Feather 4 ଓ 「仮説」 〜hypothesis〜
ଓ
――その【邪神】の噂を、一度だけ耳にしたことがあった。
数多くいる【邪神】は生まれ持った【力】であらゆる「もの」を【支配】しようと企むが、その【邪神】だけは違っているのだと。
――その【邪神】には生まれつき【力】が無いのだ。
【邪神】の中でも異質な【存在】であり、【邪神】からさえも忌み嫌われていた。かつては集落ができるほどの数が存在していたそうだが、そのほとんどが滅亡してしまい、現在ではたった一人しか生き残っていないという。
けれど、ただ数が少ないというだけで忌み嫌われているわけではなかった。その本当の理由はどうやってその【存在】が生まれてくるのかが分かっていないからだった。「血」の繋がりでも何でもなく、生まれてくる特異な【存在】――何時何処で生まれて来るかが分からないことに、【邪神】はある種の恐怖を抱いていたのだ。
おまけに、その【存在】が【力】を手にする方法も異質だったことも、忌み嫌われている理由の一つのようだった。
神々から〝力〟を奪い取り、自分の【力】にする――それが、その【存在】が強くなる唯一の方法だった。
〝力〟が強ければ強いほど、【存在】は強大な【力】を手にする。まるで、「狩り」のように神々を捉える様から、その【存在】は【聖力狩り】と呼ばれていた。
自分達が狩られることをよく思っていないこともあり、かつては多くいた【聖力狩り】に神々は対抗したのだろう。そういう理由もあって、今や【聖力狩り】はたった一人しか存在していないのだろう。
ଓ
(でも、まさかそのたった一人が【敵】になるとはね)
アリィーシュは収集した情報を整理しながら、そう思った。
そう、アリィーシュの前に現れ、かつての【敵】であるゼルグを解き放ったあの【オンナ】――アレこそが【聖力狩り】唯一の生き残りなのだ。
……けれど、まだ分からないことがある。
(だけど、今の今まで【聖力狩り】が動いたという話を聞いたことはなかった)
なのになぜ、今動き出したのか。けれど、分かることがあるとするなら……――。
(――狙いはエリンシェ、それは間違いない)
そうだという確信はあった。が、やはり分からない。なぜ【カノジョ】はエリンシェにたどり着くことができたのか――が。
どうしてもその理由が分からず、アリィーシュは別の角度から【聖力狩り】について調べることにした。
【聖力狩り】が最後に動いたのはいつだったのか。もちろんはっきりとしたことは分からないが、アリィーシュは「とある可能性」を見出した。
(――旧王国の襲撃事件。 あれがもし、〝神格化〟をしたかもしれないほどの〝力〟を持っていた姫を【聖力狩り】が襲撃していたのだとしたら……?)
そうすれば、色々とつじつまが合う。あまり語られないのは【聖力狩り】が関わっているかもしれないから――かもしれない。【邪神】でさえ忌み嫌うほどの【存在】なのだ、神々も【聖力狩り】のことを疎ましく思っていてもおかしくはない。おまけに、その【存在】の行方が襲撃以降不明になったのではないだろうか。
そして、恐らく、襲撃は【聖力狩り】単独で起こしたものではないのだ。もう一つ……別の【存在】がいて、旧王国の姫が襲われ、現在の形になる前、いわゆる「暗黒時代」と呼ばれる期間もあった。
(――おそらく……その間、王国を支配していた者がどうにかして【聖力狩り】の存在を行方知れずにして、隠し通した。 そして、今、どうにかしてエリンシェの存在を知り、再び姿を現した)
その者を含む【集団】が掲げていた象徴こそが【カノジョ】の左手に刻まれていた「印」なのだ。
【漆黒の片翼】を背景に、燃え盛る紫の炎の「印」――それがどの【集団】を意味しているのかがどうしても思い出せなかったのは、記憶と違っていたからだった。
その【名】を耳にしたのは〝神格化〟について調べていた時。――世界学の賢者を務めており、テレスファイラに明るいガイセルが、その【存在】について話していたのを、アリィーシュは思い出したのだ。
「――旧王国の姫。 きみの話じゃ、天界では襲撃についてあまり語られていないようだけど、世界学では少しだけ、仮説みたいなものがある。 ――旧王国時代、襲撃の後、王族に変わって王国を支配していた【モノ達】がいる。 それが【黒きモノ達】と呼ばれる悪の組織だ。 一説ではその【黒きモノ達】が襲撃に関わっていたんじゃないかって言われてる」
そして、ガイセルがその一説に示した書物に、【黒きモノ達】の掲げる「象徴」が載っていたのだ。
――その「象徴」こそが【漆黒の翼】だった。
(でも、【黒きモノ達】の「象徴」は【漆黒の翼】……。 【聖力狩り】の手にあったのは【漆黒の片翼】を背景に、燃え盛る紫の炎の「印」。 少し違っていたから、気付けなかった)
けれど、記憶をたどれば、二つの【翼】が確かに一致していたものだと理解できる。おそらく、【黒きモノ達】と【聖力狩り】の間に何らかの繋がりができたことにより、「印」も変化したのだろう。
(……そして、【黒きモノ達】が現在に至るまでどうにかして【聖力狩り】を隠し通して来た)
――それがアリィーシュの立てた仮説だった。
けれど、やはり理解できないことはたくさんある。
なぜ、【聖力狩り】はエリンシェの存在を知ったのか? 味方がほしいと話していたが、ゼルグを解放したその真意は? 【黒きモノ達】の存在がいたことにより、【聖力狩り】にとって有利になることが「何か」あるのではないか? ……色々と調べて来たが、分からないことがあり過ぎる。
(単に〝力〟が強い存在を待っていた……ってことはないわよね? 仮にそうだとしても、理由が弱過ぎる。 もし、あの娘と旧王国の姫に共通点があるとするなら……――)
〝神格化〟……。――二人とも、人間でありながら、〝神格化〟できるほどの〝力〟を持っている。
(まぁ……姫の〝力〟を奪ったのだとしたら、【聖力狩り】にとっては恰好の「御馳走」よね。 もし、同じくらいの〝力〟を持ってる存在が現れたら、狙うのも無理はない……?)
そう考えれば、矛盾はないが……。――けれど、「何か」引っ掛かる。単に同じくらいの〝力〟を持っているというだけで事を片付けていいものだろうか……?
不意に、考え事をしていたアリィーシュの頭にとある〝神〟が思い浮かぶ。
(リムゼール……)
リムゼール――それは「転生」を司る神。けれど、彼女にはそう簡単に逢うことはできない。なのに、彼女に逢うことができたなら……と思ってしまうのは何故だろう。
(そういえば、〝神格化〟について調べている時も大神様が彼女の名前を出していた……。 リムゼールに関連する事柄といえば……)
――「転生」。その言葉が頭をよぎった時、アリィーシュはある「可能性」を思い付く。
(いや……。 いやいやいや……)
けれど、アリィーシュはすぐに頭を振って、その「可能性」を打ち消そうとする。
(いや、でも……)
――妙につじつまが合う。けれど、仮に「そう」だと確証が得られない。第一、【聖力狩り】は「それ」をどうやって知ったのかも説明ができない。
(……だから、リムゼール?)
確かに、彼女ならば、みているはずだった。
(でも、彼女には会えないから……)
――別の「伝手」を頼るしかない。
ひとまず、アリィーシュは少しでも確信を得るために、大神・ディオルトの元を訪ねることにしたのだった。




