覇竜 3
「あら、オウルウさん。素敵なお嬢さんを連れていますね。その方は人間ですか」
「オウルウさんオウルウさん。今晩ご飯をご一緒しませんか」
「オウルウさん、明日はお暇ですか。で、でででデェトいたしませんか」
「おーるー。遊べ。まおーごっこ。する」
行き先々で話しかけられます。オウルウはそのたびに立ち止まり懇切丁寧にお話して、別れていきます。魔物たちの表情は私にはわかりませんが、魂の色はとても穏やかでした。
「人気者なのですね」
「元魔王だからな」
そうですか。この人はきっと人間で言うところの勇者みたいなものなのでしょうね。魔族にとっての勇者、ですか。人間に追い掛け回されている私とはえらい違いですね。
……羨ましくなんてありませんよ。
オウルウさんは洞窟の中に入っていきました。緩く傾斜していて地の底へと続いています。中にいた魔物たちは私を少し奇異な目で見ながらも、オウルウさんにお辞儀をして道を開けてくれます。私はもしかしたら魔族って悪い方ばかりではないのかなぁ、なんてバカな勘違いを起こします。それでも魔族は人間を殺すのです。
風膜呪文で硫黄の霧を避けて、一面がマグマになっているフロアーを境界面歩行呪文で越えて、私たちはダンジョンの奥深くに進んでいきます。
「一応尋ねておくが、我が貴様を騙そうとしているとは考えないのか」
「あなたの魂は嘘をついている色ではありませんから」
「魂視の能力か。難儀だな」
「便利ですよ」
「他人の心など見えてもおもしろくあるまい」
たしかにおもしろくはないですけど。
嫌われますし。
恐がられますし。
嫌なことを思い出しかけて泣きそうになったので頭を振って忘れておきます。
それはさておき、ダンジョンの最奥までやってきました。
そこには赤い甲冑を来た魔族が、氷の塊の中に眠っていました。額には第三の目。両の手にそれぞれ握られているのは自分の身体ほどもある大きな剣。大きさは私の二倍ほど。これは。
「三眼二刀の魔族……」
いまから三代前の勇者を殺した伝説の魔族です。
「人間ではそう言われているらしいな。これの名はクルヴェスターというのだが」
「生きてるんですか?」
「ああ、仮死状態で眠りについている。あまりにも強力な魔体であったがために勇者はこれを殺せなんだらしい。相打ちとなった勇者と彼の仲間達が最後の力を振り絞ってこの封印を作り上げた」
「それをあなたが回収した。もしやこれの他にもたくさんの魔族の実力者が保存されていたりするんですか?」
オウルウさんはそれには答えませんでした。何か目的がありそうです。多分それはかつての覇権を取り戻すことに繋がるのでしょう。
私は氷に手を触れました。
「いただいても?」
「ああ。もって行くがいい」
私はその大きな魔体を見上げます。遺体(と呼ぶのは微妙に変ですが)の中でも生前に最も魔法力が馴染んでいた部分が素材として適しています。この魔体では、そうですね。
第三の目に瞬間移動呪文を使いました。掌より少し小さいくらいの眼球が私の手の中に納まります。それはともかくとして封印式をすり抜けるために魔法力をほとんど使い果たしてしまいました。ついでにこの魔体を殺しておけないかなぁとか企んだのですが、無理そうです。
「魔法力を帯びた呪氷なのだが、あっさりと呪文を通したな」
しかしその努力はオウルウさんには伝わらなかったようなので、私は涼しい顔をしておきました。
「だって私、天才ですもの。ではお世話になりました」
ぺこりと頭を下げて、私は瞬間移動呪文を使いました。




