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Angelic Storia  作者: 紡生 奏音
Wing Ⅱ Episode 2
111/151

Episode 2 Prologue ଓ 「廻」 〜〝reincarnation〟〜


    ଓ


 ――「輪」は(めぐ)る。

 いつかまた巡り逢えるようにと強い「想い」を託され、長い永い時を廻る。

 そして、その「輪」の中できっと「想い」を遂げる「もの」があらわれるだろうと、いくつもの「絆」が結ばれて来た。

 その発端はかつて永い生命を生きた一人の女性だった。


    ଓ


〝あなた、ずいぶんと強い「想い」を(いだ)いているのね〟

 その「門」をくぐろうとした時、とある神から声を掛けられ、ふと「彼女」は振り返った。

〝ねぇ。 そのままでいればどうなるか……分かってる?〟

(……いいの。 私はそれでも「あのひと」ともう一度巡り逢いたい。 たとえ「それ」が「私」でなくなっていたとしても、この魂ごと幸福(しあわせ)()れば、私はいいの)

 迷いなく、神に向かって「彼女」は告げる。

(私……「あのひと」のことをずっと愛してるから)

 ――それが永い間生きた「彼女」の答えだった。

〝……そうね。 あなたはずっと「彼」が大切にしていた「世界」をまもってきたんだものね。 「彼」にもう一度逢いたいと思うのも無理はないわ。 そのために「この道」を選んだんだものね〟

 苦笑いを浮かべながら話した神の言葉に、「彼女」はすぐにうなずく。

〝だけどね、必ず「彼」に逢えるということはないのよ? さっきあなたも話していた通り、あなたが「あなた」でなくなるのと同じように、「彼」も「彼」でなくなる。 もし逢えたとしても、「彼」は「あなた」のことがわからない。 ――必ずしもふたりで幸福になれるとは限らない。 ましてや「彼」の方は私がずいぶんと以前(まえ)におくっているから、「ズレ」が生じている。 ――あなたの「想い」を遂げるには相当の時間が必要になる。 ……それでも、あなたはその「想い」を抱えていく(・・)の?〟

 念を押すように、神が苦笑いを消し、険しい表情で「彼女」に尋ねる。

 ――わかっている。そんなことは重々承知している。「痛い」くらいに理解している。けれど、もう「彼」のいない世界を生きていくのはあまりに辛かった。

 「彼女」は胸の内に募る「想い」に苦渋の表情を浮かべる。今も気持ちが揺れていないといえば嘘になる。「彼」が大切にしていたあの「世界」のことを今でも深く愛している。それはずっと変わりない。だが、それと同じくらい、「彼女」は「彼」のことを愛しているのだ。

(私……ずっと「世界」をまもってきた。 「あのひと」が愛した「世界」を私も愛してきた。 だからずっと、私はあの「世界」が幸福なように導いてきた。 そしてようやく、私がいなくなっても大丈夫なくらい、あの「世界」は安定してきた。 だけど私……幸福になったあの「世界」を「あのひと」と一緒に見ていきたいってずっとどこかで願っていたの。 だから、私、「あのひと」をもう一度探しにいきたい。 どれだけ時間が掛かってもいい。 ――私は「あのひと」とあの「世界」でもう一度生きていきたいの!)

 無意識のうちに「彼女」は涙を流していた。――その「気持ち」だけは誰に何と言われようと揺らがなかった。

 真剣な眼差しで語り掛ける「彼女」の姿に、神はため息を吐き、肩をすくめる。

〝……分かった。 あなたがそこまで言うのなら、私はもう止めない。 だけどね、本当に途方もない時間が必要になると思うわよ? ……それこそ、私が「代替わり」した後も恐らく続いていくくらいには〟

 神から「代替わり」という言葉が出たことに、思わず「彼女」ははっと息を呑み、顔を上げる。

 見た限りでは「代替わり」するとは思えないほど、その神は堂々とした立ち振舞いをしていた。

 まじまじと「彼女」が見つめたせいか、神が〝あら〟と心外そうな顔をする。

〝私だって、ずっとはこの「役目」を全うできるわけではないわよ。 この「役目」は……あなたが思っているよりも繊細(・・)なの。 だから、私にだってきっと折れてしまう瞬間がいつか必ず来てしまうわ。 とはいっても、まだまだ「隠れ(・・)」る気はないけれどね〟

 その神が司る「もの」はそれほどまでに奥深く、滅多にない事例(こと)ではあるが、どうやら「代替わり」は避けられないらしかった。……いや、そもそも「彼女」とその神とでは「事情(・・)」が違っているのだ。無理もないのかもしれない。

〝とにかく、「あなた」のことは私がいなくなったとしても、後世に引き継いでおく。 きっとあまりにも強い「絆」がうまれてしまうもの。 深くは干渉できないけれど、見守っていく必要がありそうだわ〟

(……ありがとう)

〝だから、ほら、早くいきなさいな。 「後」のことは何とかするから〟

 億劫そうにつぶやきながらも、神が「門」を指し示す。……なんだかんだ言ってはいるが、「彼女」にとことん付き合う(・・・・)つもりのようだ。

(うん、ありがとう)

 もう一度礼を口にして、「彼女」はその「門」――転生の「門」をくぐったのだった。


    ଓ


 「彼女」が転生してからは本当に長い「道のり」だった。

 初めは「彼女」が逢いたいと願った「(ひと)」にもう一度同じ時間(とき)に交わることすらできなかった。

 何度も何度も転生を繰り返すことで「ズレ」がなくなり、ようやく「彼女」はその「魂」と巡り逢うことができるようになった。

 やっと「想い」が通じたのかもしれない。「彼女」がそう安堵したのもつかの間、逢えることはできても、「想い」が遂げられる(もの)があらわれず、ただ時だけが過ぎていくということが起こり始めた。

 ――そうしているうちに、「想い」はどんどん強くなっていった。

 多くの魂に「想い」を託し、〝絆〟を結んだのは間違いだったかもしれない。そんな考えが「彼女」の頭によぎり始めた時……――。

 ――ある一人の「(もの)」が魔法王国に誕生したのだった。


    ଓ


 ……だが、「彼女」の「想い」を一番遂げられそうだった(・・・)その「(もの)」も悲しい「運命」に翻弄され、「彼女」と同じく次の「(もの)」へと「想い」を託す結果(こと)になってしまった。


 今度こそは……――。


 ――そんな「想い」が託され、〝絆〟が結ばれた「魂」は「輪」を廻り、新たなる「生命」として生まれ落ちている。

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