Episode 2 Prologue ଓ 「廻」 〜〝reincarnation〟〜
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――「輪」は廻る。
いつかまた巡り逢えるようにと強い「想い」を託され、長い永い時を廻る。
そして、その「輪」の中できっと「想い」を遂げる「もの」があらわれるだろうと、いくつもの「絆」が結ばれて来た。
その発端はかつて永い生命を生きた一人の女性だった。
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〝あなた、ずいぶんと強い「想い」を抱いているのね〟
その「門」をくぐろうとした時、とある神から声を掛けられ、ふと「彼女」は振り返った。
〝ねぇ。 そのままでいればどうなるか……分かってる?〟
(……いいの。 私はそれでも「あのひと」ともう一度巡り逢いたい。 たとえ「それ」が「私」でなくなっていたとしても、この魂ごと幸福で在れば、私はいいの)
迷いなく、神に向かって「彼女」は告げる。
(私……「あのひと」のことをずっと愛してるから)
――それが永い間生きた「彼女」の答えだった。
〝……そうね。 あなたはずっと「彼」が大切にしていた「世界」をまもってきたんだものね。 「彼」にもう一度逢いたいと思うのも無理はないわ。 そのために「この道」を選んだんだものね〟
苦笑いを浮かべながら話した神の言葉に、「彼女」はすぐにうなずく。
〝だけどね、必ず「彼」に逢えるということはないのよ? さっきあなたも話していた通り、あなたが「あなた」でなくなるのと同じように、「彼」も「彼」でなくなる。 もし逢えたとしても、「彼」は「あなた」のことがわからない。 ――必ずしもふたりで幸福になれるとは限らない。 ましてや「彼」の方は私がずいぶんと以前におくっているから、「ズレ」が生じている。 ――あなたの「想い」を遂げるには相当の時間が必要になる。 ……それでも、あなたはその「想い」を抱えていくの?〟
念を押すように、神が苦笑いを消し、険しい表情で「彼女」に尋ねる。
――わかっている。そんなことは重々承知している。「痛い」くらいに理解している。けれど、もう「彼」のいない世界を生きていくのはあまりに辛かった。
「彼女」は胸の内に募る「想い」に苦渋の表情を浮かべる。今も気持ちが揺れていないといえば嘘になる。「彼」が大切にしていたあの「世界」のことを今でも深く愛している。それはずっと変わりない。だが、それと同じくらい、「彼女」は「彼」のことを愛しているのだ。
(私……ずっと「世界」をまもってきた。 「あのひと」が愛した「世界」を私も愛してきた。 だからずっと、私はあの「世界」が幸福なように導いてきた。 そしてようやく、私がいなくなっても大丈夫なくらい、あの「世界」は安定してきた。 だけど私……幸福になったあの「世界」を「あのひと」と一緒に見ていきたいってずっとどこかで願っていたの。 だから、私、「あのひと」をもう一度探しにいきたい。 どれだけ時間が掛かってもいい。 ――私は「あのひと」とあの「世界」でもう一度生きていきたいの!)
無意識のうちに「彼女」は涙を流していた。――その「気持ち」だけは誰に何と言われようと揺らがなかった。
真剣な眼差しで語り掛ける「彼女」の姿に、神はため息を吐き、肩をすくめる。
〝……分かった。 あなたがそこまで言うのなら、私はもう止めない。 だけどね、本当に途方もない時間が必要になると思うわよ? ……それこそ、私が「代替わり」した後も恐らく続いていくくらいには〟
神から「代替わり」という言葉が出たことに、思わず「彼女」ははっと息を呑み、顔を上げる。
見た限りでは「代替わり」するとは思えないほど、その神は堂々とした立ち振舞いをしていた。
まじまじと「彼女」が見つめたせいか、神が〝あら〟と心外そうな顔をする。
〝私だって、ずっとはこの「役目」を全うできるわけではないわよ。 この「役目」は……あなたが思っているよりも繊細なの。 だから、私にだってきっと折れてしまう瞬間がいつか必ず来てしまうわ。 とはいっても、まだまだ「隠れ」る気はないけれどね〟
その神が司る「もの」はそれほどまでに奥深く、滅多にない事例ではあるが、どうやら「代替わり」は避けられないらしかった。……いや、そもそも「彼女」とその神とでは「事情」が違っているのだ。無理もないのかもしれない。
〝とにかく、「あなた」のことは私がいなくなったとしても、後世に引き継いでおく。 きっとあまりにも強い「絆」がうまれてしまうもの。 深くは干渉できないけれど、見守っていく必要がありそうだわ〟
(……ありがとう)
〝だから、ほら、早くいきなさいな。 「後」のことは何とかするから〟
億劫そうにつぶやきながらも、神が「門」を指し示す。……なんだかんだ言ってはいるが、「彼女」にとことん付き合うつもりのようだ。
(うん、ありがとう)
もう一度礼を口にして、「彼女」はその「門」――転生の「門」をくぐったのだった。
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「彼女」が転生してからは本当に長い「道のり」だった。
初めは「彼女」が逢いたいと願った「魂」にもう一度同じ時間に交わることすらできなかった。
何度も何度も転生を繰り返すことで「ズレ」がなくなり、ようやく「彼女」はその「魂」と巡り逢うことができるようになった。
やっと「想い」が通じたのかもしれない。「彼女」がそう安堵したのもつかの間、逢えることはできても、「想い」が遂げられる魂があらわれず、ただ時だけが過ぎていくということが起こり始めた。
――そうしているうちに、「想い」はどんどん強くなっていった。
多くの魂に「想い」を託し、〝絆〟を結んだのは間違いだったかもしれない。そんな考えが「彼女」の頭によぎり始めた時……――。
――ある一人の「魂」が魔法王国に誕生したのだった。
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……だが、「彼女」の「想い」を一番遂げられそうだったその「魂」も悲しい「運命」に翻弄され、「彼女」と同じく次の「魂」へと「想い」を託す結果になってしまった。
今度こそは……――。
――そんな「想い」が託され、〝絆〟が結ばれた「魂」は「輪」を廻り、新たなる「生命」として生まれ落ちている。




