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最後の戦い 9



 ……というわけで、死んだと思ったら今度は突然目を覚ましました。私――武闘家ヨヨの体は薄い体毛に覆われていました。乱雑に伸びた髪の毛は炎のような赤色。事情はわかりませんがどことなくレンクウを思い起こします。近くでカナンが死んでいました。これもよくわかりませんが、まあいなくなればそれだけの話です。控えめにいって私の体は魔族になったようです。嫌悪感はあるか? と内心に問いかけてみましたが、そんなにありませんでした。最後に殺す魔族が一体増えただけのことです。ちなみにこのときは事情がわかりませんでしたがどうやら天臨呪文による「擬似勇者化」では上半身を切り落とされたほどの負傷をカバーできなかった模様。なのでその段階をすっ飛ばして「魔族化」に至ったらしいです。

 あたりを見渡すと八つ切りにされた巨大なカバが死んでいて、胴体まで分解されて血を吐いているスーライルが銀髪の老婆の死体に抱きかかえられて今度は本当に死んでいました。フリューが首と腕と足がおかしな角度に捻じ曲がって、壁に叩きつけられていました。硬化呪文を受けていた肉体が罅割れていました。こちらも死んでいるのかと思ったのですが、ディバインメイルが発光しているところを見るとまだ息があるようです。しぶとい御仁ですねえ。

 そして彼らを倒した三眼二刀の魔族もまた無傷ではありませんでした。甲冑のあちこちが砕けていて、わき腹から大きく出血しています。二刀のうち片方がへし折れていました。ぎろりとその瞳が私を見ました。

 私は極大旋風呪文を唱えました。体の奥底から無尽蔵の魔法力があふれ出てくるのを感じます。集束して行く風の量は、カナンの空圧呪文に匹敵します。

「漠裂拳」

 右拳にその風圧を集中させました。どうせ私の技の中でオウルウに通じるのはこれだけでしょう。それに生まれたての魔族である私の体は長期戦には耐えられません。

 オウルウが荒い息を吐きながら剣を私に向けました。一瞬の交錯。ジェット噴射でかっとびながら私は右拳を突き出しました。オウルウの剣が私の拳に触れて、ばきりと音を立てて折れました。どうやらフリューやスーライルとの戦闘で既に相当のダメージがあった模様。

 胸に叩き込まれた漠裂拳がオウルウの肉体を捻っていきます。甲冑が軋み、全身の骨と筋肉が捻じ曲がり、血が噴き出して、魔王オウルウの体が歪な薔薇となって城壁に刻み込まれました。死にました。

 圧倒的な歓喜が私を包みました。

 既に満身創痍だったとはいえ、魔王オウルウを正面から捻じ伏せることのできるほどの力。この力があれば。この力があればなんだって出来ます。ロバートの仇を取れます。すべての魔物を屠ることができます。食われた父母を腸の中から助け出すことだってできるはずです。気づけば私は哄笑していました。カナンのくれた遺産はなんて素敵なのでしょう。あの呪文砲台は、最後の最後にやっといいことをしました。

「なぜいまなのでしょうか」

 ひとしきり哄笑し終えた私はぽつりと呟きました。

 すべては遅すぎました。ロバートは魔族に喰われて死にました。父母は消化されて糞便へと変わりました。私は傍らで死んでいるカナンを見ます。ひどく満足気な顔つきで死んでいるのが気に食いませんでした。

 カナンでさえ。こんな力を持っていてもカナンさえ助け出すことができないのです。ひどい無力感と苛立ちが私を襲います。全身がわなわなと震え、崩れ落ちそうにさえなりました。

 そんな私の視界の端に一匹の魔族が映ります。ゴミムシのようなちっぽけな魔族。

「殺せ」

 耳元で声がしました。舌足らずな幼いロバートの声。「そうだ殺せ」厳粛な父の声。「ええ殺して」微笑みかけるような優しい母の声。「殺して殺そう殺しなさい」私が守れなかった民の声。そして。

「殺したまえ」

 カナンの、声。

 ええ、殺しましょう! 殺しましょう殺しましょう! 足を一本一本捥ぎ取るように、蚊や蝿を払うように、雑作もなく踏み潰しましょう。それだけが私を許してくれます。なにも守れなかった私を慰めてくれます。殺すことだけがあなたの声をもう一度聞かせてくれるなら、そうしましょう。

 ああ、なんて素敵な世界。まるで私の蹂躙を待つ無垢な花嫁のよう。それを殺そうと飛び掛った私を。


 次元斬が切り裂きました。


 胴体を離れた首が、胴体を視界に映します。心臓が動いているので派手に噴き出る血。とさりと首が地面に落ち、少し遅れて胴体が倒れます。真っ赤な血が流れ出し、地面を染め上げました。

「やはり傲慢な魔族などこんなもの。己れの好敵手は人間か」

 最後に、呟くような魔族の声。

 ああ、無念でした。もっと殺したかったのに。もっと殺さなければならなかったのに。


 ロバート、ごめんね。

 お姉ちゃんやれるだけやってみたけど、やっぱりダメだったよ。



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