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Angelic Storia  作者: 紡生 奏音
Wing Ⅱ Episode 1
104/151

Feather 4 ଓ 「仮説」 〜hypothesis〜


   ଓ


 ――その【邪神】の(ハナシ)を、一度だけ耳にしたことがあった。

 数多くいる【邪神】は生まれ持った【力】であらゆる「もの」を【支配】しようと企むが、その【邪神】だけは違っているのだと。

 ――その【邪神】には生まれつき【力】が無い(・・)のだ。

 【邪神】の中でも異質な【存在】であり、【邪神】からさえも忌み嫌われていた。かつては集落ができるほどの数が存在していたそうだが、そのほとんどが滅亡してしまい、現在(いま)ではたった一人しか生き残っていないという。

 けれど、ただ数が少ないというだけで忌み嫌われているわけではなかった。その本当の理由はどうやってその【存在】が生まれてくるのかが分かっていないからだった。「血」の繋がりでも何でもなく、生まれてくる特異な【存在】――何時(いつ)何処(どこ)で生まれて来るかが分からないことに、【邪神】はある種の恐怖を(いだ)いていたのだ。

 おまけに、その【存在】が【力】を手にする方法も異質だったことも、忌み嫌われている理由の一つのようだった。

 神々から〝力〟を奪い取り、自分の【(モノ)】にする――それが、その【存在】が強くなる唯一の方法だった。

 〝力〟が強ければ強いほど、【存在(ソレ)】は強大な【力】を手にする。まるで、「狩り」のように神々を捉える(さま)から、その【存在】は【聖力狩り】と呼ばれていた。

 自分達が狩られる(・・・・)ことをよく思っていないこともあり、かつては多くいた【聖力狩り】に神々は対抗したのだろう。そういう理由(こと)もあって、今や【聖力狩り】はたった一人しか存在していないのだろう。


    ଓ


(でも、まさかそのたった一人(・・・・・)が【敵】になるとはね)

 アリィーシュは収集した情報を整理しながら、そう思った。

 そう、アリィーシュの前に現れ、かつての【敵】であるゼルグを解き放ったあの【オンナ】――アレ(・・)こそが【聖力狩り】唯一の生き残りなのだ。

 ……けれど、まだ分からないことがある。

(だけど、今の今まで【聖力狩り】が動いたという話を聞いたことはなかった)

 なのになぜ、今動き出したのか。けれど、分かることがあるとするなら……――。

(――狙いはエリンシェ、それは間違いない)

 そうだという確信はあった。が、やはり分からない。なぜ【カノジョ】はエリンシェにたどり着くことが(・・・・・・・)できたのか(・・・・・)――が。

 どうしてもその理由が分からず、アリィーシュは別の角度から【聖力狩り】について調べることにした。

 【聖力狩り】が最後に動いたのはいつだったのか。もちろんはっきりとしたことは分からないが、アリィーシュは「とある可能性」を見出(みいだ)した。

(――旧王国の襲撃事件。 あれがもし、〝神格化〟をしたかもしれないほどの〝力〟を持っていた姫を【聖力狩り】が襲撃していたのだとしたら……?)

 そうすれば、色々とつじつまが合う。あまり語られないのは【聖力狩り】が関わっているかもしれないから――かもしれない。【邪神】でさえ忌み嫌うほどの【存在】なのだ、神々も【聖力狩り】のことを疎ましく思っていてもおかしくはない。おまけに、その【存在】の行方が襲撃以降不明になったのではないだろうか。

 そして、恐らく、襲撃は【聖力狩り】単独で起こしたものではないのだ。もう一つ……別の【存在】がいて、旧王国の姫が襲われ、現在(いま)の形になる前、いわゆる「暗黒時代」と呼ばれる期間もあった。

(――おそらく……その(かん)、王国を支配していた(モノ)がどうにかして【聖力狩り】の存在を行方知れずにして、隠し通した。 そして、今、どうにかしてエリンシェの存在を知り、再び姿を現した)

 その(モノ)を含む【集団】が掲げていた象徴(シンボル)こそが【カノジョ】の左手に刻まれていた「」なのだ。

 【漆黒の片翼】を背景に、燃え盛る紫の炎の「」――それがどの【集団】を意味しているのかがどうしても思い出せなかったのは、記憶と違っていたからだった。

 その【名】を耳にしたのは〝神格化〟について調べていた時。――世界学の賢者を務めており、テレスファイラに明るいガイセルが、その【存在(集団)】について話していたのを、アリィーシュは思い出したのだ。


「――旧王国の姫。 きみの話じゃ、天界では襲撃についてあまり語られていないようだけど、世界学(こっち)では少しだけ、仮説みたいなものがある。 ――旧王国時代、襲撃の後、王族に変わって王国を支配していた【モノ達(やつら)】がいる。 それが【黒きモノ達】と呼ばれる悪の組織だ。 一説ではその【黒きモノ達】が襲撃に関わっていたんじゃないかって言われてる」

 そして、ガイセルがその一説に示した書物に、【黒きモノ達】の掲げる「象徴(シンボル)」が載っていたのだ。

 ――その「象徴(シンボル)」こそが【漆黒の翼(・・・)】だった。

 

(でも、【黒きモノ達】の「象徴(シンボル)」は【漆黒の翼(・・・)】……。 【聖力狩り(カノジョ)】の手にあったのは【漆黒の片翼(・・・・・)】を背景に、燃え盛る紫の炎の「」。 少し違っていたから、気付けなかった)

 けれど、記憶をたどれば、二つの【翼】が確かに一致していたものだと理解できる(わかる)。おそらく、【黒きモノ達】と【聖力狩り(カノジョ)】の間に何らかの繋がりができたことにより、「」も変化したのだろう。

(……そして、【黒きモノ達】が現在(いま)に至るまでどうにかして【聖力狩り(カノジョ)】を隠し通して来た)

 ――それがアリィーシュの立てた仮説だった。

 けれど、やはり理解できない(分からない)ことはたくさんある。

 なぜ、【聖力狩り(カノジョ)】はエリンシェの存在を知ったのか? 味方がほしいと話していたが、ゼルグを解放したその真意は? 【黒きモノ達】の存在がいたことにより、【聖力狩り(カノジョ)】にとって有利になることが「何か」あるのではないか? ……色々と調べて来たが、分からないことがあり過ぎる。

(単に〝力〟が強い存在(・・)を待っていた……ってことはないわよね? 仮にそうだとしても、理由が弱過ぎる(・・・・)。 もし、あの娘(エリンシェ)と旧王国の姫に共通点があるとするなら……――)

 〝神格化〟……。――二人とも、人間(ヒト)でありながら、〝神格化〟できるほどの〝力〟を持っている。

(まぁ……姫の〝力〟を奪ったのだとしたら、【聖力狩り(カノジョ)】にとっては恰好(かっこう)の「御馳走(エモノ)」よね。 もし、同じくらいの〝力〟を持ってる存在(もの)が現れたら、狙うのも無理はない……?)

 そう考えれば、矛盾はないが……。――けれど、「何か」引っ掛かる。単に同じくらいの〝力〟を持っているというだけで事を片付けていいものだろうか……?

 不意に、考え事をしていたアリィーシュの頭にとある〝神〟が思い浮かぶ。

(リムゼール……)

 リムゼール――それは「転生(・・)」を司る神。けれど、彼女にはそう簡単に逢うことはできない。なのに、彼女に逢うことができたなら……と思ってしまうのは何故だろう。

(そういえば、〝神格化〟について調べている時も大神(おおがみ)様が彼女の名前を出していた……。 リムゼールに関連する事柄(こと)といえば……)

 ――「転生(・・)」。その言葉が頭をよぎった時、アリィーシュはある「可能性(・・・)」を思い付く。

(いや……。 いやいやいや……)

 けれど、アリィーシュはすぐに頭を振って、その「可能性(・・・)」を打ち消そうとする。

(いや、でも……)

 ――妙につじつまが合う。けれど、仮に「そう(・・)」だと確証が得られない。第一、【聖力狩り(カノジョ)】は「それ(・・)」をどうやって知ったのかも説明ができない。

(……だから、リムゼール?)

 確かに、彼女(リムゼール)ならば、()ているはずだった。

(でも、彼女には会えないから……)

 ――別の「伝手」を頼るしかない。

 ひとまず、アリィーシュは少しでも確信を得るために、大神・ディオルトの元を訪ねることにしたのだった。

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