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Angelic Storia  作者: 紡生 奏音
Wing Ⅱ Episode 2
121/151

Feather 10 ଓ 「比翼」 〜Side 〝J〟 ➳ awakening hero Ⅱ〜


    ଓ


 ――気が付くと、〝彼女〟の姿が見えなかった。

 ジェイトははっと振り返り、エリンシェを探す。けれど、何処にも(・・・・)見つからない(・・・・・・)。その代わり、何か……良くない【モノ】の「気配」だけが残っていた。

「アリィさん!」

 急いで、ジェイトはアリィーシュの名前を呼ぶ。彼女もエリンシェが居なくなったことに気付いたようで、すぐさま姿を現した。

 ジェイトがエリンシェがさらわれてしまったと口にする前に、アリィーシュは首を横に振った。――見つけられない、と言っているようだった。

 そばにいたミリアとカルドが心配そうな表情を浮かべる。

 警戒していたというのに、やすやすとエリンシェをさらわれてしまうとは……。【敵】の方が一枚上手だったようだ。

「エリンシェは()を捕まえようとしてるみたいだって話してたわ。 ……でも、あの()にも意地がある。 きっと、居場所を教えてくれるはずよ」

 今のところ、エリンシェから動きがない限り、動けそうにないと告げるアリィーシュの言葉に、ジェイトは落胆する。

 ――が、何かエリンシェから言われているのか、アリィーシュがジェイトに近付いてくると、耳元でささやき掛けた。

「もちろん、私も探してみる。 でも、きっと、あの()はあなたを頼りにするはずだから、『覚悟(・・)』を決めておいて」

 アリィーシュのその言葉の意味を理解し、ジェイトは息を呑む。だがすぐに、以前から固めていた「決意」を思い返し、彼女にうなずいてみせるのだった。



 それから、ひとまず寮室へ帰り、しばらく経った頃。

 ふと、ジェイトは「何か」を感じ、顔を上げる。――微かにエリンシェの気を感じたような気がして、辺りを探し始める。

 もちろん、〝彼女〟の姿は見えない。けれど、エリンシェがジェイトを呼んでいるような、そんな気がしたのだ。

 その次の瞬間、ゆらりとジェイトの目の前が揺らいだ。

 ……錯覚だろうか。エリンシェがジェイトの元へ()ぼうとしているのを感じ取った。

 ――目の前に、エリンシェの顔が見える。

 はっきりとその姿を目にして、思わずエリンシェの方へと手を伸ばす。

 だが、不意に、何かを口にして()びたとうとした〝彼女〟を【誰か】が食い止める。

 「目の前(・・・)」で起きている出来事なのに、どうすることもできない。

 ジェイトは歯がゆく思ったが、すぐにエリンシェが()ぼうとしたのは逃げるためでなく、居場所を知らせるためだと気付き、慌ててその「場所」が何処かを探り始めた。

 ……見覚えがある。エリンシェの姿の奥にうつるものを何とか見つけ出し、ジェイトは記憶をたどった。

 どうやらエリンシェを捕らえた【敵】によって手が加えられているようだったが、あれは……確か、以前からゼルグが利用していたヴィルドの「屋敷」のようだった。

 ジェイトがそのことに気付いたのと同時に、目の前の「光景」は何事もなかったかのように消えてしまった。

 ……けれど、〝彼女〟の居場所は分かった。――エリンシェは「屋敷(ソコ)」にとらえられている。

「アリィさん!」

 ジェイトが呼ぶと、アリィーシュはすぐさま姿を現した。

「今、エリンシェが教えてくれた。 ――前にゼルグ達が使ってた『場所』だ」

「分かったわ」

 詳しく伝えなくても、アリィーシュはそれだけで理解したようだった。すぐに、エリンシェのところへ向かうために〝(ステッキ)〟を取り出し、ジェイトのために「道」を切り開こうとする。

「……!!」

 けれど、そのための魔法陣を描くことすらできない様子だった。どうやら【敵】に妨害されているらしい。

 ……諦めるものか。せっかくエリンシェが居場所を教えてくれたのだ。必ず助けに行ってみせる。だが、そんな思いだけが(はや)っていても、今のジェイトにはどうすることもできなかった。

 ふと、そんなジェイトを見て、アリィーシュが何かを考え始める。軽く〝彼〟の肩に触れると、「そのまま」と再び〝(ステッキ)〟を強く握った。

 ――そして、深く息を吸うと、思い切ったかのように魔法陣を描き始めた。

「え……!? どうやって……――」

 ジェイトが理由を聞くよりも早く、アリィーシュが肩からそのまま腕を掴んで、魔法陣へと飛び込んだ。その途中、彼女がちらりとこちら(ジェイト)を振り返った気がした。

 ――まるでそれは、その強い思いを絶やさず、「覚悟」を決めろと言わんばかりだった。


    ଓ


 転移した先は確かに見知った場所ではあったが、やはり随分と手が加えられているようで、その様は「屋敷」――というよりは「城」へと変貌(へんぼう)していた。

 足元を見ると、地面にはドロドロと粘り気のある黒い液体状の物体で埋め尽くされていた。

 飛べないジェイトを抱え、アリィーシュは何とか足場を見つけ出し、そこへ降り立った。

 入口にはほど近かったが、アリィーシュはできるだけ気配を消し、見つかっていないか警戒しているようだった。

「あ……アリィーシュさん……」

「お互いに強い思いだったみたいだから、あの()とあなたの思いとを私も繋ごうとしてみたら、たまたま来れただけ。 もしかしたら、あの()もそれを想定していたのかもしれないわね。 ……まだ【敵】には見つかってないみたい。 ――ジェイト君、あの()に呼び掛けてみて。 かなり【(向こう)】の方が上手(うわて)みたいだけど、あの()のことだからあなたなら気付いて、何か応えてくれるかも」

 ジェイトが声を掛けると、振り返らずにアリィーシュは早口にそう言った。

 そんな無茶なと思いつつ、ジェイトは一呼吸置いて、エリンシェに心の中で呼び掛ける。

 ……だが、「反応」がない。

 しばらく呼び掛け続けるが、エリンシェは一向に応えてくれない。少し不安になるジェイトだったが、何か違和感を覚えた。

 ……いや、違う。――「反応」しようにも【敵】に邪魔されていてできないのだ。そうだと理解する(わかる)と、エリンシェが抗いながら、何とかして応えようとしているのが分かった。

 辛抱して、少し待つ。その間に、いつでも動けるように、ジェイトは身構えた。

 ふと「気配」を感じて、ジェイトは「城」のバルコニーを見上げる。その少し後に、見慣れないドレスを身にまとったエリンシェがそこに姿を現すと身を乗り出し、何かを訴え始めた。

 ……声が出せないのか。よく見ると、エリンシェはのど元を指差している。ジェイトは躊躇(ためら)いなく、〝疾風の弓矢(ゲイル)〟を〝彼女〟の方へと構えた。

(どうか【敵】の術を破って、エリンシェの声を取り戻せますように)

 そして、そんな思いをこめ、矢を一気に放つ。

 パツン、と何が弾けたような気がした。

 それと同時に、〝聖杖(ケイン)〟を呼び出し、手にしたエリンシェがジェイトの方へと一瞬振り返った。


 ――今!


 声なきエリンシェの言葉に、ジェイトは気を引き締める。両手を大きく広げると、〝彼女〟に向かってうなずいてみせた。

 けれど、【敵】も黙ってはいなかった。エリンシェの背後から(オンナ)(オトコ)の【邪神】が〝彼女〟をとらえようと姿を現した。

 だが、それよりも、エリンシェが早かった。〝聖杖(ケイン)〟を胸に優しく(いだ)いた後、高く掲げると口を開いた。

「エリンシェ・ルイング――テレスファイラの〝守護者〟の名において、()い願う。 ――汝、ジェイト・ユーティスよ、我とともにテレスファイラを守護し(まもり)給え。 その恩恵として、汝の『勇気』を讃え、我が〝力〟の一部を分け与えん」

〝――そして、その祝福として、大神(おおがみ)ディオルトより、汝に「()」と我らが神々の生命の一部を分け与えん〟

「――どうか、(なが)き生命が尽きるその日まで、我とともにテレスファイラ(このせかい)を平和と幸福に導き給え」

 エリンシェとともに、姿はなかったが、大神であるディオルトも〝彼女〟に〝力〟を貸しているらしく、そんな言葉を掛ける。

 そのおかげだろうか、【敵】は黙っていないはずなのに、不思議なことに今この瞬間だけは手出しできずにいる。

「――(うけたまわ)りました!」

 だが、あまり時間は残っていないだろう。すぐさま、ジェイトは返答した。

 遠く離れているはずなのに、すうっとエリンシェが大きく息を吸うのが分かった。そして、その直後、凛とした声で唱えた。

「――〝神格化(アポテオシス)〟!!」〝――「神格化(アポテオシス)」!!〟

 エリンシェの声に、ディオルトの声も重なる。


 ――その次の瞬間、エリンシェが掲げる〝聖杖(ケイン)〟からまばゆい光があふれんばかりに放たれた。

 そして……――。


 ――光が消えると同時に、辺りに銀色の「羽根」が散らばった。

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