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最後の戦い 8


 カナンは呆然と三者の戦いを見ていた。

 なにをしている、わたしは。呆けている暇があれば彼らを援護しなければ。

 ヨヨのことなどどうでもいい。あれが生きていたところで、どうせあの肉体を手中に納めたオウルウには到底敵わない。

 自分に言い聞かせるようにして立ち上がろうとした。が、カナンの体はぴくりとも動かなかった。意識は死んだヨヨに釘付けになったままだ。ショックを受けているのだ。と、カナンはようやく気づいた。旅の道連れ。無茶ばかりする馬鹿な女。それに対してカナンは自分が思っていたよりも心奪われていたのだ。

 この場から離れろ。と彼の中の賢者が言う。あのオウルウの力は最早人の手に負えるものではない。一度退いて体勢を立て直せ。

「なにを言っている。この場にはフリューと、スーライルがいる。あれはこの時代の人類最強の二人だ。この機を逃せば二度とオウルウを倒す機会は訪れまい」

 いま戦えばお前は死ぬ。

 それどころか、あれはわたしですら殺すだろう。

「そうだな」

 ヨヨの遺体を見つめて、決意する。

 カナンは自分の体の底から魔法力を搾り出した。これから行う呪文は本来長い時間をかけた準備が必要であり、この場の思いつきなどで成功させるのが難しいものだった。材料はある。カナンはヨヨの血で両掌を染めた。地面に魔法陣を描いていく。

 やめろ。それはわたしのものだ。貴様が独断で使っていい呪文ではない。

 賢者の魂がカナンを妨害しようとする。

「黙れ」

 カナンは自分の第三の目を握り潰した。

 カナンの内側で賢者が絶叫する。

「悪いな、“賢者”。どうやら賢者というのは私の代で最後らしい」

 そうして額に突っ込んだ指の中から、凄まじい魔法力の塊を引きずりだす。

 千獣王レンクウの魂だ。

「天臨呪文」

 カナンはそれをヨヨの肉体に与えた。

 天臨呪文は魂だけの存在に肉体を与える呪文だ。かつてニナがこの呪文を用いて、カナンに賢者の魂を与えた。そして擬似勇者と賢者は材料が違うだけで同じ物だ。肉体の本来の器と異なる魂を与えられているもの。

 カナンはヨヨを擬似勇者へと作り変えようとしていた。

 魔法力の消耗が激しい。カナンは自分の魂が磨り減っていくのを感じる。スーライルが肉体を分解して魔法力に変えていたが、あんなのはやつが死体だからできることだ。ふつうは先に魂のほうが燃え尽きる。

 すべての魔法力を使い果たして、カナンは糸の切れた操り人形のように倒れた。

 二度と目覚めることはないだろう。と、途切れ行く意識の中で思う。

 彼の前で、ゆらりとヨヨが体を起こした。




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