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覇竜 1




 さて、泣き止みました。

 オーブの解析も済みました。描かれた魔法式から察するにオーブはどうやらもう一つありそうです。

 ついでにこの五つのオーブに描かれた魔法式の内容は、魔王撃破のために何の役にも立たないこともわかりました。このオーブに描かれた式は、ある魔法生物の誕生式です。世界のどこかに卵の状態で存在しているその魔法生物の前でオーブを捧げると、卵が孵化するわけです。

 魔法生物の名は不死鳥ラ・ルミア。

 精霊ルミアの持つ肉体の九番目。

「うーん」

 頼みの綱はこれしかなかったのですが、本当に役に立ちそうにありません。伝承にあるラ・ルミアの力はあらゆる場所へと駆ける翼です。かつては内海に閉ざされた魔王の居城へ至る唯一の手段とされていました。しかし現代では魔法技術が発達し、瞬間移動呪文が劇的に進化を成し遂げたり、飛翔呪文、境界面歩行呪文が開発されたりで、魔王の居城へ至る手段は一つではなくなりました。

 私たちのパーティはそれらの呪文を駆使し、世界中を巡っていろんな国を訪ね、王様から伝説のアイテムを与えられたり、魔物を倒したりしました。

 この世界にラ・ルミアでないと行けない場所は残っていないのです。

 無駄足だったかなぁ。

 私は膝を抱えます。手詰まりです。やることなくなっちゃいました。暗い絶望の手が心の底のほうから這いずり出してきます。勇者さんが死んでしまい、泣きながら動転していた私、色あせた世界、みんなが私の死を望んでいる。何もしないでいると次々と後悔ばかりが浮かんできます。

 実を言うと世界にとってまだ希望はあるのです。

 勇者が死んで、精霊ルミアはきっと次の勇者を生み出そうとするでしょう。

勇者とは精霊の持つ肉体の一、ア・ルミアを宿した者ですから。

 ただその希望は私にとっての希望ではないのです。私は私と一緒に旅をしたあの勇者さんが好きだったのであって、「勇者」が好きだったわけではありません。

 そもそも次の勇者が生まれたとしても、あの魔王に勝てるのでしょうか。勇者の力は稲妻の力。人間としては絶大な戦力を誇りますが、あくまで呪文なので呪文無効化を破ることはできません。勇者が生まれては死ぬ。人間にとっては悪夢の光景ですね。私にとってはわりとどうでもいいですけど。

 ふむ。どうでもいいことを少し思いつきました。三代前に魔王を倒した勇者というのがア・ルミアを宿した確か稲妻の勇者ではなかったんですよね、たしか。当時のア・ルミアを宿した勇者は魔王下七武衆の中でも最強と恐れられた三眼二刀の魔族と相打ちになって倒れたそうです。なので実際に魔王を倒して勇者と呼ばれたのはフリューさんと同じような戦い方をする人でした。そしてその勇者さんが使う呪文こそが闇刻結界です。呪文無効化と硬化呪文の組み合わせによってほとんどの攻撃を無力化した末に一月近く戦い続けて仕留めたのだそうです。

 闇刻結界自体、そうそう使い手のいない特異な魔術ですから心に留めておくことにしましょう。

「そういえば」

 あの闇刻結界が呪文無効化の能力を持っているとはいえ、無限大に呪文を無効化できるわけではないでしょう。だったら無限大に近い魔法力をぶつけたらあの結界は崩壊するのではないでしょうか。例えばラ・ルミアの孵化に必要なほどの膨大な魔法力を。

 結界を剥がしたあとの、呪文が通じる相手であれば倒せる。……かもしれません。

 勝てたらいいなぁ。

どうでもいいですがかつての勇者はルミアの肉体の三、サ・ルミアと呼ばれる光玉を使って魔王の持つ結界を剥がしたそうです。多分闇刻結界とは別種の結界ですが、そのクッソ便利なアイテムは砕けてしまったとか、奈落の奥深くに沈んでしまったんだとか言われています。新しい勇者は生み出せるのに、新しいアイテムは作ってくれないんですよね。ルミアさんって。

けっ。意地悪な精霊です。死んでるので仕方ないですが。

私はオーブに描かれた魔法式を連結させてみました。内部に秘められた魔法力が呼応して膨れていきます。その量は莫大なモノで、六つのオーブすべてを結合させれば人間が個人で生み出せる魔法力の数千倍から数万倍に至ります。とりあえず魔法式の連結を解除して、オーブを収めました。

やってみる価値は、あるかもしれません。

どうせ失敗したって私が死ぬだけです。

 さあ、最後のオーブを探しにいきましょう。



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