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Angelic Storia  作者: 紡生 奏音
Wing Ⅱ Episode 2
122/151

Feather 11 ଓ 「連理」 〜〝binate〟〜


    ଓ


「とんだ獲物(エモノ)だ」

 そう言って呆れ返っていても、余裕があるのか、レスカはまだエリンシェを拘束したりはしなかった。

 しばらく経って気が付くと、最初に寝かされていた部屋に戻されていた。

 ……身体が思うように動かない。封印されているのに〝力〟を無理やり使ったせいだろう。

 横たわったまま、エリンシェはペンダントを握る。相変わらず〝幸いの天使(フィルネリア)〟の〈声〉はきこえないが、そうしていると少しずつ〝力〟が湧いてくる気がした。

 エリンシェはため息を()きながら思う。……()べれば良かったのに。けれど、ジェイトには此処(ココ)に来られるよう、強い「思い」を託しておいた。きっと、アリィーシュが何とかしてくれるだろう。

 思い切って動いたからにはじきに、ジェイトが助けに来てくれるだろう。――ならば、こちらも行動をしなければならない。

 エリンシェは身体が動かせるのを待つ間、封じられている〝力〟を少しずつでも解放できるように、レスカの術を解こうとした。

 とはいえ、できるのはペンダントを握り、ひたすら〝幸いの天使(フィルネリア)〟に呼び掛けることだけだった。

 しばらくそうしているうちに、少しずつ身体を動かせるようになっていた。

 それと同時に、ふと、レスカに支配されていたこの「空間」に歪みが生じたのを感じた。そして、「城」の外からエリンシェに呼び掛ける「声」がきこえた気がした。

 ――ジェイトだ。

 そうだと理解する(わかる)と、エリンシェは自然と「力」が湧いてくるのを感じた。けれど、まだ身体の自由は完全にはきいていなかった。おまけに、「歪み」が生じたことに気付いたレスカとデュロウが近寄ってくるのを感じた。

 いや、それでも絶対に逃げのびてみせる! そんな決意を(いだ)き、エリンシェは身体にむちを打つ。すると、何とかベッドから起き上がることができた。

 その間もずっと、ジェイトはエリンシェのことを呼び掛け続けていた。何とかして応えようと、だんだん〝彼〟のその「声」をきいているうちにふとあることに気付く。


 ――〝彼〟は「覚悟」を決めて、此処(ココ)へ来ている。

 ならば――こちらもその「覚悟」に応えなければならない。


 エリンシェはひとまず少しでも外へ出ることにした。……レスカとデュロウが近づいて来ている。急がなければ。

 先程は気が付かなかったが、今いる部屋にはバルコニーが備えられていた。エリンシェはそこを目指して、身体に(むち)打ち、歩き出す。

 ふとその途中で、エリンシェはいつか話していた大神(おおがみ)ディオルトが「何かあれば(・・・・・)、すぐに私を呼びなさい」という言葉を思い出す。あれは今も有効だろうか? ――もし有効であるなら、彼の力を借りたいと思っていた。

 一か八か、エリンシェはディオルトに呼び掛けてみた。すると、言葉による返事はなかったが、反応が返ってきたのが分かった。――どうやら、ディオルトはなぜ呼んだのか、理由を聞きたいようだった。

(――大神様。 私が今から行おうとしている術は、私独りでは完遂できそうにありません。 けれど、私は〝彼〟のおかげで「此処」まで来れたのです。 だから、〝彼〟の「覚悟」が定まった今、私は必ずその術を成し遂げなければなりません)

 心の中でディオルトに呼んだ理由を述べながら、一歩一歩、エリンシェはバルコニーに向かっていた。そして、ようやく、そこから顔を出すと、こちらを見上げているジェイトとアリィーシュの姿が見えた。

 それと同時に、部屋にレスカとデュロウが入って来た。彼らがたどり着くよりも先に、エリンシェは身を乗り出した。

 またディオルトの微かな反応があったのを感じ取りながら、エリンシェはジェイトの方へと向き直り、のど元を指し示した。

(声が出ないの。 お願い、「力」を貸して)

 その行動の意味を理解したジェイトがすぐさま、〝疾風の弓矢(ゲイル)〟をエリンシェののど元へと構えた。

 ジェイトの姿を目にしたからだろうか、エリンシェは少しずつ〝力〟が戻りつつあるのを感じていた。もう一度〝幸いの天使(フィルネリア)〟に呼び掛け、バルコニーの柵へと足を掛けた。

 その(かん)に、矢が放たれた。

 ジェイトが的確にレスカの術を破り、エリンシェは声が出せるようになり、〝力〟も解き放たれたのが分かった。

 すぐさま、〝聖杖(ケイン)〟を呼び出し、手にしながら、エリンシェはジェイトを振り返る。――「今!」と合図を送ったつもりだったが、とうに〝彼〟の方は「覚悟」ができているようだった。

(――〈フィー〉、これからアリィが教えてくれたあの術(・・・)を唱えるよ。 大神様も手伝ってくれるし、必ず成功させるよ。 ……いける?)

〈はい、もちろんです。 ……ずっと(こた)えられず、申し訳ありません。 けれど、「準備」はできています。 ――それでは、〝聖杖()〟にありったけの「おもい」と〝力〟を込めた後、高く掲げ、〝守護者(あなた)〟の名の(もと)にあの方を「任命」して下さい〉

 ……すぐ後ろに、レスカとデュロウがいる気配を感じる。それよりも早く、エリンシェは息を大きく吸い込んで、〝聖杖(ケイン)〟を胸に優しく(いだ)いた後、高く掲げた。それと同時に、強く「気」を張る。――後ろのふたりを寄せ付けないためだった。

 ――そのまま声を張り、唱える。

「エリンシェ・ルイング――テレスファイラの〝守護者〟の名において、()い願う。 ――汝、ジェイト・ユーティスよ、我とともにテレスファイラを守護し(まもり)給え。 その恩恵として、汝の『勇気』を讃え、我が〝力〟の一部を分け与えん」

〝――そして、その祝福として、大神(おおがみ)ディオルトより、汝に「()」と我らが神々の生命の一部を分け与えん〟

 続けざまに、何処からか、ディオルトもそう唱える。おまけに、彼もレスカとデュロウが手出しできないよう、力を貸してくれているようだった。

 姿はなくとも、エリンシェの思いに応じてくれたディオルトに感謝を心の中で述べながら、エリンシェは「詠唱」を続けた。

「――どうか、(なが)き生命が尽きるその日まで、我とともにテレスファイラ(このせかい)を平和と幸福に導き給え」

「――(うけたまわ)りました!」

 ジェイトの返事を聞いた直後、エリンシェは意識を集中させ、〝幸いの天使(フィルネリア)〟に呼び掛けた。

(いくよ、〈フィー〉)〈はい〉

 〝聖杖(ケイン)〟にありったけの〝力〟をこめ、エリンシェは大きく息を吸うと、最後の詠唱を口にした。

「――〝神格化(アポテオシス)〟!!」〝――「神格化(アポテオシス)」!!〟

 呼応するように、ディオルトも同じくそう唱えていた。

 ――その次の瞬間、辺りがまばゆいばかりの光に包まれる。

 そんな中でも、エリンシェは〝聖杖(ケイン)〟に〝力〟をこめたまま、柵へと登る。

 ジェイトに〝神格化(アポテオシス)〟で〝力〟を与えたのと同時に、エリンシェはもう一つ〝彼〟にとある「贈り物」を送っていた。

 ――それは銀色の「羽」。これからをともに生きるために必要となる、新たなジェイトの「翼」だった。

 光が消えた瞬間、ジェイトの背中から銀色の「翼」が生え、辺りに「羽根」が散らばる。

 それと同時に、エリンシェは〝羽〟を広げると、両手を広げて待つジェイトの元へと迷いなく飛んだ。

「待て!!」

 後ろから、レスカの制止の声が聞こえる。

 ……けれど、もう怖くない。――そばにジェイトがいるだけで、恐れるものなど何もなかった。

 そのまま、エリンシェはジェイトの胸に飛び込むと〝彼〟を強く抱き締め、続けざまに握った〝聖杖(ケイン)〟を高く掲げた。

「アリィ!」

 そして、隣にいるアリィーシュにも手を伸ばし、彼女の手を掴むと素早く唱えた。

「〝転翔(ソアー)〟!!」

 ――エリンシェはジェイトとアリィーシュを連れたまま、「城」を逃げ出したのだった。


    ଓ


 ()んだ先は丘だった。

 勢いよく、エリンシェは身を地面に投げ出すと、そのまま荒い呼吸を繰り返していた。

 ジェイトがエリンシェの声と〝力〟を解放したものの、完全にはほんの少し至っていなかったため、無理したことには代わりなかった。がむしゃらに逃げ出したせいで、無事になってから、身体に負担が遅い掛かって来たのだ。

 しばらく深呼吸をしているうちに、何とか落ち着きを取り戻したエリンシェは、身体を無理やり動かし、同じく隣に倒れるジェイトの方へと身を乗り出した。

「ジェイト……ごめんね。 それにありがとう」

 色々なことに対して謝罪と感謝を述べ、エリンシェはジェイトの反応を待つ。

 「覚悟」を決めていたとはいえ、まだ整理がついていないのか、ジェイトは呆然としている。

「――いや、いいんだ」

 エリンシェがおずおずと顔を覗き込み、様子を見ていると、ようやくしばらくジェイトが一言だけ、そう口にした。

「何ていうか……。 まだ実感は湧かないけど、これでようやくきみと肩を並べられるんだね?」

 続けて、どこかまだ先程までの出来事が信じられないといった様子でそんな疑問を口にするジェイトに、エリンシェは大きくうなずいてみせた。

「そうか……。 ――そうか!」

 噛みしめるようにそう繰り返した後、ジェイトはいきなり身体を起こすと、エリンシェを抱き締めた。

「ありがとう……ありがとう!! これでもう、きみを『独り』にしないで済む」

 何がなんだか分からず、エリンシェもされるがままだったが、ジェイトのあたたかさに触れていると、何があってもエリンシェのそばにいるために、〝彼〟が強い決心で「選択」と「覚悟」をしたのだということが分かった。

 そこまでエリンシェのことを想い、そばにいまいと願ってくれている〝彼〟の「おもい」が嬉しくて嬉しくて。涙がこみ上げてくるのを感じながら、エリンシェもジェイトのことを強く抱き返した。

「ジェイト……。 お願い、これからはずっと私のそばにいて。 ――私と一緒に生きて」

 気が付くと、まるで(すが)るようにして、エリンシェはジェイトにそう懇願していた。

「もちろんだよ。 約束する」

 それにも関わらず、ジェイトがすぐさま二つ返事をする。

 ジェイトのその答えに、エリンシェは胸が締め付けられそうになるのを感じた。理由は分からなかったが、涙があふれてあふれて仕方ない。ついにはせき止めることができなくなって、エリンシェは思い切り泣いた。

 あぁ……すごく幸福(しあわせ)だ。ひしひしとそう感じながらも、エリンシェは冷静さを取り戻していた。

 ――けれど、まだ「終わり」ではない。レスカと対峙(たいじ)しなければ、本当の幸福(しあわせ)を掴むことはできないのだ。

 ……こんなことを考えるのは二度目だ。けれど、今度はただ【カノジョ】を倒すだけでは済まされない。何か……対峙する「方法」を見つけなければ。

 自分を奮い立たせ、エリンシェはジェイトから離れる。少し名残惜しくも感じたが、ひとまず……――。

「――さ、帰ろうか」

 そう言って立ち上がり、エリンシェはジェイトとアリィーシュとともに丘を後にするのだった。

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