天空城を巡る冒険 3
「きみ、あれはなんだと思うかね」
カナンは私の腕をくっつけながら、窓の外の快晴の中にたった一つ浮かんでいる雲を見上げて言いました。
「なにって、雲ですか」
「やはりそう見えるよな。わたしも帰りがけに軍に相談してみたが、一笑に附されただけだった。“貴行はあれが雲以外のなにかに見えるのかね?”、金的を蹴り飛ばしてやろうかと思った」
「話が見えません。あれは雲ではないんですか?」
「うん、幻惑呪文の塊だよ」
「幻惑呪文の塊?」
「中に城があるのだ」
私はカナンの額に手を当てました。
「……なんだね」
「熱に浮かされて正体を失っているのかと、あいたっ」
ぽかりと殴られました。
「きみ、自分よりも正気を失っている人間を見たことがあるかね?」
「なるほど、ありません。それは失礼しました」
「自覚はあるのか!?」
なんだか驚嘆されます。
えへへ、それほどでも。
まあそれはさておき。
「カナン、お城は空を飛びませんよ?」
「飛んだのだよ、昔は」
「はい?」
「精霊の時代は城が空を飛んだのだ」
「はぁ」
私はもう一度カナンの額に手をあてようとしました。
機先を制してカナンが私の額をチョップで叩きました。
「そして城から雷を落として魔族共を焼き殺したのだ」
「ふうん。え? それがあんなところにあるんですか」
私は空を見上げて、青い空の中にただ一つ浮かんでいる大きな雲を見ました。
それは風に乗って緩やかに流れていて、もう数日もすればこの国のほぼ真上にやってきます。む? そういえばこの季節の風は海側から大陸側に、東から西へ向けて吹くはずですが、あの雲は風と逆向きに流れている気がします。上空の風の流れは地表近くとは異なるらしいとか聞いたことはありますが。ふむ。
「……魔族共を焼き殺すんですか?」
「それならいいのだがね、どうやら乗り込んでいるのはその魔族らしいのだよ」
「迎撃は?」
「不可能だろうね。あの高度まで呪文は届かないし、あそこまで瞬間移動できる魔法使いというのはなかなかいない。わたしもできない」
「ど、どうするんです?」
「なかなかいない、というだけでいることはいるのだよ。で、わたしの本来の目的をすすめようと思う」
「はい?」
「わたしは元々アトーという後輩を探して旅をしていたのだ。あの引きこもり娘はやることもやらずに食うものも食わずに自分の世界に閉じこもっているだろうから、一つ引きずりだして説教でもくれてやろうと思ってね」
「その方ならば、天空城に届くのですか?」
「おそらくは」
はぁ。なんだかよくわからない話でした。
「あてはあるのですか」
「なくはない、といった感じだ。心当たりはすべて探して世界を巡り、彼女はどこにもいなかった。見つからなかった。知っていそうな人物には突き当たったのだ。しかしはぐらかされてしまった」
「その人の下へもう一度?」
カナンが頷きました。
「きみもついてくるかね?」
「お城の上の魔族を倒すために私の助力は?」
「情けないが必要だろう。冒険者ギルドの連中にわたしの話は通じまい。連中にあれが幻惑呪文の塊だと気づくような脳みそはない。『万魔殿』の本部に連絡はしたが、この時代にあってあれは恐ろしく多忙な集団だ。まともな戦力は回せんだろう。となると必然、きみの助力が要る」
「では行きます。行かせてください」
私は左掌に右拳を叩きつけようとして、寸前で右手を掴まれました。
「くっ付いたばかりなのに、負荷をかけようとするなバカモノっ」
「む、バカモノバカモノと頭にきますね。バカっていうほうがバカなのですよ!?」
カナンは一瞬真顔になったあと手で顔を覆いました。
「ま、ともかく武闘家ヨヨ、一緒に戦わせていただきます。よろしくお願いします」
「……よろしく頼むよ、きみぃ」
ひどく疲れた声でカナンが言いました。




