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天空城を巡る冒険 6


「単刀直入にアトーの言葉だけ伝えるよ」

 カナンが一通りの事情を説明するのを聞いてから、無駄に偉そうなちびっこが言いました。

 彼はルイ=ライズという名前だそうです。勇者のパーティの一人でした。

 ぶっちゃけこんなお子様が勇者のパーティの一員だなんて信じられませんでした。袖の長いぼろい服に着られているさまを見ていると本当にただの不機嫌な子供にしか見えません。彼は世界の誰も信用していないような澄ました顔をしていましたが、その様はなんだか強がっているときの弟のロバートに似ていてかわいいと思いました。

「“私は誰にも会いたくない”。それだけ。じゃ、僕は帰るよ」

「待て待て待て待てっ。きみは我々の話を聞いていたのかね!? 国一つが滅ぶかもしれないのだぞっ」

「それ僕にもアトーにも関係ないよね?」

 さらりと言います。

 どうやら相当空気の読めない子のようです。

「だいたい虫が良すぎるんだよお前ら。ちょっと前までは殺そうとして追い掛け回してたのに今更協力しろだなんて、ふざけてるでしょ? 愛想をつかされたのさ。他をあたるんだね」

 言うだけ言って部屋を出ようとしたルイに、カナンは杖を向けました。

「なんのつもりさ」

「きみを捕らえて尋問する」

「いやいや、それはわかるよ? 聞きたいのは」

 不意に、部屋の中を強烈な魔法力が吹き荒れました。

 ルイ=ライズが抑えていた自分の魔法力を解き放った。それだけです。

 それだけですが、背筋に悪寒が走ります。禍々しい魔法力でした。人間の物とは思えないくらい。

「お前ら程度がそれをできると思ってるのかって話だよ」

「やらねば易の国が滅びるだろうな」

「へえ。まあいいけど。さすがにここで戦う気じゃないだろ? 場所を移そうか」


 私たちは街を出て、フリューさんと最初に出会った平原のあたりまでやってきました。

 二十歩ほどの距離をとってカナンが杖を構えます。私は邪魔にならないように二人を見ていました。

「いやいや、そっちのお姉さんも準備しなよ?」

「え」

「二人がかりじゃないと相手にもならないだろう? まあお前ら程度じゃ二人でもどーにもなんないだろうけど」

 ……ちょっとプライドに障りました。

 くそ生意気な小僧っこです。お姉さんが性根を叩き直してやろうと思います。

 私は旋風呪文を唱えて大気を収束、圧縮します。

「じゃ、行くよ。いまからお前を攻撃するよ?」

 ゆるりと左手をあげてカナンを指差します。

 勿体ぶった、余裕ぶった動作でした。

「御託はいいからかかってきたま――」


 ルイ=ライズが、

       消えました。


 違います。超高速で動いただけです。二十歩あった距離がほとんど一瞬で喪失。呼吸とまばたきを“聞いて”私とカナンの集中が切れる一瞬を狙って、ルイはカナンの背後にいました。賢者だのなんだのと大法螺を吹いて、上級魔族を手玉にとってみせたあのカナンが、なにもできずに首の後ろを掴まれて地面に引き倒されました。短剣を首に突きつけて「これでお前は一回死んだ」冷たい声で言います。

 飛び込んだ私がまわしげりを放ちます。軽いバックステップで蹴りの範囲を逃れ、小さな何かを投擲しました。私は風圧の膜でそれを防御、ですが面積の小さいそれは風の影響を最小しか受けずに私の肩の肉に突き刺さります。「いっつぅ……」それは透明な分銅でした。

 さらに連続しての投擲。私は分銅を風膜で受け止めて速度を鈍らせてから回避。回避しつつ、圧縮空気の噴射で超加速して彼の懐に潜り込みます。

どうやら直線の速度では私のほうが速い様子。バックステップして間合いを外そうとして、しかし逃げ切れないと判断したルイは足を止めました。袖の下からブレードが伸びます。カウンター狙い。ですがやはり直線の速度では私のほうが速いので間に合っていません。

左鉤突きが顔面を捉えた――はずでした。ルイは首を捻りました。あたったはずの私の拳は彼の頬に擦り傷を作っただけ。ヘッドスリップ。首の動きだけで打撃の威力をいなされました。ルイが私の左腕に優しく短剣を沿わせます。斬るつもりなら動脈が深々と切れているはずです。悪寒に襲われながら右足を振り上げてルイを振り払おうとしますが彼は半身になって蹴りをかわします。心臓の前で短剣が止まりました。

「お前も一回死んだね」

 少し遅れて私は圧縮空気の噴射でルイをふっ飛ばします。ルイはとくに慌てることも体勢を崩すこともなく吹っ飛ばした勢いにあわせて後方跳躍し、静かに着地。

「ぬるいんだよおまえら」

 呪いのようなルイの言葉を振り払うように、カナンの爆裂呪文が六つ同時に襲い掛かりました。逃げ場のない全包囲攻撃でしたが、ルイは内一つに分銅を投げつけて誘爆させ、空白位置を確保するとそこへ飛び込みます。

 (信じがたいことに)近接格闘でこのちびっ子に勝てないことを悟った私は旋風呪文で周囲の土を巻き上げ、蹴撃に乗せて前方の空間に放つ「風鳴流・煙砂」を選びました。砂の粒が風に乗って加速。高速で殺到。人間を容易に穴だらけにする威力を持っている砂の礫に対してルイは「爆裂呪文」を唱えました。爆発によって砂の勢いが粉砕され、私の技は威力を無くします。弾けて逸れた砂の粒が近くにあった木をへし折りました。

「時間加速呪文」

瞬間、ルイ=ライズの顔が目の前にありました。「解除」水月に的確に膝を叩き込まれます。胃の中が攪拌されて嘔吐感がこみ上げましたが無理矢理飲み下します。体格が小さいせいか威力は私が堪えられる程度でした。足払いをかけます。「おろ?」間抜けな声を出した宙に浮いたルイの服を掴んでねじ伏せようとしました。すると、びりり、服の布が破れました。

「ばーか」

 声と同時に顎が蹴り上げられました。ルイの服はわざと縫い目を脆くしてあったようです。服を掴んだのは打撃では彼を捉えられないと思ったからなのですが、思いっきり裏目にでました。頸動脈に短剣を突きつけられて、「二回目」とルイが言います。最早悪魔の声でした。逆に私の服を掴んで、呪文を構えているカナンの前に盾のように突き出しました。顎を蹴られたせいで脳みそが揺れていてカナンの姿が二重に見えています。ぐぬぬ。

「撃たないの?」

 ルイはかけねなく嘲笑しました。

「おまえは、なにものだ……?」

「“勇者のパーティ”だよ」

 私を蹴りだします。カナンが杖を引いた瞬間、再び謎の超高速移動を行ったルイがカナンの背後にいました。そこへ、「氷刃呪文」氷の柱が地面から突き立ちました。敵の動きを先読みした完全な不意打ち。――を、造作もなくかわしてルイは、とん、と軽く氷柱に足をつきました。氷柱を足場にして勢いをつけたルイが、カナンの背中を蹴り飛ばしました。

「お前程度の魔法力隠蔽は僕に通用しないよ」

 投擲された分銅が転倒したカナンの頭の横に突き刺さりました。

「これでお前も二回死んだ」

「っ……」

 恐ろしい戦闘能力でした。

 私とカナンの二人を相手取って息も切らしていません。

 私たちは圧倒されています。ほんとうに人間なんですかこの子は。

 それはともかく、なんだか私はちょっぴり楽しくなってきました。

私は「極大旋風呪文」と唱えます。大気が大きく攪拌され小規模な竜巻が起こります。私が巻き起こした低気圧の中心に吸い込まれるように風が吹き込んできます。私はそれをすべて圧縮して身に纏いました。「へえ」可笑しそうにルイが私を見ました。小ばかにした笑みでした。そして彼の感想は正しいです。

 極大旋風呪文は私の切り札です。これだけの量の風を纏えば攻防力は跳ね上がります。が、私自身が風圧を制御しきれないので武闘家の要である速度と正確さが鈍るのです。完全な本末転倒です。そうして鈍った速度と正確さの中では、瞬間的に超高速移動を用いることができるルイを追うことができなくなります。

ですが、現在の私の戦力で、悪魔的な強さを持つこのルイ=ライズに抵抗する方法は他にないでしょう。

 情けないことに私は既に「勝てる!」とか「勝とう!」とかいう気持ちを持っていませんでした。ただ私の全力が彼にどこまで通じるか、試してみたくなったのです。

「おもしろいね。まぐれでも僕に一撃あてれたらお前らに協力してやるよ」

 ま、無理だろうけど。

 私たちを嘲弄するルイ=ライズは接近戦を避けませんでした。

 あくまで私の間合いで圧倒してやるという心積もりの模様。



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