Feather 5 ଓ 不明瞭 〜obscure〜
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――そして、アリィーシュは大神・ディオルトのいる処を訪れていた。
〝よく来たな、アリィーシュ〟
いつも突然の訪問なのに、ディオルトは動じない様子で出迎えをする。……おそらく、今回も来ることを分かっていたのだろう。
〝すみません。 来るのが遅くなって〟
〝無理もない。 封印から離れてから少し経つが、情報は多いに越したことはないからな〟
そう言って謝罪の言葉を口にしても、ディオルトは平然とそう返した。……やはり、立てた「仮説」が正しいのか、尋ねるべきは彼なのだろう。
〝……大神様。 私、新たな【敵】の姿を目にしました。 【カノジョ】はあの娘が封じた【敵】ゼルグをやすやすと解き放つと、どこかへ姿を隠しました。 ディオルト様、今回新たにあらわれた【敵】……――【聖力狩り】ではありませんか?〟
〝――左様〟
思い切って質問を投げかけると、ディオルトは存外すぐにうなずいてみせた。
……やはりか。【敵】は【聖力狩り】であるということは理解し切っていたことではあるが、アリィーシュはそのまま話を続ける。
〝話には聞いたことはありましたが、まさか実際に目にして、【敵】として現れるなんて……。 あまりに分からないことが多くて、思いの外情報を集めるのに時間がかかってしまいました。 ……それで、大神様。 色々調べているうちに分かったことなのですが、旧魔法王国の襲撃……。 ――あれはもしや、【聖力狩り】の仕業ではないですか?〟
〝まぁ……おおむねは〟
しかし、立てた「仮説」が正しいのか確かめたくて尋ねてみると、ディオルトの反応は思いの外曖昧だった。
〝――というのも、いくつか分からないことがあってな。 だが、あの襲撃は【聖力狩り】によるもの――ではあるが、その協力者に、【黒きモノ達】という人間の悪の組織がいたようだ。 ……想像がつくだろうが、旧魔法王国の守護神は【狩】られてしまっていてね。 ――そのため、当時を知る者がほとんどいないのだ〟
……なるほど。確かに、以前にテレスファイラの守護神だった神とは逢ったことがない。当時は「消息不明」と知らされていたが、実際は【聖力狩り】に〝力〟を奪われてしまっていたというわけだ。
〝アリィーシュ、君が来るまでにテレスファイラには「空白」の期間があってな。 【聖力狩り】に襲撃され、【黒きモノ達】により旧魔法王国が支配されている間からしばらくは私すら手出しができなくてな。 ……「力」のある者――旧魔法王国の姫の強い「力」が奪われてしまったせいで、その余波のような「モノ」がしばらくの間何人も寄せ付けないよう、大きく影響を与えていたのかもしれない。 旧魔法王国の最後の王子――初代大賢者が今の制度を創り上げ、テレスファイラが少し安定するまで、本当に守護神を送ることすらかなわなかったのだ。 おまけに、ふさわしい者を探すのにも時間が掛かってしまった〟
思えば、テレスファイラは「守護」のない期間が長らく続いたことになる。……なにせ、アリィーシュ自身も封印の身となり、充分な守護ができなかったのだから。
〝……あの娘がいてくれて良かった〟
〝本当にな。 きっとエリンシェ殿ならテレスファイラを幸福に導いてくれるだろう〟
――そうであってほしいと願いたい。そのためにも、アリィーシュはできることをし、〝彼女〟の力になることを心に固く誓った。
それにしても、「空白」の期間があるほどだ、本当に、当時のことを知る者は存在しないことになる。
〝……やっぱり、リムゼールには逢えないでしょうか〟
となると、やはり詳しいことを知っているのは当事者になる。あるいは、その魂――姫と逢ったことがあるかもしれない転生を司る神・リムゼールと話ができれば、何か分かるかもしれない。
〝難しいだろう。 冥界にはいけても、リムゼールの居る転生の「場」には近付くことができない上に、彼女もまた「場」を離れることはできないからな〟
〝では、チェルディクスは?〟
ディオルトからの予想通りの答えを聞き、アリィーシュはすぐさま別の「伝手」を頼ろうとした。
チェルディクス――それは冥界を統治する神の名前だった。
リムゼールに比べると望みは薄くなるが、少なくとも、ほとんど冥界に近付くことすらしない神と比べれば、チェルディクスは冥界のことを識っている分、何か知っていてもおかしくはなかった。それに、ひょっとすると、彼女から何か聞いているかもしれない。
〝逢えなくはないが……。 今、彼は少し「所用」でな。 逢えるのはしばらく先になるだろう〟
そんな一縷の望みを賭けてそう尋ねてみたものの、予想に反して、ディオルトの答えは歯切れが悪かった。
……まさか、チェルディクスは冥界を離れているのだろうか? ふと、アリィーシュはディオルトの反応に、そんな可能性を思いつく。
リムゼールと違い、チェルディクスが冥界を離れることはあるだろうが、そう滅多にあることでもないだろう。なのに、なぜ……。
(……なんだろう。 私が思っているより、今度の「戦い」は一筋縄ではいかないものなんだろうか)
何か分かるかもしれないと考えて、〝彼女〟の元へ帰ることより先に天界に赴いたのに。肝心なことは何一つ分かっていないような気がする。
そのことを不服に思っていると、ふと、例の「可能性」がまたアリィーシュの頭をよぎる。
この世界に在るもう一つの「希望」――その「存在」に、自分は気付いたが……。〝彼女〟もその「存在」に気付いているだろうか?
そんなことを考えていると、ふとディオルトと目が合う。その「可能性」を切り札にするためにも、彼から情報を聞いておくべきだろう。
……また納得する答えが得られないかもしれない。けれど、「次」の「戦い」に備えるためにも、そして〝彼女〟のためにも……――。
アリィーシュは意を決して、口を開く。そして、「糸口」を掴むために、ディオルトに「とある質問」を投げ掛けるのだった。




