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Angelic Storia  作者: 紡生 奏音
Wing Ⅱ Episode 3
125/151

Feather 1 ଓ 天界 〜〝holy realm〟〜


    ଓ


 ――それは、学舎(まなびや)生活上級課程三年目が始まってすぐのこと。

 特にレスカの動きもなく、落ち着いている間に、エリンシェはアリィーシュに頼み込んで、ジェイトと共に天界へ向かうことにした。

 天に近いところに在り、何人(なんびと)にも侵されない(ところ)に存在する場所である天界にはおそらく、人間が入ることなど滅多にないはずだ。そう考えて、エリンシェはアリィーシュに天界への案内を依頼したのだった。

「……だけど、本当に何も分からないかもしれないわよ?」

 「転移」の準備をしながら、アリィーシュが念を押すようにそう話す。いつもにも増して、自信がないように感じて、エリンシェはじっと彼女を見つめた。

「私もね、天界へと行って調べたのよ。 でも、何の収穫も得られなかった。 もしかしたら、あなたも同じ結果に終わるかもしれないと思ってね」

 しばらくそうしていると、アリィーシュが白状するように、肩をすくめながらそんなことを口にする。

 ……ひょっとすると、アリィーシュもエリンシェが会いたいと思っている「人物」を訪ねたかもしれない。そう察しがついたが、エリンシェにはそれでもやはり、天界へ行けば「何か」がつかめるという確信があった。

 エリンシェが答えるよりも早く、その表情(かお)を見て、アリィーシュはため息をついて「……分かった」と観念したかのように苦笑いを浮かべた。

「まぁ、とりあえず行ってみましょう。 ……ほら、準備できたわよ」

 ――そして、エリンシェはアリィーシュに導かれ、天界を訪れることになった。


     ଓ


 天界はとても複雑な処にあるらしかった。

 「転移」している間の時間はどこへ行くよりも長いように思えた。

(いつか、あなたも〝転翔(ソアー)〟で行くことになったらそのうち慣れるわよ)

 そんなことを考えていると、アリィーシュがエリンシェの頭の中に語り掛けてきた。

 ……そうだろうか。エリンシェにとっては、たった数回、単独(ひとり)で行けるような場所ではない上、それほど多く訪れる機会も少ないように思えた。

「ほら、着いたわよ」

 アリィーシュに何か返答しようとしている間に、目の前で視界が(ひら)けた。

 ――そこには天に近いところにあるとは思えないほど、豊かな景色が広がっていた。足元には雲に似た白い空間が広がっているが、ところどころ芝のような緑の空間も混在していた。そんな中に、点々と建物がたっていたり、奥の方には花園がちらりとみえたりした。

 エリンシェとジェイトが降り立つと、外にいた神々達は不思議そうな顔を浮かべていた。けれど、何者か理解できる(わかる)のだろう、すぐに珍しいものを見るような表情に変わった。

 けれど、中にはアリィーシュの姿を見つけ、彼女に手を振り、挨拶する(もの)もいた。

「……さて。 まずは大神(おおがみ)様のところへ行きましょうか?」

 エリンシェとジェイトが好奇の目で見られ、少し居心地悪く感じ始めたことに気が付いたのだろう、アリィーシュが挨拶を手を返し、ふたりを隠すような位置へとさりげなく移動しながら、そう訪ねた。

 すぐさまエリンシェがうなずくと、アリィーシュは足早にその場を離れ、「行きましょう」と先導した。

 視線も追いかけてくるのを感じながら、エリンシェはジェイトの手を引いて、アリィーシュの後に続いた。



 案内された大神ディオルトがいる場所はどの建物よりも神聖で立派なものだった。

 中に入るなり、アリィーシュは応対室のようなところに向かい、そこにいたディオルトに挨拶をかわした。そして、少し彼と会話をした後、振り返ってエリンシェとジェイトを手招きした。

〝おぉ、エリンシェ殿、よくぞ参られた〟

 エリンシェの顔を見るなり、ディオルトは微笑みを浮かべ、後ろにいたジェイトの方へと目を移した。……事情は知っているはずだが、エリンシェの口から紹介を求めているようだった。

「大神様、突然の訪問申し訳ありません。 あの、こちらは……――」

 まだ〝神格化〟して間もないジェイトがエリンシェよりもずっと、いたたまれない表情を浮かべているのに気付き、エリンシェは一歩前に出て、〝彼〟の手を引いて隣へと誘うと、顔を上げて言った。

「以前に大神様も何度かお見掛けしたかと思います。 ――こちらは私の大切なひとであるジェイト・ユーティスです。 この度、私が〝力〟を与え、あなた様にも力をお貸しいただいて、〝神格化〟をしました。 私がここまで来れたのは〝彼〟の存在あってこそだと言えます。 ――〝彼〟が〝神格化〟した今、これからはふたりで一緒にテレスファイラを守護して(まもって)いこうと思います」

 その言葉に、ジェイトがエリンシェの方へとぱっと振り返った。そして、少しの間〝彼女〟を見つめた後、一瞬にして表情(かお)を勇ましいものに変えると、堂々と顔を上げ、ディオルトに向き直ると、エリンシェに続いて自己紹介をした。

「改めまして、ジェイト・ユーティスです。 まだまだ未熟者ですが、よろしくお願いします!」

〝よろしく頼みます、ふたりとも〟

 ディオルトは少しだけ口元を緩めて、そんなエリンシェとジェイトを見つめながら返事をする。

〝それで……わざわざ天界(ここ)に来たのには何か理由があるのではないかな?〟

 そしてすぐさま、今度はエリンシェの方へと視線を移しながら、そんな問い掛けをした。

「はい、実は私……【敵】との対峙をきっかけに、自分の前世について聞くことになりました。 だけどまだ、その真実(はなし)について信じ切れない部分があるので、色々と知ることができたらと思ったんです。 それで、天界になら、私のその前世に当たる人物(ひと)のことを知ってる人がいるかもしれないって何となく思ったんです。 それと、私の友達が【敵】に身体を乗っ取られてしまって……。 ――でもひょっとすると、何とかする方法を大神様ならご存じではないかと思って」

 そんなディオルトに探るような視線を返しながら、エリンシェは天界へ赴いた理由を話した。

 少しだけ何か考えるような素振りを見せてはいたが、ディオルトはすぐに答えなかった。

〝思い掛けないことかもしれないが……。 案外、エリンシェ殿が知っている術の中には、あなたを助けてくれるものがあるだろう。 ――少し考え方を変えるだけで、きっと何か「糸口」が見つかるだろう〟

 直接的なものではなかったが、ディオルトはそんな答えを口にする。きっとよく考えれば、すぐにその「糸口」が見つかるだろう――そうであると信じ切ったまなざしで、彼は変わらずエリンシェのことを見つめていた。

「ありがとうございます」

〝……だが、まだまだ【敵】に向かっていくには他にも準備が必要だろう。 エリンシェ殿の問いはそれにも関わってくることなので、少しばかりお答えしよう。 ――まず、あなたの前世についてだが、その手掛かりになることを知っているのは神々の中でもほんの一握りしかいないのだ。 中でも一番深い関わりがあるのは転生を司る神リムゼールだろう。 だが、残念ながら、彼女は転生の「場」を離れることはできないため、逢うことはできない。 これは以前、ある「仮説」について調べようとしていたアリィーシュにも伝えたことだ〟

 ディオルトの言葉を聞いて、エリンシェはとっさにアリィーシュの方へと振り返る。

「前に【聖力狩り】について調べたことがあったでしょ? その時にひょっとすると、あなたと旧魔法王国の姫には何らかの形でつながりがあるんじゃないかと考えたの。 でもまさか、本当に前世っていうつながりがあるとはね。 だけど、今大神様が言った通り、私も転生の神には逢えなかったから、確信には至っていなかったの」

 ……だから、前世について打ち明けた時、アリィーシュはあまり驚いた様子を見せていなかったのか。エリンシェもそう打ち明けた彼女の話を聞いて合点した。

〝しかし、別の「伝手」がないこともない。 以前にアリィーシュがすぐそれに気付き、その「伝手」である存在を訪ねようとした。 けれど、その時は「所用(・・)」でな、その存在に逢うことはできなかった。 だが、今なら、逢うのことも可能だ〟

 ディオルトがそう言い終えるのと同時に、部屋の扉が開かれる。

 ――そこには黒い衣をまとった男性の神と、彼と対照的に透き通った白の衣を身に着けた女性の神が並んでいた。

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