千獣王 2
首だけで瞬間移動呪文を使ったヴィストは、自分の隠れ家にある玉座に戻ってきた。
そこは薄暗い洞穴で、真の姿がマッドマンである彼にとっては適度に湿度を帯びた良質の土に恵まれ、居心地のいい場所だった。
「ふう、まったくひどい目にあいました」
周囲の泥を取り込んで肉体を再構成しようと転がって地面に降りて、ヴィストの首は何かにぶつかった。ヴィストはそれを見上げたが薄暗くてそれの全容は掴めなかった。ようやく目が慣れてきて、彼は彼らしかぬ「ひっ」という間抜けな悲鳴を上げた。
2メルトルはある巨躯の大男がヴィストを見下ろしていた。鍛え上げられた筋骨隆々の肉体を持ち、炎に似た明るい色の髪と髭を生やしている。
魔王下七武衆の一体、“千獣王”レンクウが狭い洞窟の中で窮屈そうに立っている。
ヴィスト以前、彼の軍勢を攻撃している。ゼミスの空砦に備わる兵器の威力を試射しておきたかった。そして次代の魔王として最も有力視されているレンクウの実力を削いで置きたかった。人間の町を標的に選んでは以降警戒されて初撃の破壊力が薄くなると判断した。
レンクウは無言でヴィストの頭を踏みつけた。肉体を滅ぼされても死に至ることのないマッドマンであるヴィストだが、核を破壊されれば死ぬ。そしていまその核は彼の頭蓋の中にある。レンクウが少し力をいれればヴィストは殺される。
「待ってください。話し合いましょう」
「話し合いもせずに一方的に攻撃をしかけてきたのはどちらか」
鋼の声でレンクウが応えた。
命運が尽きたとヴィストは半ば諦めた。
「俺は魔族同士の殺し合いを好まぬ。ゆえに一度は見逃そう。二度はない」
赦しの言葉。
レンクウの声色は未だ殺気で満ちており、安心できるものではなかった。
「だが貴様の所業は捨て置けぬ。無罪放免では貴様に殺された同胞にも面目が立たぬ。ゆえに」
レンクウはヴィストの核を正確に半分だけ踏み割った。
「しばし地獄を彷徨え」
ぎいいいああああああああああっ。と声にもならないヴィストの悲鳴が洞窟の中にこだました。
レンクウが洞窟を出て行く。
待ち受けていた彼の配下が「いかがなさいますか」と訊ねた。
「妨害は排除した。当初の予定通りだ。件の布告に応じなければ、闘の国を落とす」




