失ってしまう。
「エリンシェ?」
不思議そうに、ジェイトから声を掛けられる。エリンシェはもう一度辺りを見回すと、何か嫌なモノを感じながら、口を開いた。
「何でも、ない……」
けれど、自信がなく、歯切れが悪くなってしまう。ひとまずは何もなさそうだったので、エリンシェは広間を後にして、まだ不審そうなジェイトと共に寮室へ向かった。
寮室の前には、まだ何か会話を交わしながら、ミリアとカルドが立っていた。どうやら、エリンシェとジェイトが来るのを待っていたらしい。
エリンシェはミリアとカルドに声を掛けようとした。――その次の瞬間、ふたりが眉をひそめて、エリンシェの後ろを見て、身構える。隣のジェイトもそっと杖を握りしめながら、エリンシェに手を伸ばした。
ジェイトに引き寄せられながら、エリンシェは息を呑んで、振り向いた。
――そこには、にやりと笑いを浮かべたヴィルドが立っていた。……だが、以前とは何かが違い、違和感があった。
「やあ、エリンシェ」
またしても気安く呼ばれ、エリンシェは身の毛がよだった。……けれど、以前ほどは――ゼルグと対峙していた時ほどは、恐怖を感じなかった。
少し考えて、エリンシェは、先程脇を通り過ぎたのはヴィルドだったと気が付いた。それと同時に、あれは彼だけの仕業だったと思い当たる。
〝いない……〟
「中」に宿っていたアリィーシュもそのことに思い至り、そう小さく漏らした。
――そう、ヴィルドの側に、ゼルグの【気配】を感じられなかったのだ。つまり、今いるのは彼ひとりだけだった。
それに気付いて、エリンシェは再び息を呑んだ。……なぜ、ヴィルドは単身戻って来たのだろう。彼の不可解な行動に、エリンシェは身をすくめる。
「彼女に何の用だ」
そんなエリンシェをかばうように、ジェイトが前に出る。そして、ヴィルドをにらみ付けながら、怒気を含んだ声で言い放つ。
忌々しそうに、ヴィルドは答えずにジェイトをにらみ返した。火花が散りそうなにらみ合いがしばらく続いた後、ヴィルドは、ジェイトが杖を手にしているのを目にして、「……物騒だなぁ」とつぶやいて、またにやりと笑ってみせた。
「ボクはただ、挨拶しに来ただけだよ。 今年はきちんと学舎生活を送るつもりなんだ。 顔を合わせる機会も多いだろうし、仲良くしてもらおうと思ってね」
……嘘だ、何か企んでいるに決まっている。ヴィルドの真意が分からず、エリンシェがおびえていると、それを察したように、ジェイトが更に前へ出て、またヴィルドをにらみ付けた。
「……まぁ、そういう訳だから今後ともよろしくね」
当の本人であるヴィルドは気にも留めていない様子で、肩をすくめてみせると、それだけ言い残すとその場を立ち去った。
ジェイト、ミリア、カルドの三人はヴィルドの姿が完全に見えなくなるまで警戒を緩めなかった。
エリンシェは立ち尽くしたまま、思考を巡らせていた。だが、いくら考えても、ヴィルドと――そして、ゼルグの思惑は分からずじまいだった。
……けれど、確実に、「何か」が起ころうとしている。それだけはひしひしと感じて、エリンシェは固唾を呑むのだった。




