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Angelic Storia  作者: 紡生 奏音
Wing Ⅱ Episode 1
106/151

Feather 6 ଓ 【咆哮】 〜【roar】〜


    ଓ


 ……見られた。――〝彼女〟に見られてしまった。

 その衝撃に、彼女(・・)は部屋に閉じこもり、涙する。

 だが、それだけではない。あの時、左手――【証】を見られたくないと思った瞬間、身体(カラダ)がまるで自分のものでない(・・・・・・・・)ようは動きをしたことにも彼女(・・)は驚きを隠せないでいた。

 〝特別〟な存在であるはずの〝彼女〟の動きを避けるだなんて……。そんなこと、弱い存在である自分にはできるはずもないなのに。

 ――考えるだけで、身体が震える。

メレナ(・・・)。 そろそろ諦めたらどうだ? お前も理解して(わかって)いるのだろう? ――お前が女として「あの家(・・・)」に生まれた時点で、お前は全て私のモノ(・・)だ】

 ――「それ(・・)」がいけなかった。ついには【カノジョ】の【声】すら、聞こえてしまった。

(――やめて!! 私は「私」なの! もうアナタの好きにはさせない!!)

 彼女(・・)――メレナはそれでも必死に抵抗する。

 その様子を嘲笑(あざわら)い、【カノジョ】がメレナを(さげす)む。

【ふん、ほざけ。 一度、私にその身を明け渡したというのに。 その結果、どうなった? ――かつて世界(テレスファイラ)の脅威となった存在(邪神)を解き放つことになったのだぞ? 考えてみろ、それをあの娘(・・・)が知ったらどうなる? きっと、お前に失望するだろうなぁ?】

 メレナは思わず、耳をふさぐ。……そんなこと、あるはずもないのに。一気に不安が押し寄せ、メレナは息が詰まりそうになる。

【そうなれば、きっとあの娘(・・・)はお前を助けてくれないだろうなぁ? ようやく「希望」が持てたというのに……残念だ】

 ふと、メレナの目の前に【影】が降り立つ。

 ――【カノジョ】だ。

 抵抗しようとした時にはもう遅かった。【影】がメレナに向かって手を伸ばしていた。

 【証】が【カノジョ】に呼応するように妖しく輝く。

 ……〝彼女〟が見捨てるだなんて。そんなこと決してあるはずもなかった。なのに、一瞬――ほんの一瞬だけ、不安に思ってしまった。そこに、【カノジョ】がつけ込んだのだ。

 【()】に呑まれていくのを感じながら、メレナはふと悟った。……あぁ、自分にはもう、時間が残されて(・・・・・・・)いない(・・・)のだ。

 ……けれど、もう少し――あと少し。まだ戦わなければ(・・・・・・)ならない。

(助けて……)

 気が付けば、〝彼女〟を思い浮かべ、助けを求めていた。……ほんの一瞬、不安に思ってしまったというのに。けれどそれ以上に〝彼女〟を強く求めていた。

 ……そのせいだろうか。「誰か」がメレナの助けに応えたような気がした。

 確かめるよりも先に視界が暗くなり――呑まれるようにして、メレナは意識を手放してしまうのだった。


    █


 かつての戦いの地にも【咆哮(・・)】が響き渡る。

 封印より解き放たれた【邪神】ゼルグは身を潜め、「時」を待っていた。

 ――が、突如としてきこえた【咆哮(・・)】に、ゼルグは顔上げる。

「待たせたな」

 ゼルグの目の前に、悪びれもない様子で【オンナ】が降り立つ。

【あぁ、ずいぶんと待ったぞ】

「そう言うな。 私の宿主(カラダ)がなかなか言うことを聞かないものでな。 まだ教育する(わからせる)のにもう少し時間が掛かりそうだ」

 ゼルグが抗議しても、【オンナ】はやはり堂々としていた。宿主(・・)に対して文句を口にしても、余裕綽々(しゃくしゃく)に振る舞っていた。

「――さて。 私が本格的に動けるのはまだ先のようだが……。 その間に、今この世界の〝守護者〟となっている娘とかつて対峙したお前(・・)に頼みたいことがある」

 そして、有無を言わせず、ゼルグに向かって「命令(・・)」した。

 もちろん、ゼルグには断る権限など一切ない。沈黙を続けていると、【オンナ】は不敵に笑い、再び口を開いた。

「まずは情報だ。 〝彼女〟に関する情報を何か教えてくれ」

 お手上げと言わんばかりに、ゼルグは両手を上げてみせた。すぐに【オンナ】の鋭い目が光り、少々不服ではあったが、ゼルグは【カノジョ】の要求に従うことにした。

【ひとまず警戒することが二つある。 一つ目はボクを見張っていた元守護神(おもり)が〝彼女〟のことを側で守っている。 きっと今頃、何か情報を入れて〝彼女〟のところへ帰っているだろう。 そして、二つ目。 元守護神(おもり)よりもずっと近いところで、人間(ヒト)のくせに「()」を持っているヤツが〝彼女〟についている】

ただの(・・・)人間(ヒト)がか?」

 目を見開き、驚いている【オンナ】に、ゼルグはうなずいてみせ、話を続ける。

【あぁ、ヤツがいたせいで、ボクは負けたと言ってもいいくらいだ。 ――ヤツの存在が〝彼女〟をより強くさせている。 ヤツは〝彼女〟の恋人でもあるんだ】

 ゼルグの話を聞いて、【オンナ】は考え込む。

「では、その情報を踏まえて二つ目だ。 ――〝彼女〟とその人間(ヒト)を生け捕りにして来い。 もちろん、タダとは言わん」

 しばらくすると顔を上げ、再びゼルグに「命令(・・)」を下すと左手を高く掲げ、【(ジュ)】を唱えた。

「……【解邪(アンタイ)】」

 すると、左手――そこに刻まれた【】が妖しい【瘴気】を放ち、【オンナ】の【力】を増幅させた。

「取れ」

 不意に、【オンナ】がゼルグに手を伸ばし、短く指示する。

 言われるがまま、ゼルグはその手を掴んだ。

【……!!】

 その瞬間、(あふ)れんはがりの【力】が激流のごとく、ゼルグに注がれた。

 強い【力】がゼルグに満ち、そして、まだ有り余る【力】がゼルグに実体(カラダ)を与えた。

 それも【オンナ】の【力】が成せる【(ワザ)】なのだろうか。なんにせよ、話には聞いたことはあったが、その日初めて邂逅した(であった)存在(オンナ)】にゼルグは驚きを隠せずにいた。

 ……これが【聖力狩り】か。

「【(タイ)】」

 再び【(ジュ)】を唱え、【オンナ】が目を開く。降ろした左手に愛おしそうに口付けた後、ゼルグに振り返った。

実体化(ソレ)が報酬だ。――必ず、生け捕りにしてこい」

 失敗は許されないと言わんばかりに下された「命令(・・)」に返事をせず、実体を手にしたゼルグはただ口を歪ませ微笑う(わらう)と、すぐに姿を消した。

「……あわよくば裏切るつもりだな。 やはり邪神(ザコ)共なぞ、信用するに足らん」

 身を(ひるがえ)しながら、【オンナ】は独りごちる。「外」へと向かいながら、「――デュロウ(・・・・)」と名前を呼んだ。

「――はい、レスカ様」

 すぐに、【オンナ】の側に、一人の()が現れる。

 振り向きながら、レスカと呼ばれた【オンナ】は(オトコ)に指示を出した。

「デュロウ、どうせヤツは噛ませ犬(・・・・)だ。 成果など何も上げられないだろうが、せっかくだ、ヤツが教えてくれたこの場所くらいは有効活用してやろうじゃないか。 ――待っている間、〝彼女〟を出迎える『準備』を存分にしようじゃないか!」

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