Feather 4 ଓ 【侵蝕】 〜【shadow】〜
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――「何か」が……ピシッと音を立てたような気がした。
それにいち早く気が付いたエリンシェはふと、顔を上げた。意識を集中させ、「何」が起きたのかを突き止めようとする。
……心なしか、「空気」が張り詰めたように思える。「何か」が入り込んだのかもしれない。
(――アリィ)〝どうしたの、エリン〟
エリンシェは、姿を消し、側に控えているアリィーシュに心の中で呼び掛ける。すると、彼女がすぐさま反応する。
(……嫌な予感がする。 全く動きが掴めないんだけど、「何か」が入り込んで来たと思う。 もしも……私が【敵】につかまってしまったら、ジェイトをお願い)
〝どうしたの? 珍しく弱気じゃない〟
エリンシェが予防線を張ると、アリィーシュがそう指摘する。いつもなら……何とか突破口を切り拓くのだが、今回ばかりはそれも難しそうな気がした。未だ意識を集中させ、【敵】の「気配」を感じ取ろうとしたが、その動きが掴めそうになかったのだ。
(「向こう」が執念深いくらい本気なの。 「気配」を掴もうとしても、そうさせまいと動いているような……そんな感じ。 まるで影を捕まえようとしてるみたい)
途方に暮れて、エリンシェは肩をすくめながら、アリィーシュにそう返す。今のところ、「向こう」もこちらの動向を見ているようだ。そうしているうちは手を出して来ないだろう。
とはいえ、独りの時間を増やし、隙を与えてもいけない。エリンシェは早足でその場を後にするのだった。
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その後、しばらく落ち着かない日々が続いた。
一瞬でも気を抜けば「向こう」が動き出しそうに思えて、日に日に疲労が募るばかりだった。もちろん、エリンシェの側にはアリィーシュも控えていたし、ジェイトが中心になって〝彼女〟から離れまいと行動してもいた。
ふと、エリンシェはレスカが口にしていた「人間というものは決して、生まれ持つ運命に抗えない」という言葉を思い返していた。
……そんなことはない。あの日返したように、人はどんな運命だろうと立ち向かっていけるはずだ。なぜ、今更そんなことを思い出すのだろう。
――そう思った時にはすでに手遅れだった。
視界がぐらりと揺れ、キィンという音が反響する。
側にはジェイトやみんながいて、アリィーシュがいたはずなのに、誰もいない。独り、何処か分からない空間に囚われている。
……まずい。エリンシェはすぐに出口を探そうとするが、背後に「気配」を感じ、思わず動きを止めてしまう。
「――そう、あなたは『運命』というものに嫌悪を抱いている」
男……――いや、【邪神】だ。そうだと理解できるのに、エリンシェはなぜか振り向けずに――逃れられずにいた。
【――本当はただ幸せに暮らしていたいだけなのに。 どうして自分には〝力〟があって、この世界を守護しなければならないのか――どうして自分だけがこんな「運命」を背負わなければならないかとそう思っている。 ……違いますか?】
……違う。――違う!! エリンシェが必死に抵抗するも、背後の【敵】はそれまでに感じていた通り執念深く、エリンシェを追い詰めようとしていた。
隙を突かれないよう、抵抗を続けながらも、エリンシェは【敵】に既視感を覚えていた。確か……あの日見た旧魔法王国の夢の中に、この【敵】がいたはずだ。姫に【翳り】を植え付け、教会へと誘った【男】――その【男】と背後の【敵】が似ているのだ。
一瞬でも気を抜けば、姫の二の舞いに――【聖力狩り】であるレスカの元へ拉致され、〝力〟を奪われてしまう!
「私……私は、自分でこの〝力〟と向き合っていくと――大切なひとたちの暮らすテレスファイラを守護していこうと決めたの。 だから……私が背負っているこの『運命』もちゃんと受けいれる。 ――自分自身でこの『運命』を切り拓いていく!」
エリンシェは強い意志でそう言い返すと、背後の【敵】から離れようとした。
……が、【敵】は決してそれを許そうとしなかった。
【さすが人間でありながら、〝守護者〟を務めるだけのことはある。 なかなか堕ちてはくれないようだ。 ……けれど、此方にも「矜持」というモノがある】
そう言うと、【敵】は背後から姿を消した。
思わず振り返り、エリンシェはすぐに【敵】を探す。けれど、どこにも見つからない。まるで……「影」の中にでも隠れたかのようだ。
視線を戻し、前を向くと、そこには【敵】が本当に「影」のように揺らめく姿で、そこに佇んでいた。
すぐ眼前に迫る【敵】の狙いに気付き、エリンシェは後ずさりしようとする。
――が、それよりも早く、【敵】が【影】のような手でエリンシェを貫いていた。
だめだ、逃げられない……!! そうだと理解すると、エリンシェはすぐさま「心」を守った。
一瞬でも遅れていたら、それこそ手遅れだっただろう。最後まで【敵】に入り込める隙を与えなかった代償に、エリンシェは「自由」を奪われてしまった。
意識が……遠のいていく。身体が……動かせ……ない。エリンシェはそのまま、地面へと倒れ込んで行く。
その身体を、【敵】が受け止め、軽々と抱き上げた。そして、そのまま口元を歪めると、エリンシェを連れたまま、姿を消したのだった。




