第一話 試作機
【フィクションです】
この物語は、サイエンス・フィクションです。実在の技術を発展、或いは拡大解釈するなどして物語に取り入れていますが、全てが実態に即している訳では有りません。
また、登場する人物や組織は、その名称に実在の商号・商標等を用いる場合(主に下記に確認されたマツダ株式会社様のもの)も含み、全て架空のものです。
【商標等について】
作中に登場するマツダ株式会社様の商標等は、以下の点に留意して使用されています。
●誹謗、中傷等、マツダ製品のイメージダウンに繋がる使い方は行わない。
●本サイトとマツダ株式会社様とに特別な関係(資本提携、業務提携等)があるように誤解を与えるような記載及び使い方は行わない。
●作中に、マツダ株式会社様のRX‐8ハイドロジェンREの名称等を使用させて頂く事に対し、マツダ株式会社様が特段異議を唱える事はない。
●本作品の出版による収入等、何らかの利益を得るものであっても、マツダ株式会社様の利益を害するものでない限り、マツダ株式会社様が異議を唱える事はない。
以上のことを確認させて頂いた上で、本作品の執筆活動は行われております。本サイトは、マツダ株式会社様の承認を得たものではないことをご理解下さい。
『マツダ株式会社お客様相談室』様の懇切丁寧かつ寛大なご対応に、心からお礼申し上げます。
【ブログ小説の再編集です】
この物語は、ブログ小説を再度推敲したものです。その為、既にブログをご存知の方にはこちらもご覧頂きたいと思いますが、こちらを既にご覧になられた方は、特段ブログ側を訪れる必要はないと思われます。
ダンッ!!
麗香は、その音が施設中に響き渡らんばかり、所長の机へと力任せに両手を振り下ろした。その勢いに白衣の裾が翻り、主の憤りを示すようだった。
「無理よっ。あんなもの危険過ぎて、導入試験になんて踏み切れないわ!」
端整な顔立ちに不釣合いな程、表情を歪ませる。眼鏡がずり落ちることにも構わず、身振り手振り、体全体で詰め寄る。
「そうは言っても麗香君、経産省(経済産業省)と防衛省のお偉方は、目に見える結果を欲しがるんだ。公的資金投入の打ち切りまでほのめかして、催促を繰り返してくる」
成田所長は、椅子を軋ませて背を向けた。
「そう熱くならんでくれ。『零下の麗人』なんて呼ばれているのだろう?」
オヤジギャク的なセンスだ。彼女のあだ名を引き合いにだして場を和ますつもりが、火に油を注いだ。
「茶化さないで下さいっ。兎に角、私は反対です!こんなに何度も暴走を繰り返している試作機、市街戦に投入したらどんな惨状をもたらすか、成田所長だってお判りの筈でしょう!一体、どれだけの民間人を危険に晒すおつもりですか!?」
成田は表情を曇らせる。『試作機』の危険性は十二分に承知している。二ヶ月前、施設内で起きた暴走事故で部下数人に重軽傷を負わせ、自分自身、あわや失明の大きな傷を、左のまぶたに負っていた。二ヶ月を経過しても癒えない傷。それを覆う絆創膏が痛々しい。
しかし、上の人間達の機嫌を損ねれば、明日この椅子に座っているのは自分ではないかも知れない。地位などはどうでも良いが、「長年続けて来た研究を完成させるのは、自分でありたい」と、そう願うことは自然な欲求なのだろう。そんな焦りを隠すように、年波に弛んだ頬をわなわなと震わせながら、深い呼吸をする。努めて冷静に、かつ強く、声を発した。
「兎に角、次に『奴ら』が現れた時は、あの試作機を現場に投入する。それが繁華街のど真ん中でもだっ」
「なっ、そんな……」
麗香の心中を、微かな諦めが過る。成田の強硬な態度に対し、何と言えば聞き入れられるのか。
「幸い、これ迄は奴らの出現に起因する、直接の死傷者は無かった。だが、今後もそうとは限らない。私とて、この研究によって早く対抗策を成したいのだよ」
「……奴らより先に、こちらが人を殺してしまっては、元も子も有りません」
ぼそりと呟く麗香。成田への反論の様で、その実、二ヶ月前の事故を看過して、仕事を続けている自分に向けた言葉でもあった。
「もちろん試験投入だ、予定のデータが採れたら、防衛省の連中に任せて早々に引き上げる。そして、その防衛省は虎の子の特選隊(対特殊テロ選抜隊)を配置するとのことだ。仮に『暴走』が起きても制圧出来る筈だ。だから、そう神経質にならんでくれ」
麗香の表情が、怒りから諦めへ、そして呆れに変わる。
「試作機の暴走を止められる程の力が自衛隊に有るのなら、そもそも私達の研究なんて要らない筈じゃなくてっ?」
成田に皮肉を浴びせて、麗香は所長室を後にした。
その施設は、経済産業省と防衛省双方の管轄下にある外郭団体『新エネルギー・防衛技術総合開発機構=New Energy and Defense technology Organization』、通称ニード(NeEDO)の研究所であった。
麗香は、ニード内の研究チームで主査の職に就いていた。彼女達の研究は、これまでの化石燃料に替わる新たなエネルギーとして注目されている、『水素』を活用する事と、その成果を防衛技術に採り入れようというものだ。
逆に、同施設内の他の研究室では、防衛技術として生まれた成果を、経済活動の分野へフィードバックするという試みも進められており、レース活動とそれに参加する自動車メーカーの関係に似ている。
麗香が白衣のポケットから、『綾乃樹麗香‐REIKA AYANOGI』と印刷されたIDカードを取り出す。煩わしそうにドア脇のリーダーに近づけると、研究室のドアは、彼女が深い溜め息を吐くのと同じ程の速度で開いた。
「あ、主査、お帰りなさい」
「あら、加島君、まだ帰っていなかったの?……ふぅ、もうこんな時間なのね」
ダラリと長椅子にもたれた麗香に、彼女同様白衣に身を包んだ男が声をかけた。自分を待っていてくれたのであろう部下を心配して視線を壁に遣ると、時計の針は午後九時を回ったところだった。
「えぇ、仕事は幾らでも有りますから。それより、所長の説得、どうでした?」
「はぁ……駄目。次に奴ら……『ルーラー』が現れたら試作機を投入するって……、取り付く島も無いわ」
眼鏡を外して、目じりから眉間へと、まぶたをなぞって揉む。疲れているのか、蛍光灯の明かりが眩しく感じた。
「やっぱりそうか……。両省の圧力ですかね?」
「そうみたいね、所長のあの口振りは」
言いながら、再び眼鏡を掛ける。目の重い感じが少し楽になり、眩しさも失せた。
「奴らが次に現れるまでに完全制御……僕は出来る気がしないなぁ。納品された基礎AI(人工知能)のキャパが全然追いついていませんよ。そもそも、そっちの調整は我々の専門外ですし」
麗香は、長椅子の背もたれに頭を預け、ぼんやりと天井を見上げている。その様子を気に留めず、加島は続けた。
「まぁ、この歩く兵器をAI単独で制御しようって言うのが無茶な話なんですけれどね。戦況の変化をリアルタイムに処理出来る様、パターンプログラムは膨大な量を用意したけれど、パターン認識の方が誤認識多過ぎで……。誤認識が重なった時に停止信号を受け取らなくなる原因も、どうやったって潰せないし」
「かといって、動作の全てがリモート制御じゃ、奴ら『ルーラー』の機動力にまず追いつかないのよ」
気の抜けた様子のまま、視線すら加島へ向けず答えた。
「……ですよねぇ」
そんなことは、二人にとっては今更のことだ。解っている……解ってはいるが、出口の見えない現状に、愚痴っぽくなってしまう。
入り口ドアの対面は壁一面強化ガラスで、その向こうには、彼女達が『試作機』と呼ぶそれが二機、ハンガーに固定されている。
加島はガラスの向こうの、一方の試作機を見遣り、ぼやく。
「そうなると、廃案になったヤツの方が現実的でしたよねぇ」
加島の言葉に、麗香は眉をひそめた。
「技術的には現実的でも、人道的にはこの上無く非現実的だわ」
その言葉は、語気は穏やかながら、明らかな嫌悪を示している。
「……あっ」
麗香の反応で、自分の失言に気づいた。
「ま、まぁ、やり過ぎですよね!俺も良くないと思いますよ!!人体を改造するんですから。心臓を、水素ロータリーエンジンを核とする人工心臓と、オルタネーターを組み合わせたユニットに変更するでしょ。それから、骨格の大部分を水素吸蔵合金でコーティングするか、水素吸蔵合金製の人工骨に置き換える。おまけに、関節は指まで超小型水素アクチュエーターにするとなれば、もう、漫画の世界のサイボーグですよね!うん、人間を玩具にしちゃぁいけないですっ」
場の空気を取り繕おうと、ひたすら口を動かす加島。
「その、気まずくなるとベラベラと技術的な話をする癖、直した方が良いわね。女の子に嫌われるわよ……」
加島はハッとした。そうだった。そうして自分は、数を重ねたどの合コンでも、技術オタク丸出しで、恋人を得る機会を逸して来た。
少しの間の後、麗香が話しを続ける。
「確かに、私は反対したわ。でもね、廃案になったのは私の反対のせいじゃないわよ。上のおじさま方が、万が一にもマスコミに知れて、世論や人権団体に糾弾されるのを恐れたからよ」
「い、いや、別に、そんなつもりでは……」
所内の人々に『零下の麗人』と揶揄される程、普段は冷静な筈の麗香。その麗香が見せる、珍しく不機嫌さが全面に出た様子に、加島は改めて事態の重大さを悟った。
本作をご覧頂けましたこと、心より御礼申し上げます。
本作は、作者初のオンライン小説であり、お見苦しく感じられる記述も多々あると存じます。
よって、本作に対し寄せられるコメントは、誹謗中傷や個人的な理想の押し付け(『提案』は有り難く存じます)を除き、実現性の可否は兎も角、アドバイスとして真摯に受け止めるべきと心得ております。
以上のことから、本作の世界観がより熟成される為にも、ご覧下さいました皆様からのお声を賜りたく、宜しくお願い申し上げます。