「プライバシーの消失」③
「僕は……その…………」
「……させないわ…………!」
後ずさりする僕の前に女の子が降ってきた。それは今朝の駅で僕を弱いと吐き捨てたユナさんだった。
「……っ!!ユ、ユナさん……!?どうして……」
「……まさか貴方がジョーカークラスだったなんてね……。ジョーカーなら、話は別よ。」
「君も…僕をビーストクラスに入れたいの……?」
「いいえ。私の目的はただ1つ。“ジョーカークラスをどのクラスにも入れない”ことよ」
「えっ!?」
相変わらずのポーカーフェイス。どんな気持ちで今、僕の前にいるのか読み取れなかった。
「新入生!あんた、邪魔!退かないと酷い目に合わせるわよ!」
「酷い目に合わせる……?それはこっちのセリフよ……スキル解放……!」
ユナはすぐさま巨大な爪を召喚し、戦闘態勢に入る。
「ジョーカーに指一本触れさせない…」
「上等じゃない!泣いても知らないんだから!」
売られた喧嘩を買ったジャスミンは呪文詠唱を始める。
「雷鳴轟け、ゼウスの光!仇なす者に裁きを!」
「いかん!あれは上級呪文じゃ!!」
「誰か止めなきゃ、他の生徒にも被害が!」
先生達が止めようと走る!本来、上級呪文詠唱は長いらしいが、間に合わなかった。
「エンチャントスキル『詠唱省略』!ジャッジメント・ボルテッカー!!!!」
突如、ジャスミンの目の前に現れた金色の魔法陣から高電圧の雷が数多にユナを襲う。
ユナは臆することなく、雷に突っ込んだ。
「ユナさん!!やめて!!!死んじゃうよ!!!」
しかし、彼女は止まらない。ぶつかり合う音が響き、僕は思わず目を閉じてしまう。
鈍い金属音が体育館中に広がる。僕はおそるおそる顔を上げた……。
「生徒会長……っ!」
そこにはユナの爪を刀で受け止め、ジャスミンの呪文を地の式神で防いだ謙信会長がいた。そして、今までの爽やかさが嘘のように鬼の形相で怒鳴る。
「馬鹿者!!!周りの人間の被害を考えろ!!バトルフィールドのない空間で争うなど言語道断だ!!!」
そして、他の生徒の方を見ると、説教を続ける。
「お前達もだ!!!ジョーカーを自分のクラスに入れたい気持ちは分かる……だが、先走る思いで周りに迷惑をかけるな!!」
校長が謙信会長の肩を叩く。
「まあまあ…それぐらいにしておくがいい。新入生が怯えておる。しかし、よく争いを止めてくれた、感謝する越後謙信よ。」
「いえ……争いが起こる前に止められなかった私の責任でもありますから……。」
「そこでだ……1つ考えがあるのじゃが……」
校長は護朗に告げる。
「境 護朗には特別クラスとして第6のクラス『ジョーカー』を設立する。そして、彼には定期的に様々なクラスを回ってもらい、彼自身にどのクラスに入るかを決めてもらう……というのは如何かな?」
「僕はそれで異論ありません」
と、マルクト。
「私もその意見には賛成です。生徒会も彼には五核使いとしての勉強をしてもらい、彼に合ったクラスに入れるようにサポートしていきます。」
謙信会長も頷く。
「とか言って、抜け駆けするつもりでしょ!いいわ…正々堂々、ジョーカーを勝ち取ってやろうじゃない!」
「そんな無粋なことは考えていない。」
「いい子ちゃんぶってぇー!」
身長足りてないのに謙信に張り合うジャスミン。
「構わないわ……でも、これだけは言っておく……。私が護朗を守る…。もし、彼を無理矢理クラスに入れようとするなら、私が相手をするわ……。」
「ユナさん……」
何故、ユナさんがそこまでジョーカーにこだわるか分からない。でも…このままじゃ僕のせいでユナさんが傷つくことになることは間違いなかった。
「分かりました……これ以上争いが起きるのは嫌ですし、僕がクラスを決めようと思います……。」
そうして、波乱万丈な入学式は終えたのである……。