Feather 7 ଓ 【起因 Ⅱ】 〜【causing Ⅱ】〜
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……だが、それも長くは続かなかった。
レスカが誕生して、数年経った頃。――そろそろ【邪神】の棲む【世界】を見せようと、【カノジョ】の「後見」が住処の外へと出そうと話し合っていた時のことだ。
幼いレスカは左手を抑え、住処の中を暴れ回っていた。
【どうしたの、レスカ?】
女後見が声を掛けても、レスカは何も応えず、ただケモノのような瞳で辺りを彷徨うばかりだった。
【欲シイ……】
そうつぶやくレスカに、女後見は肩を震わせる。
一方の男後見はレスカが〝力〟を欲していることに気付き、立ち上がるやいなや、どこかへすぐに姿を消した。
そのすぐ後、男後見は縛られた一人の神を、レスカの元へと放り投げた。――飢える【カノジョ】のために、その神を捕らえたのである。
目の前に落ちた神を見た瞬間、幼いレスカは口元を歪ませた。かと思うと、台所へ走り、小さめの包丁を手にした。そして、神の方へと振り返ると、包丁をその胸へと突き刺した。
神が絶叫を上げる。その声を愉しむかのように、レスカが一層口元をゆるませた。
やがて、神は叫んだまま、霧散した。レスカはそんな神を意にも介せず、まるで血のようにまとわりついている〝光〟をぺろりとなめ、愉快そうな表情を浮かべていた。
――それが、レスカが誕生してからの初めての【狩り】だった。
己の仔でありながら、ケモノのような姿を見せるレスカを、両後見はただただおぞましいモノを見るような目つきで、しばらく眺めていたのだった。
初めての【狩り】から、多くの神を後見から与えられ、レスカは何とかただの【邪神】として、住処の外に出ることに成功し、生涯ずっと使うことになる【武器】が与えられる儀式も何とかこなし、しばらくの間は正体を知らずに済むことができた。
……しかし、問題はまだ成長しきっていない【邪神】達に設けられている「場」で発生した。
――数人の若い【邪神】が集まられ、経験の多い【邪神】から戦い方を学ぶ「場」でのこと。
レスカもそのうちの一人として、その「場」に参加していた。
後見から決して【聖力狩り】の力は出さず、ただの【邪神】として振る舞うよう言いつけられていたレスカはできるだけ、他の【邪神】と関わらないようにしていた。
――……はずなのだが。
【何だ、オマエ。 弱っちい「力」のくせに、よく出て来れるな】
一人の若い男【邪神】がそう言って、レスカを侮辱した。
――彼には他の【邪神】の【力】の強さが分かる能力があるのだろう。……けれど、それが仇となった。
【……ほっといてよ】
レスカはそっぽを向き、彼から距離を取る。――後見が連れてきた神達は皆、満足がいくほどの〝力〟を持っていなかったのだ。二人に頼るよりも、一刻も早く自らの手で【狩り】ができるよう、その術を学ばなくてはならない。そのためにもこの「場」で戦い方を覚える必要がある。
けれど、タダでは済まないのが【邪神】もいう存在。ちょっかいを出した若い男【邪神】は突然、レスカに【武器】を振りかぶり襲い掛かった。
とっさにレスカは攻撃をかわすと、彼をにらみつけた。
【……なんだよ、ツマンネー。 弱いから殺らせてくれるかと思ったのに】
男【邪神】がつぶやくのを聞いて、レスカは思わず【短刀】に手を伸ばしたが、まだ理性が働いていた。……【解邪】してしまえば、こんな小物どうとでもなるが、今手を下してしまうと、これから先どうなるか分かったものではない。
【……あ、分かった! オマエ、昔いたとかいう「聖力狩り」とかいうヤツなんだろー? だから、そんな弱っちい「力」でも生きていけるんだろ〜?】
何を思ったが、小物がそんな戯言を口にし、わめき出した。……けれど、その言葉は少なからずレスカには効果があった。思わずぴくりと顔をひきつらせてしまったレスカは黙り込んだまま、うつむいてしまう。
【あ〜図星かぁ! 何も答えないってことはそうなんだろ〜? でさ〜、その「聖力狩り」ってのは「邪神」のくせにすっげぇキモチワルイヤツで、もし見掛けたら徹底的に懲らしめてやっつけていいって聞いたことあるんだよなぁ! ――だったら、オレも殺っていいよな……?】
その様子を見た小物が今度は本気でレスカに斬り掛かる。
――その瞬間、【カノジョ】の顔が一層曇った。
さっと後ろに飛び退くと、【カノジョ】は【短刀】を小物に向けた。小さく何かつぶやくと、そのまま小物に襲い掛かった。
あまりの早さに、小物は【カノジョ】を目で捉えることができなかった。避ける暇もなく、慌てていると、上から「ナニカ」が飛びかかってきた。
――【カノジョ】だった。小物の上に馬乗りになると、その前に【短刀】を突き付けた。見下すように、小物に尖い視線を投げた。
【ウワアアアアァァァァ!! バケモノ!!】
――彼の悲鳴で【カノジョ】はふと我に返る。
自分が何をしでかしたか気付いたレスカは【短刀】を引っ込め、慌てて彼から離れる。――いつの間にか我を忘れ、【解邪】してしまったようだ。
……けれど、もう手遅れだった。
騒ぎに気付いた【邪神】達が、訝しげにレスカの方を見ていた。
その視線から逃げるようにして、レスカはその場から走り去ったのだった。
……正体がバレた以上、住処に帰ることはできない。「後見」もどうなるか分かったものではないが、気にしている場合ではない。
いざとなれば不要なモノは切り捨てる薄情な生き方をしているレスカは紛れもない【邪神】だった。
そして、【聖力狩り】という存在をないがしろにするあの若い男【邪神】や周りの【邪神】達に怨みを抱くことよりも、とにかく【邪神】の【世界】から離れようという気持ちがレスカの中で勝ったのは「後見」の努力の賜物ではあった。
正体がバレたのがまだ小さい「場」だったこともあり、レスカに襲い掛かってくる追手は一人もいなかった。
【世界】の出入口である狭間の空間にたどり着くことができたレスカはそのまま迷いなく、「外」へと旅立ったのだった。
レスカが行き着いたのは何も無い世界だった。
――人間も、神も、いない世界。
そんな世界の片隅で、レスカは他よりも「旅立ち」を迎えてしまった。まだ戦い方も――【狩り】の仕方も覚えられないまま飛び出してしまった以上、自力で何とかするしかない。
……これからどうしたものか。そう考えながら、レスカはただぼう然と世界を見つめる。
しばらく経った頃だろうか、ふと、レスカは「何か」に気付いた。
今いるこの世界では、生物の類は見当たらなかったが、別の世界ならば……神もいる。そして、その何処かにとても強い〝力〟を持っている「存在」がいる。
……探そうか、その「存在」を。
(他のモノ達のように、世界などのような【野望】は求めない。 ただ……ただ、私――「私」はひたすらに【力】を求めたい。 誰よりも強く在る【邪神】でいたい。 ――この世でただ独りの【聖力狩り】としてではなく、私自身の「矜持」として)
――そのためにも【狩り】は続けなければならない。
そして、レスカはレスカのなりの【野望】を抱き、【邪神】として存在し続けることを誓ったのだった。




