Episode 1 Epilogue ଓ 「繋がり」 〜〝connection〟〜
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(う……)
何もない真っ白な空間で、彼女は意識を取り戻す。
覚えのない場所で、横たわっている状況に、彼女は首をひねる。
(私……消えたんじゃ……)
けれど、まだ此処に居る。その理由を考えていると、ふと彼女の目の前に、ふたりの「人影」があらわれた。
〝メレナ、気が付いたのですね〟
白いドレスを身に付けた、金色にも輝いて見える薄黄の髪の美しい「姫」が問い掛ける。
なぜ、名前を知っているのだろう。彼女――メレナは答えず、ただ優しく微笑む「姫」を見つめることしかできなかった。
ますます「姫」が口元を緩めながら、メレナに言葉を掛ける。
〝メレナ、此処は「あの娘」が無意識にあなたを守るために作り出した空間なのです。 そして、私は少しでも〝彼女〟の手伝いができるよう、時が来るまであなたを此処で守ろうと決めていたのです〟
「姫」のその言葉を聞いた瞬間、メレナは涙を流す。……あぁ、やっぱり〝彼女〟は〝光〟だった。無意識でもこうして私を救おうとしてくれる。そう思うだけで、嬉しかった。
(ですから、メレナ、決してまだ諦めてはいけませんよ。 ――来たる時まで「心」を強く持ち、「あの娘」に助けになれるよう、努めなければなりませんよ。 もちろん、私も微力ながらお手伝いしますよ)
どこか力強い声音で語り掛け「姫」に、メレナは何度もうなずいてみせた。
ふと「姫」を見つめながら、メレナは「とあること」に気付く。そういえば……どことなく「姫」の面影が〝彼女〟に似ている。
(あの……どうして私を助けてくれるんですか?)
〝彼女〟と「姫」がどういう関係なのか尋ねようとしたが、なぜか「姫」が答えてくれない気がして、思わずメレナは別のことを聞いてしまっていた。
〝そうね……私もあなたのように「運命」に翻弄されてしまったことがあるから、というところかな。 それに、少しでも、わたしたちの「想い」を繋いでくれている「あの娘」の力になりたいから〟
「姫」が先程までとは違った口調でそう答えた。きっとこちらが「姫」の本音なのだろう。
(あなたは……)
そんなメレナのつぶやきに、「姫」が口元を緩める。いつの間にか、その後ろにもう一人、彼女を守る「護衛」の男性があらわれていた。
〝私はエルフィナ・ファイラ。 本来なら転生してるはずなんだけど、「あの方」に少し無理を言って、こうして精神体の部分だけ魂を分けてもらったの。 そして、私は「繋がり」のある「あの娘」を助けるために「この時」を待っていたの〟
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しばらくその場から動けなかったエリンシェだったが、ジェイトのおかげで気持ちが落ち着き、ようやく立ち上がった。
「ねぇ、アリィ。 もう、メレナを救うことはできない?」
エリンシェは声を何とか絞り出し、アリィーシュにそう問い掛けた。
「分からない。 ただ……もしレスカを封印したとしても、ゼルグの時のように魂だけが分離するという可能性が高いと思うわ」
アリィーシュが予想していたものとほとんど変わらない答えを口にするのを聞いて、エリンシェは思わず目を閉じ、苦渋の表情を浮かべる。
魂だけが分離するということは身体が消滅するということになる。――それはメレナが死ぬということを意味し、エリンシェにとっては彼女を救えないということと変わりないのだ。
……封印、できるだろうか。死だと考えると躊躇わずにはいられなかった。大切な存在であるメレナを救えないまま、レスカを封印することができるだろうか。不安になる理由はそれだけではない。レスカは【聖力狩り】であるだけに、他の【邪神】と違ってその【力】が計り知れなかった。
――つまり、今のところ勝算が見えていないのだ。おまけに、【敵】はこちらの「心」を確実に狙って来ている。不安や躊躇いを抱くのは【敵】の思うつぼなのだ。
「でも、何か方法がないか調べてみる」
エリンシェの心が揺らいでいるのを感じ取ったのだろうか、アリィーシュがすかさず助け舟を出す。
彼女に「お願い」とうなずきながらも、エリンシェは自分自身も強くならなければならないと思っていた。そうすることで何か「道筋」が見えてくるかもしれない。
あとは……――。エリンシェはちらりとジェイトを見る。すぐに気付いた〝彼〟が優しく微笑んだ。
……いや、だが、今のところはやはり強くなるしか他に方法はなさそうだ。エリンシェは小さく首を振って考え直した。
それにしても、レスカは一旦この場を離れたが、何か企んでいる様子に見えた。しばらくは警戒が必要だろう。――とにかく、今はどんな状況だろうと「前」に進むしかないようだ。
ある程度「整理」がつき、エリンシェは目を閉じ、深呼吸をした。
――とにかく、「前」へ。
覚悟を決め、エリンシェはその場から立ち上がるのだった。




