「入学式」②
その時ふと、視界が暗くなる。人混みから悲鳴のような驚きのような声も聞こえた。
咄嗟に僕は上を見-----
「うぇえっ!?」
見上げるとそこには!
女の子のパン……っ
……じゃなくて、スパッツと生足が見えた。
って、いやいやいやいや!なんで、スパッツが!?パンツじゃないからって平気じゃないよ!青少年にとっては心臓に悪いよ!というか今、女の子が頭上をジャンプしてるってこと!?そんなジャンプ力、いくら体操選手だったとしても……っ!
「-スキル解放-」
女の子がそう呟くと、両腕が赤く光った。
そこで僕はようやく気づいたのだ。人間離れした身体能力、そして「スキル」。
つまり、この子は……
「クラス《獣》…!クラススキル《貪欲な呪爪》!!」
《五核使い(ペンタゴン・プレイヤー) 》!!
女の子は両手を身の丈程の凶悪な恐竜の爪へと変異させ、スリの男の逃げ道を塞ぐように爪で床を抉った。
「ヒィ!?」
男は退路を絶たれ、尻餅をつく。追い打ちをかけるように女の子は鋭利な爪を男の首筋に向け、言い放った。
「あなたが決めるのよ……自首するか、ここで死ぬか」
「あっ……あぁあ……ガクッ」
男は恐怖の余り、泡を吹いて気絶してしまった。
その瞬間、周りからは拍手喝采が起こる。
「すげえ!五核使いだ!」
「初めて生で見たわぁ……」
「カッコよすぎ!」
「生足がエロかった」
「あ、あの……っ!」
僕は女の子に駆け寄り、頭を下げた。
「ありがとうございます!あなたのおかげで財布が取り戻……せ……ってさっきの女の子!?」
そう、忘れるはずもない。トリプルテールの黒艶の髪、僕より少し高い身長、何を考えているのか分からない鋭い瞳……間違いない!さっきの美人さんだ!
「あなたは……私と同じ学校の……」
「えっ!?そうなの!?」
今から入学する学園なのに、女子の制服のこと全く知らなかった……。確かによく見ると同じ校章を付けてるし、同じ学校に間違いない。
「その……なんてお礼を言えばいいのか…」
「あなた……」
「え?」
悪意があるのかないのか無表情で言い放つ。
「弱い……」
「え……?」
「弱すぎるわ……あなた。あんな男、1人捕まえられないようなら、五稜星蘭なんか来ない方がいいわ。」
「…………っ!」
呆然とする僕を置いて彼女は踵を返した。重く痛烈な一言に僕はその場から1歩も動けなかった……。