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Angelic Storia  作者: 紡生 奏音
Wing Ⅱ Episode 3
129/151

Feather 5 ଓ 交差 Ⅰ〜crossover Ⅰ〜


    ଓ


 女神の花園で「先代」転生の神と思われる女神と遭遇した(出逢った)後、これ以上の情報は手に入らないだろうと踏んで、エリンシェはジェイト、アリィーシュと共に、天界を後にすることにした。

「それで……何か得られるものはあった?」

 道すがら、アリィーシュがふとそんなことを尋ねる。

 エリンシェはすぐに答えず、少し考え込む。


 レスカとの戦いでは、一か八か〝浄化(エクソサイズ)〟で、メレナの身体からレスカを分離させる。そして、できるだけ封印をせず、レスカに「対峙」する。――そこまでは結論が出ていた。

 問題はそこからだ。封印をしなかったとして、レスカのその後をどうするかは分かっていない。けれど、先程の「先代」転生の神と思われる女神からの話には、その「答え」があるように思えた。

 けれど、「それ」には現在(いま)転生を司っている神の協力が必要不可欠となる。問題はどうやって接触を図るかだが、それも彼女の話の中に「答え」があるのだろう。もしくは冥神チェルディクスを頼るかだろう。

 ……何もかもが不明瞭なことばかりで、そんな中レスカと対峙しなければならないと考えると不安になる。けれど……――。

 ――けれど、天界に来ることによって、エリンシェは自身の「根源(ルーツ)」について少しばかり知ることができた。

 そのおかげで、以前(まえ)よりもずっと、自分は「ひとり」ではないと改めて自覚することになった。

 ――エリンシェが今「此処」に在るのは、長い時間を掛け、様々な(ひと)達の「想い」を託されているからなのだ。

「……うん。 まだまだ分からないことが多くて、レスカと対峙するには正直少しになるけど……。 でも、私、天界(ここ)へ来て良かった。 ――これまで私という存在に『想い』を繋いでくれた(ひと)達のためにも、私は必ずやり遂げてみせる。 たとえ、レスカと対峙した時に糸口()が見えなくなったとしても、絶対に諦めない。 何がなんでも、突破口を開いてみせる。 ――私は絶対負けるわけにはいかないから」

 そんな事実を知り、生まれた固い決意を、エリンシェは改めて口にする。

 表情(かお)を見ただけで、アリィーシュにはエリンシェの思いの強さが理解できたのだろう。すぐさま「……分かった」とうなずいてみせた。

「――なら、エリンシェが思う通りに動けるよう、私もできる限り手伝う。 一緒に頑張りましょう」

「ありがとう」

 そう微笑んで言いながら、エリンシェはジェイトを横目で見る。

 天界に来てからずっと、あまり話すこともなく、時折どこか遠い目で複雑な表情を見せ、何かを考えているようだった。今も黙り込んだまま、口を開こうとしなかった。

 ……ジェイトは何を思っているのだろう。そんなことを考えていると、いつの間にか〝彼〟の方へと顔を向けていたようで、ふと目が合う。

 まだ何か考えているようだったが、少し経つと、ジェイトは顔を上げた。そして、口を開き、その思いの丈を言葉にするのだった。


    ଓ


 ――何もかもに実感が湧かなかった。

 おまけに、どこか遠い「世界」のことのように思えて、疎外感さえ感じていた。

 名乗りを上げ、エリンシェと共に、天界へと赴いたジェイトだったが、あまりに違い過ぎる「世界」に終始戸惑っていた。

 冥神など様々な神達に出会ううちに少し気後れしていたが、そんなジェイトとは違って、エリンシェは臆することなく、自分の知りたいことを探っていた。

 手助けしたいと言ったものの何もできない。――ただエリンシェのそばにいることしかできない。……自分は一体何をしに来たのだろう。そんなことを考え、ジェイトは自信を失くし、自分自身が情けなく思えていた。

 けれど……――。

「――私がここまで来れたのは〝彼〟の存在あってこそだと言えます。 ――〝彼〟が〝神格化〟した今、これからはふたりで一緒にテレスファイラを守護して(まもって)いこうと思います」

 エリンシェが大神(おおがみ)・ディオルトにジェイトを紹介する時に、堂々とそんな思いを口にしているのを聞き、ジェイトの中で心境が変わった。

(……僕もエリンシェと生きていきたい。 ――これからはできる限り、〝彼女〟が歩む道をそのすぐそばで歩いていきたい)

 何処(・・)から来る「思い」かは分からないが、いつの頃からか、ジェイトの奥底にはそんな願いが生まれていたのだ。

 ――「ふたりで一緒に」というエリンシェの思いと自分の願いを叶えるためにも、強くならなければならない。

 そう考えた瞬間、ジェイトの中で「覚悟」が決まったのだった。


 そして、もう一つ、心が揺れ動いた瞬間があった。

〝――(のち)にテレスファイラと呼ばれるようになったその土地を守護して(まもって)いた神も、彼女のそのあまりに美しい「心」に思わずひかれてしまったとか。 ――そして、ふたりは運命の出逢いを果たし、人間(ひと)と神という垣根を越え、恋人同士となったそうよ〟

 それは、エリンシェが「先代」転生の神だと考えていた女神が、テレスファイラの太古(かつて)の時代を守護していた神のことを口にした瞬間だった。

 ……なぜだろう。理由は分からないが、その瞬間、心が――魂が大きく揺れ動いた気がした。

 エリンシェのように、自分の前世や「根源(ルーツ)」が分かっているわけではないし、今後も知ることができる見込みもない。女神が中心に話していた存在(ひと)ほど、詳しい過去(こと)が聞けたわけでもない。けれど、ジェイトにはその守護神がまるで自分の前世(こと)であるかのように思えて仕方がなかった。

 そう思うと……。自分の「根源(ルーツ)」の話を聞くエリンシェに目をやるだけで、身体の奥底が震えているように感じた。

 ――身も、心も、魂も。〝彼女(・・)〟に出逢えたことをよろこんでいる。

 もちろん、それでなくとも、ジェイトはエリンシェと出逢えて良かったと心の底から感じている上に、〝彼女〟と同じ立場にいることが本当に嬉しくて仕方がなかったのだ。

 ……もしも。――もしも、本当にその太古(かつて)の守護神が自分(ジェイト)の前世だったとしたら。

 どれほど、彼はその存在(ひと)と一緒にいたかったのだろう。自分の身を(てい)して彼女と彼女が暮らす土地を守るなんて、どれだけの愛情があったのだろう。けれど、その一方で、深く愛した彼女を残していく無念はどのくらい強いものだったのだろう。

 答えはきっと誰にも分からない。けれど、一つだけ理解できる(わかる)ことがある。

(……きっと彼も同じくらい、彼女と一緒にいたいと願っていたはずだ)

 それだけはジェイトにも痛いくらい分かった。だから……――。

 真相はきっと分からない。この先分かるはずもない。けれど、どうしても彼が自分のことに思えてしまうのも事実だ。「もしも」の仮定すら受けいれることができてしまう。

 ――だから、どちらにせよ――仮に彼が自分(ジェイト)の前世でなかったとしても、代わりに、彼の叶えられなかった願いを必ず成し遂げてみせようと、ジェイトは固く誓ったのだった。

 ふたりで平穏を(つか)むために、ジェイトはエリンシェの手助けをしようと決心した。――そのためにも、自分(ジェイト)は強くならなければいけないのだ。

 ジェイトの中でそんな「決意」が固まると、「心」がすっと軽くなったような気がした。

 けれど、真相は分からなくてもいい。とにかく決めたことをやるだけだ。

 そして……――。


 ――長い間、ジェイトが考えを整理しているうちに、天界を後にすることになった。

 道すがら、エリンシェとアリィーシュが天界の成果を話しているのが目に入った。

 「絶対負けるわけにはいかない」とそんな決意を口にしたエリンシェが、ジェイトの方へと顔を向けているのに気が付いた。

 きっと、ずっと黙り込んでいたせいで心配をさせてしまったのだろう。けれど、その時にはすでに「決心」が固まっていたジェイトはエリンシェと目を合わせ、少し経ってから顔を上げると口を開いた。

「僕、天界に来てから少し前までずっと自信がなかったんだけど、エリンシェと一緒に色々な話を聞いてるうちに気持ちが変わった。 ――僕はエリンシェとずっと一緒に生きていきたい。 そのためにも、それと、天界(ここ)に来て決まった『決意(おもい)』を遂げるためにも、僕は必ず強くなる。 ……できることはまだ少ないかもしれないけど、僕、きみの力になれるよう頑張るよ」

 「決意」の全てを、口にしなかった。けれど、その思いの強さが伝わるよう、ジェイトはエリンシェをじっと見据えた。

「ありがとう。 でもね、さっきも言ったように、あなたがいたから私はここまで来れたんだよ。 だから、そんなに気負わなくてもいいの。 ――これからは一緒に(・・・)……ね?」

 エリンシェはそれをしっかりと受け取ってくれたようだった。そう話すと、ジェイトの手を取り、強く握りながらもう一度「一緒に(・・・)」と小さな声でつぶやいた。

 ――ふたりで一緒に(・・・)、強くなり、同じ道を歩んでいこう。エリンシェはそう言っているのだ。

 ジェイトはその手を強く握り返し、「……一緒に(・・・)」と返してみせた。

 それを聞いたエリンシェが満足な笑みを浮かべたのだった。

「うん。 私、必ずやってみせるから!」

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