Feather 6 ଓ 【起因 Ⅰ】 〜【causing Ⅰ】〜
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「――それで、何が聞きたい?」
目が覚めた先程の部屋に戻るなり、レスカがそう尋ねる。
譲らなかったものの、具体的に何が聞きたかったのかと改めて聞かれるとすぐには思い付かない。少しの間、エリンシェは悩んだ。
知りたいと思うからには、【カノジョ】が【聖力狩り】であることもよく理解しないといけないだろう。
(アナタが……誕生してからこれまでのこと――全部)
そうして行き着いたエリンシェの答えに、レスカが意外そうな顔を見せる。けれど、拒否することもなく、またため息混じりに口を開いた。
「……いいだろう」
――そして、レスカは己の過去を語り出したのだった。
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地中の奥深く――ずっと奥深く。
其処に【邪神】の棲む【世界】があると言われていた。
けれど、実際のところ、何処にあるのか、誰も――【邪神】達さえも知らない。なぜならば、物心がつくと【邪神】は【野望】を抱き、その【世界】から離れていくモノが多くいるからだ。――【邪神】達は、己の【野望】以外のコトには何の関心を持たないのだ。
互いに関わらない――そんな【邪神】達にも、唯一例外があった。
それは【邪神】というモノを絶やさないために、「番」を持ち、新たな【邪神】を誕生させることだった。
「番」となったモノ達は新たな【邪神】を誕生させた後、【野望】を持つまでは共にその仔を育て上げるよう、定められていた。そして、その「役目」を終えたモノ達はまた、己の【野望】のために存在し始めるのだ。
そんな誕生する【邪神】の中でも、【聖力狩り】と呼ばれる【存在】は極めて異質なモノだった。
「番」の「血」でもなく、何時何処で誕生するのか分からない【聖力狩り】という【存在】はその異質さから、同胞であるはずの【邪神】達からも忌み嫌われて、やがて排除される対象となり、その数を減らすこととなった。
――その結果、【聖力狩り】という【存在】は一時絶滅していた期間があった。
そんな中、誕生したのが現在、唯一の【聖力狩り】として生き残っているレスカだった。
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【……嘘】
レスカを産んだ母親にあたる女の【邪神】は、己の仔の左手を見るなりそうつぶやいた。
やがて畏怖の浮かべた女を振り返り、父親にあたる男もまた、その視線の先――己の仔を見て、息を呑んだ。
【まさか……】
――二人の仔には左手には小さな【痣】があった。
すぐに、男が仔の【力】の有無を確かめる。
――その仔には【力】が無かった。
【嘘でしょ! 私達の仔が「聖力狩り」として生まれるなんて! 確か噂では――――とかいう名前の「邪神」で絶滅してたって言うじゃない!】
そう喚きながら、女が頭を抱える。男の方もふらついて、物に寄りかかりながら、女に何も返すことができずに黙り込む。
二人は、もちろん己の仔を畏れてもいたが、【聖力狩り】を誕生させてしまった「番」達がどういった末路を辿るのか、知られていないからでもあった。
【……隠……そう】
ふと、男が何かをつぶやいた。それを聞いて、混乱していた女が弾かれたように顔を上げ、男を振り返る。
【何ですって……!?】
【――隠し通そう。 物心つくまでにいくらか〝力〟を与えれば、「力」がないことに気付かれないはずだ】
今度ははっきりと、男が女に言い放った。
そんな男に、とんでもないモノを見るような視線を投げ掛けながら、女は首を横に振った。
【何言ってるの? 本気!?】
【あぁ、本気だ。 正直にこの仔の正体を申し出れば、間違いなく「聖力狩り」として迫害されてしまう。 だってそうだろう? ――現に私達だってこの仔を畏れているんだから。 忌み嫌われ迫害され、この仔が「邪神」全てを恨み、存在そのものを滅ぼそうとしたらどうする? 少なくとも、隠し通すことができれば、そんな危険からは逃れられるはずだ】
もっともらしく言ってのける男の話に、女はつい納得し掛けてしまう。けれど、やはり、男が正気の沙汰ではないと考え直し、また頭を振りながら反論する。
【そんなの……正気じゃないわ! 何を根拠にそんなバカなことを言うの!?】
【根拠なんてない。 ただ……この仔からはナニカ……「恐ろしいモノ」を感じるんだ。 無茶なのは分かってる。 だけど、少なくとも、この仔の「滾り」を私達「邪神」から他に背けることはできる】
ただのカンではあるが、己の仔から並々ならぬモノを感じ取ったらしい男と、件の仔を見比べ、女は思案する。
確かに、二人の仔――レスカは男の言う通り、誕生しながらにして禍々しい「気」を持っていた。
【……分かった】
長考の末ようやくうなずいた女に、男はほっとした表情を見せた。
【この仔が〝力〟を求めだしたら、私達で何人か調達してこよう。 物心がついたらすぐ、適当な処にこの仔を逃がそう。 最後までは無理でも、少なくともこの仔の「獲物」を見つけられるまではできるだけ隠し通そう】
――こうして、二人は己の仔を【聖力狩り】としてではなく、ただの【邪神】として物心つくまで育て上げることを誓い合ったのだった。




