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最後の戦い 1


 オウルウの居場所を掴んでいた我々は、十数人のパーティで一斉にその場所へと瞬間移動呪文を使いました。先ず見晴らしのいい崖の上に移動します。そこでオウルウの居城を眼下に納めました。

 門前の広場に大勢の魔物が集っていました。

「さて、先ずはあれを突破する必要があるな。どうする?」

 カナンが皆を見渡しました。

「雑魚は俺が引き受けよう」

 槍斧を背負った眼帯の中年男が言いました。

 “竜戦士”アモン=ルオルゲン。長年『剣の在処』の代表を務めている方です。フリューがいなければ勇者のパーティに声がかかっていたと言われるほどの実力者。「じゃああたしがサポートするわ」と買って出たのは魔女帽子を被った背の高い女性、『万魔殿』の序列三位の魔法使い、“絶壁”のミルファ=アウローラ。氷刃呪文の達人で、大陸北部の魔物を一手に引き止めて食い止める、アトーさんやスーライルに次ぐ実力者です。余談ですが異名で呼ばれるとぶちギレるとのこと。主に胸部との関連で。

「待て待て待て、それではオウルウを倒す戦力が足りんだろう。それにあなたがた二人を切り離して、城の内部の敵はどうする?」

「旦那がいれば充分だろ。なあ?」

 アモンが、戦士フリューの肩に手を置きます。フリューは気だるげにそれを見て、興味なさそうに視線を揺らします。先ほどからなにを考えているのかさっぱりわかりません。

「それにあんだけの数を門前に投入してるんだ。城内まで魔物だらけってのは考えにくいんじゃないのかい?」

「……」

「あんまりのんびりしてるわけにもいかないんだろ? はじめようや」

「しかし」

「いまさら臆病風に吹かれたなら黙ってみてな坊ちゃん」

 アモンは獲物を前にした肉食獣の笑みを浮かべて、カナンを嗤いました。強く地面を蹴って、崖上から跳躍。「竜体変化呪文」空中で唱えます。魔法力を帯びて槍斧が巨大化。彼自身の体も膨大な質量を持つ、二足歩行の緑色の竜へと変化していきます。大きさは高さにして人間の三倍、幅にして四倍ほどでしょうか。闘竜という種類の竜種です。四足歩行ではなくなり敏捷性を発揮できなくなった分、手が発達していて武器を持つことができ、より破壊力に特化している種別となります。魔物の群れの中に飛び込んで、炎のブレスを吐き、槍斧を振るって殺戮を振り捲きます。アモンは竜と契約し「使い続ければ理性のない魔竜と化す」という竜体変化呪文のデメリットを克服した唯一の人間です。いつのまにかその肩にミルファが乗っていました。「極大氷刃呪文」天空から嵐のように降り注いだ雹の散弾が、広域の魔物を穴だらけにします。重力加速度を得た氷弾は獣人達が掲げた盾を易々と貫通。城の屋根が粉砕。地面が血で塗れます。惨劇の雨が降り注いで、魔物の死体が地面の上に溢れます。雑兵レベルのモンスターでは、まるであの二人の相手になっていません。

 《剣の在処》と《万魔殿》の戦闘員達が二人に続いて突撃していき、魔物を蹴散らします。戦士フリューがそれを傍観していました。無造作に崖から飛び降ります。「我々も行こう」私が頷きカナンの手を掴んで跳躍します。

「……調子に乗らないでください」

 聞き覚えのある声が空の上から降ってきました。咄嗟に反応したミルファが離脱。巨体ゆえに逃げ遅れたアモンが、上空から一閃した黒い魔法力の蛇に胸を貫かれました。

「やれやれ。つまらない仕事を引き受けたものです」

 黒髪の子供――破壊神ヴァルオンが黒蛇の背に乗って優雅に地表に降りてきました。

 ミルファが即座に極大氷刃呪文を放ちます。広範囲を薙ぎ払うことを目的としていた先ほどの散弾と違って、一点を破壊することに特化した一振りの氷の魔剣が生み出されます。「児戯ですね」高速で放たれた魔剣に蛇の全身が絡みつきました。締め上げ、速度を、殺し、砕きます。闘竜が胸から血を流しながら槍斧を振り上げました。

「執念は買いますが、それだけで我々には届きません。寝ていなさい」

 蛇の尾が斧を打ち払いました。刃の部分が圧し折れて遠くで呪文を構えていた万魔殿の魔法使いに激突、殺します。同時に蛇が闘竜の首筋に顎を当て、その首を噛み砕きました。

「っ……」

 ヴァルオンの破壊力は圧倒的でした。あの劣勢になるや否や「話し合いましょう」と嘯いていたヴィストと同一人物だとは信じられません。迂闊に近づけば私もアモンやミルファの二の舞。そう思っている私の隣を、戦士フリューがずかずかと大股で歩んでいきました。興味がなさそうにヴァルオンを一瞥します。

 ヴァルオンが彼に向けて黒い蛇を振るおうとして「氷鳥呪文」突如空を埋め尽くした透明な鳥達を迎撃するために向きを変えました。鳥は雨のように垂直降下したかと思えば、黒い蛇の体をかわそうと翼の向きを変えて滑空します。それでも超高速を誇る黒蛇の前に幾つも薙ぎ払われて落ちていきましたが、幾つかは方向を変えてヴァルオンに迫ります。ヴァルオンが短い左腕を振ってヴァルオンが氷鳥を砕きます。左手がわずかに凍り付いていました。軽く振って氷を払います。

「行って」

 ミルファが私に言いました。「倒せるかはわかんないけど釘付けにしとくから」私は頷きます。カナンの手を掴んで跳躍。門に向かいます。「申し訳ありませんが、仮にも門番ですので」氷鳥の群れを払いながら、ヴァルオンが黒い蛇を私たちに放ちました。戦士フリューが庇うように私たちの前に立ちました。両手を上げて「極大硬化呪文」と唱えます。黒蛇とフリューが激突。彼の踵が大きく地面にめり込みます。

「……あなたは本当に人間ですか」

 しかし戦士フリューは一切傷を負っていませんでした。それどころかその握力で黒蛇の顔を握り潰しました。そしてヴァルオンの背後で大きな影が立ち上がります。「ほんとうにしつこいですね」鋼竜と呼ばれる特に硬い鱗と外皮を持つタイプの竜へと変化したアモンが爪を振り上げていました。ミルファが「氷嵐呪文」とさらに呪文の形を変えます。吹雪が一体に吹き荒れていました。

 カナンが門を開けようと手を突っ張っていますが、大門を前にして膂力が足りていませんでした。

 私なら。と思った隣をフリューが冷めた目で「下がれ」と言いました。剣の一閃で、あっさりと門を切り裂きます。音を立てて、金属製の分厚い門が倒れました。カナンが呆れて口をぽかんと開いていました。

「ねえカナン。ちょっと思ったことを言っていいですか」

「言わなくていい」

「あの方、レンクウと大差なくないですか」

「言わなくていいと言った……」

 私とカナンとフリューは城内に侵入しました。



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