Feather 2 ଓ 冥神 〜〝guardian of scheol〟〜
そんな対照的なふたりを見て、アリィーシュははっとする。
「チェルディクス……」
名前を呼ばれ、男性の方が優しく微笑む。
〝――紹介しよう。 彼が冥界を守護する神・チェルディクス。 そして、その隣が彼の妻であるサフィーラだ〟
ディオルトから紹介され、ふたり――チェルディクスとサフィーラが一礼をする。
〝アリィーシュ、前に逢いたがっていたようだが……すまなかった〟
……冥神。アリィーシュに話しかけるチェルディクスを見つめながら、エリンシェははっとする。確かに、転生の神よりも可能性は低くなるが、もう一つの「伝手」ではありそうだった。
「『所用』……だったんですってね?」
〝そう。 「お人好し」の姉を持つと色々大変でね。 それに、輪廻の理をよりよくするためにも迷える「魂」を放っておくわけにもいかなかったんだ〟
アリィーシュの問いに、チェルディクスがすぐさま答える。多くは語っていないが、その言葉から彼が何か知っていることはすぐに理解できた。
ふと、エリンシェはチェルディクスと目が合う。優しく微笑んではいるが、その姿に思わず少し萎縮してしまった。
しばらく視線を交わしていると、割って入るかのように、彼の隣にいたサフィーラがエリンシェとチェルディクスの前へと進み出た。
〝ほらー、あなたがそんな恰好してるから驚いてるじゃない! そんな黒なんか着ていたら、死神か何かみたいな悪いモノにしか見えないのよ。 ――ごめんなさいね、このひと、こんなだけど、とても良いひとなのよ。 お義姉様のこと言えないくらい、「お人好し」だし。 あ、あと「よそ行き」もやめてちょうだい〟
とても美しい女神であるサフィーラが間に入ると、その場の空気が一瞬にして変わった。そんな彼女の姿を見てチェルディクスが吹き出した。
〝……まったく、きみにはかなわないよ。 いやぁ、すまない。 冥界というところは……すごく難しいところでね、長くいるとどうしてもこちらも固くなってしまうんだ〟
そう言って苦笑するチェルディクスの雰囲気も先ほどとは少し変わっていた。サフィーラのおかげで一気に態度が丸くなり、緊張も解け、話もしやすいものになった。
けれど、多少の気後れはするもので……。エリンシェはどう切り出したものかと困っていると、またサフィーラが間に入り、優しく微笑みながら話し始めた。
〝大丈夫よ、このひとに聞きたいことがあったら話してみてね。 あ、そうだ。 私はサフィーラ、他の人からは「運命」をみる神――と呼ばれているわ〟
冥神の妻であるということ以外は「何」を司る神かが判明していないサフィーラだったが、初めて自分の紹介を口にした。
とはいえ、かなり抽象的だった。エリンシェはその意味を考え、少ししてからたどり着いた答えを口にする。
「『未来』がみえる……ってことですか?」
〝まぁ、分かりやすく言えばそんなところ。 でも、何ていうのか……予知なんて完璧なものじゃないし、「みたい」と思っても、いつでもみれるわけでもない。 ただ、ほんの少しの「未来」と、全てのものにあたえられる「予言」の行方をみることができるだけ。 それに、私自身の「干渉」は決して許されていない。 ――そんなちょっと変な神様よ〟
本人はそう語っているが、実は重要な役割を担う神なのではないだろうか。そんなことを考えると同時に、エリンシェはふと思う。
「――私の『未来』もみたことが……?」
そんな問い掛けに、サフィーラはただただ優しく微笑むだけで何も答えなかった。――けれど、それだけで理解できる。少なくとも、サフィーラの優しい微笑みはエリンシェに「大丈夫」と語り掛けているように思えた。
〝……さて。 私の話はおしまい。 ルディに何か聞きたいことがあるんでしょう? ルディはね、転生の神と誕生の神が双子のお姉さんなの。 だから、ひょっとすると「答え」にはたどり着かないかもしれないけど、一応聞いてみると良いかも〟
少ししてそう切り出すと、サフィーラは半歩下がり、ルディという愛称で呼んだチェルディクスをエリンシェの前へと押し出した。
サフィーラからさらりと明かされたチェルディクスの家族関係も相まって、彼がもう一つの「伝手」であることがより確かになった。
再び緊張が走る。――が、先ほどと比べて、サフィーラのおかげでそれほど萎縮せずに済んだ。エリンシェは思い切って、チェルディクスに問い掛けた。
「私、不本意ながら、【敵】に前世のことを聞かされました。 だけど、まだ半信半疑で……。 でも、ひょっとすると転生の神様なら『彼女』に逢ったことがあるかと思ったのですが……。 ひょっとすると……冥神であるあなたも、魂を見掛けたことならあるかもしれません。 もし、何か知っていればで結構です。 ――私の前世といわれているエルフィナ・ファイラについて、教えていただけませんか?」
その瞬間、チェルディクスの顔は無表情になった。
エリンシェは彼の顔をじっと見つめながら、直感する。――チェルディクスは「何か」知っている。けれど、どうも彼はどこまで話したものか、考えているようだった。
〝昔――それもずいぶん昔のことだ、とても強い「想い」を抱いた魂について、先代の転生の神から引き継いだことがあると、姉から聞いたことがある。 どうも、巡り巡ってその強い「想い」を引き継いだのがそのエルフィナらしい。 僕も魂を管理する立場だからね、姉はそのことを念のため教えてくれたんだ〟
しばらく経って、ようやくチェルディクスは少しずつ話し始めた。
〝エルフィナは……運命に翻弄され、とても悲しい生を送ったようだね。 さっきも少し話したけど、姉はすごく「お人好し」でね、そんなエルフィナを放っておけなかったんだよ。 それに加えて、彼女には強い「想い」がこめられている――そんな「魂」に、姉は当然関わったそうだよ〟
慎重に、言葉を選びながら、少しずつチェルディクスは彼の話せることを口にしていく。
〝――その立場もあって、結論を言うと当然、姉は強い「想い」を引き継いだ魂に逢ってもいるし、輪廻の道へ送ってもいる。 けれど、大神様の言う通り、姉に逢うことは難しい。 それと、僕自身にはその「魂」には直接逢ったことはない。 だから、今のところ君の力にはなれそうにないよ、すまないね〟
そう言って最後に申し訳なさそうに目を伏せ、頭を下げるチェルディクスをただ見つめながら、エリンシェはただ小さく「いえ……」と返すしかなかった。
……仕方ない。元々、前世について調べるなんて難しいことだったのだ。少しでも、情報を得られただけでも収穫があったようなものだろう。
「お話を聞けただけでも良かったです。 ありがとうございました」
〝いや、役に立ちそうになくて、すまないね。 だけど、いつかまた会ったりする機会があるかもしれない。 その時は何か埋め合わせさせてもらうよ〟
エリンシェが礼を言うと、チェルディクスは不適な微笑みを浮かべながら、そんなことを口にする。
……冥界なんてそうそう離れても良い場所でもなさそうなのに。エリンシェは内心不思議に思いながら、どうしていいか分からずただ愛想笑いを浮かべた。
〝じゃあ、そろそろお暇するとするよ。 ――では、大神様、また〟
詳しく聞き返す隙もなく、チェルディクスが一礼して、その場を後にしようとする。すぐさま、サフィーラが彼に続こうとしたが、ふと思い付いたかのように、エリンシェの方へと振り返った。
〝それじゃあね。 ――あなたはきっと、たくさんの「おもい」がある限り、強く在れると思うの。 だから、その「おもい」に応えられるように頑張ってね。 きっと大丈夫だから。 私も応援してるわ〟
優しく微笑みを浮かべながら、サフィーラもまた不思議なことを口にした。その後すぐ、チェルディクスの元へ駆け寄り、皆に手を振った。
そんなチェルディクスとサフィーラを不思議に思うことしかできず、エリンシェはただふたりを見送ることしかできないのだった。
――その後。
エリンシェ達もひとまず大神ディオルトの場所を離れることになった。他にあてもなくそのまま天界を去ろうとしたが、アリィーシュが、天界に来た際に、立ち寄らないと「後が怖い」という場所に向かいたいと申し出たため、そこへ向かうことになった。なんでも彼女の縁の地らしい。
……あとで落ち着いたら、情報を整理しよう。そう考えながら、エリンシェは次の目的地へ向かうのだった。




