Episode 1 Prologue ଓ 幕開 〜beginning〜
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――静かな森に【咆哮】が響き渡る。
木々のざわめきに、とある【邪神】を見張るために自ら封印の身となっていたとある〝神〟は覚醒した。けれど、すぐに出ることはしなかった。息を潜めて様子を窺い、相手の出方を待った。
一歩、また一歩と、相手が近付いて来るのが理解できる。目当ては恐らく、彼女と【邪神】の眠る石碑。問題はどちらが目的か、だ。
やがて、【咆哮】の主が石碑の前にやってきた。乱れた長い黒髪の【オンナ】が【短刀】を手にして、石碑の前へと立つ。顔は髪で覆われているせいでよく見えなかった。
――【邪神】だ。だが、ただの【邪神】にしては森がざわつき過ぎている。訝しんでいると、ふと、【オンナ】の左手にある【印】が彼女の目に留まった。
――【漆黒の片翼】を背景に、燃え盛る紫の炎。何か……どこかで見掛けたような気がしたが、どうしても彼女は思い出せないでいた。
「……【解邪】」
【オンナ】がそうつぶやくと、【印】が妖しい光を放つ。
その瞬間、彼女は「あること」に気が付く。……そうだ、一度耳にしたことがある。――【オンナ】はただものではない、特殊な【邪神】なのだ。
不意に、【オンナ】が石碑を振り向く。瞳は見えていないはずなのに、その目がきっちりと此方を捉えた気がした。
「……見ているな?」
気のせいではなかった。【オンナ】がはっきりそう口にするのを聞いて、彼女は血の気が引いた。……出るか? とっさにそんな考えが浮かんだが、思い直して続けて様子を窺うことにした。――残念ながら、今の彼女に勝てる見込みはなかった。
彼女が動かないで見て取ると、【オンナ】は鼻を鳴らした。
「まぁいい。 いずれ〝彼女〟とは対峙することになるだろうからな。 ――私の存在をすぐに知らせるがいい。 だが、今は一つでも多く『駒』が欲しいのでね。 【カレ】をいただいていく」
そう話すと、【オンナ】は勢いよく、とある【邪神】が封印されている珠を手にした。
もちろん、彼女には止める余地はなかった。
珠は粉々に砕け散ったが、【カレ】が消されたわけではなさそうだった。むしろ解き放たれ、何処かへ送られたようだった。
周辺に欠片が散らばるのも意に介せず、【オンナ】は踵を返すと、すぐさま姿を消した。
しばらく経ってからようやく、彼女は姿をあらわした。
〝……まずい〟
つぶやき、彼女は少し物思いに耽る。
……まさか、あの【邪神】が新たな【敵】になるとは。急いであの娘に知らせなければ。
【オンナ】の言う通りにするのは少し癪に障るが。彼女はすぐにとある人物のところへ向かおうとしたが、ふと思い立った。……いや、一度情報を集めた方が良いかもしれない。
一人うなずいて、彼女は空を見上げる。そして、そのすぐ後、どこかへと姿を消したのだった。
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――あなたはわたしたちの〝想い〟をかなえてくれる?
また、そんな言葉がきこえた気がした。
――それは、いつか見た「夢」の最後であらわれた女性の言葉。そのあまりに強い〝想い〟に、その答えを返すことができないまま、終わってしまった「夢」。
同じ夢ではあるが、今回の夢は以前に見ていたものとは違っているようだった。その言葉も実際に女性から投げ掛けられた、というわけではなさそうだ。
此の夢は……何かの前触れのように思えた。――これから起きていく「何か」の。その「何か」がどのような事柄でも〝彼女〟にはとある「覚悟」があった。
また〝想い〟には応えることができなかったが……。いつか必ず、その答えを返してみせる。
――そんな決心をして、〝彼女〟は「覚醒」した。
そして、〝彼女〟は目を開ける。
まだまどろみの中にいて、何度も瞬きをしていると、見知った顔が〝彼女〟の視界に映った。
「エリン、珍しいね、寝坊? もしかして、緊張とかしちゃった? だけど、もう支度しないと遅れるよ」
「ありがとう、ミリア」
身を起こしながら、「エリン」と呼ばれた〝彼女〟は見知った顔――親友である彼女に呼び掛ける。
彼女――ミリアは話しながら、〝彼女〟の荷物をまとめていたが、一度だけ振り返ると笑ってみせるとすぐにそのまま支度を続けた。
起き上がった〝彼女〟も身支度を整え始めるのだった。
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――〝彼女〟の名前はエリンシェ。周りからは「エリン」と呼ばれ、親しまれていた。
その日は出発の日。――三年間の上級過程を修めるため、魔法を学ぶ場である学舎へ赴く日だった。
薄黄の髪を肩まで伸ばし、澄み切った水色の瞳を持つエリンシェの姿はとても美しく、まるで地上に舞い降りた天使のようだった。そんな〝彼女〟はおまけに聖なる気をまとっていた。
けれど、それもあながち間違いでもなかった。――実は、エリンシェには不思議な〝力〟が有ったのだ。
なぜ〝彼女〟にはそんな〝力〟があるのか。その答えは未だ見つかっていなかったが、エリンシェはその〝力〟と共に生きていくことを、とある「覚悟」をした上で固く誓っていたのである。
だが、〝力〟があることにより、困難もあった。――学舎で過ごした四年間の間、魔法の〝彼女〟自身と世界を支配しようとする【邪神】――【敵】との戦いがあったのだ。
長い戦いの末、エリンシェはとある「覚悟」――〝力〟を、大切なひと達とせかいのために使い、守護して抜く「覚悟」を決めたのだ。
やがて無事に【敵】を倒し、封印した〝彼女〟は〝神格化〟と呼ばれる術により、人間の身でありながら、半永久の生命を持つ、聖なる〝神〟に近い存在に至った。――そして、世界を守護する〝守護者〟となったのだった。
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しばらく平穏な日々が続いていたが、先ほどの夢のことを思うと、そう上手くいかないようだった。
けれど、目覚める前に誓ったように、何があろうと必ず、テレスファイラをまもり抜いてみせる。
――そんな「覚悟」を固め、エリンシェはミリアと共に、学舎へと向かうのだった。




