決戦の日まで 3
クロノさんの探知呪文がオウルウの居場所を突き止めました。やはりというべきか黒の大地の只中です。地図を持ち出したカナンが緯度と経度を確認して現在地のそれと照らし合わせて次元演算を行っています。
「さすがに二人で黒の大地に突撃するのは、ちょっと心細いですね」
「クロノを通して『剣の在処』と『万魔殿』に増援を依頼した。費用は光の国と中央諸国連合持ちだ」
「わお」
太っ腹ですねえ。まあ放置すれば大陸が吹っ飛ぶので当然といえば当然ですが。
むしろ大陸が吹っ飛ぶにも関わらず、クロノさんを国に封じたままの闘の国のほうが異様でしょうか。
「どうでもいいが、アトーはかつて単独で黒の大地にオーブを取りにいったらしい」
しかしもっと異様なのがいました。どういう神経をしてるんですか、あの人は。
あんなに泣いてばっかりで恐がっていたのに、魔物の巣窟である黒の大地は全然平気なんですね。さっぱりわかりません。
「まあ少しはマシな戦いができるだろうよ。《剣の在処》の代表である戦士アモンや、《万魔殿》の序列三位の魔法使いミルファなども参加するらしい。光の国の神殿騎士団からも有力なのが何人か来るそうだから」
「総力戦ですね」
「ああ、そうだな」
総力を賭けて挑むということは負けたときのリスクが甚大であるということです。負けたときのことを考えていながら勝つことは困難である、というのもまた事実ではあるのですが、どうしても目が行ってしまいます。
「あとのことはクロノに任せればどうとでもなるだろうよ」
見透かしたようにカナンが言いました。
「……信頼しているのですね?」
「勇者が殺されている我々の時代の唯一とも言える希望は、クロノとアトーとスーライルが一世代に集っていたことだろうな」
「ふうん。すごくクロノさんの評価が高いんですね」
「前も言ったと思うが、あれは五年も真面目に修行すればアトーやスーライルに匹敵する使い手になるだろう。もしくはそれを超えていく人間になるやもしれん。あれもまた人間の限界を踏み越える越境者だよ」
私はレンクウを殺した極大邪雷呪文の破壊力を思い出します。限界突破・極大池閃呪文の威力が大地を割ったことを思い出します。あの呪文が敵に及ぼした被害はおおよそ3000を超えていたでしょう。
きっと彼女は直線的な破壊力においてこの時代で最大の魔法使いです。
「ところで」
カナンが話題を変えました。
「戦力の結集までいましばらくの時間がかかるらしい。具体的には丸二日ほど余裕がある。君はどうするかね?」
「どうするって言われても、って感じなんですよね」
私は遠い目をしました。国が滅び、親族が皆殺しになりましたから別段最後に挨拶をしたい誰かがいるわけでもありません。流星呪文の完成まで時間がないというのならさっさと乗り込んでしまいたいくらいです。
「予定がないなら少しわたしに付き合わないか」
「なにかやるんですか」
「いいや、デートに誘っているのだよ」
「はい?」
「気晴らしと言うやつだ。深い意味はないよ」
「はぁ。そうですか」
まあやることがあるわけではありませんから、少し付き合ってもいいでしょう。私は曖昧に頷き、カナンの表情をうかがい見ました。彼は普段通りの表情の読めない笑みに似たものを張り付けているだけでした。
「では」
カナンが仰々しく私の手を取りました。
男性の筋張った硬い手が優しく私を掴みます。それがおかしくて私は吹き出しそうになりました。
瞬間移動呪文によって私とカナンは移動しました。




