Episode 2 Epilogue ଓ 錯綜 〜intricacy〜
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「……――」
純白と銀の羽根が舞い散るバルコニーを、【カノジョ】はただただ呆然と眺めていた。
【レスカ様……】
背後に控える男に声を掛けられても、【カノジョ】――レスカは黙り込んだままだった。
不意に、偶然一対に重なり、舞い降りてきた純白と銀の羽根を掴むと、レスカは愉快そうに笑いをこぼした。
「アレを見たか、デュロウ? ヤツの言った通りだった。 ――恋人とかいう噂のただの人間が来た瞬間、〝彼女〟はとんでもなく〝力〟を増幅した。 それだけでも十分面白いというのに、ソイツに『力』を与えた瞬間、〝彼女〟はより強くなった!」
そう話しながら、悦に入ったかのように、レスカは笑い続ける。
「あぁ……愉快だ! ふたりとも喰らえば、さぞ【力】が手に入るだろうなぁ! ――もちろん、私はふたりとも狩ってみせるぞ!」
高らかに宣言し、笑い続けていたレスカだったが、ふとぴたりと動きを止め、「だが……」と暗い声でつぶやく。
「――だが、このままでは、ふたりどころか、〝彼女〟すら狩ることはできないだろう」
【……おそらくは】
突然冷静になったレスカにようやく、男――デュロウが同意の声を上げる。
小さく首を縦に振り、レスカは考え込む。それほど経たないうちに、デュロウの方を振り返った。
「デュロウ、決めたぞ。 しばらく眠ることにする。 その間に〝彼女〟も強くなるかもしれんが、それはそれで一興だ。 ――ひとまず来たる日に備え、私は眠る」
【承知しました】
レスカの言葉に、すぐさまデュロウが先導し、準備を始める。
その後を追いながら、レスカは不気味な笑いを浮かべていたのだった。
ଓ
「――それで? これからどうするの?」
寮室に帰ると、ミリアとカルドが温かく出迎えてくれたが、しばらく経つと落ち着いた彼女がそんな問い掛けを口にする。
……いざ他人から指摘されると頭が痛くなるが、何の「糸口」も見つかっていないのは事情だった。
どう返せば良いものか悩み、思わずうつむいてしまったエリンシェだったが、ふと少し経つと、隣にいるジェイトがじっと視線を〝彼女〟の方に向けていることに気付いた。
エリンシェは顔を上げ、ジェイトを見つめ返した。――レスカにさらわれている間、何かあったんじゃないかと言いたげな様子だ。【カノジョ】から聞いたことを思い返し、それを受けて生じた思いを打ち明けることにした。
「私……私ね、さらわれた後レスカと向き合った時にね、思ったことがあったの。 メレナと初めて会った時にもそうだったんだけど、私、どうしようもなく……『手を差し伸べたい』と思わずにいられなかったの。 言葉にすると難しいんだけど、『救いたい』っていう気持ちにすごく近い思いを、私はメレナとレスカに抱いてるの」
それを聞いて、ミリアとカルドは驚いたような顔を浮かべていたが、ジェイトとアリィーシュはエリンシェの思いを受け止めようとしているようで、真剣な表情で話の続きを促していた。
「――だから私、レスカのことは『倒す』んじゃなくて、ちゃんと向き合って対峙したいの。 その上で、二人にとってより良い『選択肢』が取れるようにしたいの」
エリンシェは素直に、自分の中にある思いを打ち明けたが、ジェイトとアリィーシュがだんだん険しい表情になっていくのを目のあたりにした。……無理もない。エリンシェ自身、まだどうすへざ良いのか、その「方法」を見つけられていないのだから。
「……でも、これからどうするの?」
しばらく経って、アリィーシュにそんな問い掛けをされ、エリンシェも少しの間押し黙ってしまう。
「きっと、レスカもすぐには襲って来ないと思う。 だから、その間に何とか……――」
ようやくそれだけ返しながら、エリンシェはふと、レスカにさらわれていた時のことを思い出した。
――それはお前があの姫の生まれ変わりだからだ。
唐突に、レスカから告げられた「前世」。全部繫がったことですぐに受け入れたが、知りたいことはまだ残っていた。
――もっと、エルフィナのことを知りたい。そのためには、彼女のことを知る人物を訪ねなければならない。
「……私、天界へ行きたい。 その『方法』を見つけるためもあるけど――私、天界で確かめたいことがあるの」
エリンシェがそんな思いを口にすると、ジェイトとアリィーシュは首を傾げ、ミリアとカルドはさらに驚いた顔をしていた。
「確かめたいことって?」
「……うん。 あのね、まだちょっと信じ切れてはいないんだけど、レスカと話している時にね、聞いた真実があるの。 ――私は、旧魔法王国の姫の生まれ変わりなんだって……」
それを聞いた瞬間、アリィーシュが目を丸くする。……が、すぐに、何を考えている素振りを見せた。そして、それほど掛からないうちに、合点がいったような表情を浮かべた。
「それで、天界ってわけね?」
「うん。 天界なら何か知ってる人がいるんじゃないかと思って」
エリンシェの二つ返事を聞きながら、どうしたものかとアリィーシュは長考している。
「アリィーシュさん。 無理を言うようだけど、僕も一緒についていきたい。 エリンシェの手助けがしたいんだ」
そこに、ジェイトが名乗りを上げる。天界という未知の世界へ向かおうとしていることに、側で不安そうにしていたミリアとカルドが、その言葉にほっとした表情を浮かべた。
だが、アリィーシュはふたりとは裏腹に、少し困った表情を浮かべる。しばらく沈黙した後、ようやく「……分かった」と声を絞り出すように返事をした。
「だけど、行っても何も成果が得られないってこともあるかもしれないわよ。 ……それでもいい?」
念を押すようにそんな言葉を口にしたアリィーシュに、エリンシェはうなずいてみせた。
……とっさに思い付いたことだったが、天界へ行けば、「何か」が見えてくるような気がしていた。確信はなかったが、エリンシェはそのわずかな可能性に賭けてみることにした。
「それじゃ、今日のところは休んで、少し様子を見て襲撃がないか確かめてからにしましょう。 ……私も協力するわ」
「ありがとう」
こうして、エリンシェはその少し後、ジェイトとアリィーシュとともに、天界へ赴くことになった。
――そして、レスカとの「対峙」へと向かっていく中、学舎上級課程の二年目も静かに終わりを告げ、激動の三年目が始まろうとしていたのだった。




